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新生銀行対SBI 敵対的TOBに

関口 博之  解説委員

ネット金融大手のSBIホールディングスによるTOB=株式公開買い付けに対し、新生銀行が先週、「反対」を正式に表明しました。
銀行の買収では事前に十分協議をした上で手を組むというのが普通で、今回のような敵対的なTOBは極めて異例です。きょうはこの対立の行方と、その意味合いを考えます。

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解説のポイントはこちらです。
▽まず新生銀行が反対表明に至るまでの経緯を振り返ります。
▽次の焦点は、新生銀行が11月に開く臨時株主総会です。
▽そして新生銀行には過去に投入された公的資金が残っていて、国が大株主であることも、今回見逃せないポイントです。

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SBIホールディングスはもともと、新生銀行の株の20%余りを持つ大株主でしたが、先月9日にTOBを発表。新生銀行株の最大48%を取得して子会社化し、役員体制も見直すと表明しました。買い付け価格は1株2000円で直前の株価より40%近く上乗せしました。

これに対し新生銀行は、事前協議もなく唐突なTOBだと賛否を留保しつつ、同時に買収防衛策の導入を発表しました。防衛策は、SBI以外の株主に新株予約権を割り当てることで、SBIの持ち分を薄める「ポイズンピル」と呼ばれるものです。
こうして攻める側の「矛」と守る側の「盾」の攻防が始まりました。
そして先週、新生銀行の工藤社長が会見し、SBIによるTOBの提案は「株主共同の利益にならない」として正式に「反対」を表明しました。

ただ、一方では、
▽SBIが買い付けの上限を撤廃し、
▽買い付け価格も引きあげるという2つの条件を満たせば「賛同」するとも述べ、協議に臨む姿勢も見せました。

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そこで今後の見通し、想定されるケースを整理してみます。
新生銀行が出した2つの条件について、SBIは即日、拒否する考えを表明しました。条件交渉次第では新生銀行も賛同し、同意の上での買収というシナリオもありえたのですが、この可能性は低くなりました。

となると次は、買収防衛策の発動の賛否を問う、新生銀行の臨時株主総会が大きな焦点になります。今回の防衛策は、あらかじめ用意していたものではなく、買収者が現れてから作った「有事導入型」です。ですから、新生銀行もその発動は、株主の意思を確認してから、としたわけです。

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株主総会は11月25日に設定されました。ここで買収防衛策が賛成多数で可決されれば、SBIがTOBそのものを取り下げる可能性も出てきます。あるいはTOBが続行され、その成立か、不成立かで
決着をつけるという展開もありえます。

一方、反対多数で否決された場合は、そもそもTOBに賛成の株主が多いということですから、TOBは成立する公算が高まります。臨時株主総会に向け、双方の陣営が株主に支持を求めるアピール合戦を繰り広げることになりそうです。また、公的資金投入の見返りとして大株主になっている国が、この株主総会にどう対応するのかも注目です。ここで株主の判断を左右する重要な要素が、新生銀行の現経営陣とSBI、どちらの経営戦略が新生銀行の将来の「企業価値の向上」につながるか、という点です。そこで、これまで両者の構想を改めて見てみます。

まずSBI側です。

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SBIはかねてから「第4のメガバンク」を目指すと自らの構想を掲げてきました。この中では地方銀行と連携し、それぞれのサービスを高め、収益力を上げることで共存共栄をはかる、「地銀連合」をうたっています。すでに、8つの地方銀行と資本提携もしています。
当初は、新生銀行をこの連合の中核になる銀行、パズルの重要なピースにするのが目的ではないか、とも見られていましたが、SBIはこれについては否定しています。

SBIが今、強調するのはグループの柱である「ネット証券」と新生銀行の銀行口座を連携させ、お互いに顧客を広げることです。またネット顧客と、新生銀行の個人向け無担保ローンの利用者は、どちらも若者が多いとして、若い顧客層が取り込めると、シナジー効果を謳っています。ただ、新生銀行はすでに別のネット証券と提携していて、新たな連携がどこまで収益に貢献するかは、定かではありません。

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一方、新生銀行側の計画です。
新生銀行は自らの強みとして、個人向けの無担保ローンやクレジットカードなどの「小口ファイナンス」と「機関投資家向けビジネス」の2つの分野を挙げています。自社単独の事業拡大に加え、他社を買収するM&Aも活用しながら成長を目指すとしています。さらに「中長期的な企業価値向上に資するパートナー」も模索していて、資本・業務提携先の選定に取り組むとしています。これには、敵対的買収に対抗する友好的なスポンサー、いわゆるホワイトナイト(白馬の騎士)になってくれる企業を探すという意味もあります。

ただ新生銀行の戦略も具体性には乏しいのが実情です。
ホワイトナイトについても、今から手を挙げてくれるところがあるのか、株主総会や12月8日のTOB期限までといった短期間で協議をまとめられるのか、疑問視する声もマーケットでは少なくありません。

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新生銀行がどういう戦略を描くかは、銀行の融資先や預金者にも気になるところですが、それ以上に、新生銀行の企業価値の向上は、より大きな意味でも重要な課題です。というのもこれは、大手銀行で唯一、残っている公的資金の返済がどうなるか、に関わってくるからです。新生銀行の前身は、経営破綻した日本長期信用銀行です。
長銀には1998年にまず一回、その後の特別公的管理・一時国有化、そして外資系の企業再生ファンドへの売却を経て、2000年にも公的資金が投入されました。

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その後、一部返済が行われ、今も残る要返済額はおよそ3490億円です。この公的資金の見返りに国は新生銀行の普通株をおよそ21%を保有しています。公的資金を返済するには、銀行は株を国から買い取ることになります。ところがこの株は、市場で取引されている普通株なので、「株主平等の原則」からして、国から買い取る分だけを「高値」で買うことはできません。要返済額3490億円を国が持っている株数で割ると、公的資金の返済が可能になる株価水準はおよそ7450円になる計算です。

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それに対し、こちらが過去1年間の新生銀行の株価ですが、1200円台から1900円台の間にとどまっています。目標になる7450円とは大きくかけ離れているのが現状なのです。ちなみに、グラフが9月以降大きく跳ね上がっているのは、SBIによるTOBが発表されたからです。

公的資金の返済には、企業価値を着実に高め、株価を上げることが不可欠なわけですが、これまでの取り組みでは不十分だったと言わざるをえません。どうこれを可能にしていくのか、今回のTOBの攻防を通じて新生銀行・SBI双方に問われることになります。

税金から投入された公的資金について、今度こそ返済の見通しが見えてくるのかどうか、1998年のいわゆる「金融危機」から23年がたち、その後始末として、国民の立場からも関心を持たざるをえないテーマです。

(関口 博之 解説委員)


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