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世界経済に変調 エネルギー危機とその影響

櫻井 玲子  解説委員

原油、ガス、それに石炭といったエネルギー資源の価格が高騰し、企業の活動から、私たちの暮らしにまで、大きな影響を及ぼしています。
そこで、世界各地で起きている「エネルギー危機」の現状と、エネルギー価格高騰の理由。
そして「悪い物価上昇」をはじめ心配される、経済への影響について、お伝えします。

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【高騰する燃料価格】
エネルギー価格は、今、軒並み、高値が続いています。
▼原油はニューヨーク市場で、1バレル80ドルを突破。7年ぶりの高値です。
コロナの影響で去年春ごろには買い手がつかず、史上初めてのマイナス価格を記録したのにくらべ、需要が一気に膨らんでいます。
▼またLNG・液化天然ガスも、アジアやヨーロッパで、今年のはじめごろにくらべて4倍程度にまで価格が跳ね上がっているほか、
▼日本の火力発電所で使われている石炭も、史上最高値を記録しています。

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【世界各地で同時にエネルギー危機に】
この影響で、コロナによるダメージから徐々に回復をみせてきた世界経済は、各地でエネルギー危機が起きるという、新たな試練に直面しています。
▼中国では、電力の供給制限が行われ、一部の地域では「街の信号が消えた」ほか、日本企業の現地の工場も、操業停止に追い込まれるような事態が起きています。
政府が環境対策の一環として、電力供給を絞った、という形ですが、火力発電を抑制したり、オーストラリアとの対立で石炭の輸入を止めたりしたことで深刻な燃料不足に陥っているとみられています。
▼またヨーロッパも、冬を前にガス不足に悩んでいます。
ロシア産のガスの供給を頼りにしているものの、その量が予想より少なく、LNGを巡って、アジアの国々と争奪戦になっています。
▼さらにアメリカでは、石油関連施設が集中する地域をハリケーンが直撃したこともあり、ガソリン価格が上昇。
▼そして日本では、電気・ガスの料金がともに、3か月連続の値上がりとなり、この冬の電力需給が、過去10年間で最も厳しくなる見通しです。

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【資源高騰の理由】
では、なぜここまでエネルギー価格は高騰し、各地で危機的な状況が起きているのでしょうか。
今回、特徴的なのは、コロナからの回復による需要の急増と、各国ですすむ脱炭素化政策の影響、という2つの要因が重なったことです。去年はコロナ禍で、企業の生産活動が大きく抑制された上、暖冬だったこともあり、原油やLNGの需要が落ち込みました。
このため、ことしに向けては、生産を抑える動きがみられました。
ところが、ここにきて、各国で本格的に、経済活動が再開し、在庫が一気に足りなくなったのです。
これに加えて、各国が環境対策・脱炭素化政策を推進し、原油や石炭から、LNGや、風力・水力・太陽光といった再生エネルギーにシフトする動きが相次ぎました。
しかし、LNGの生産が、急激に増えた需要に追いつかず、価格が跳ね上がる、いわゆる「ガスショック」が発生。
また再生エネルギーも、天候不順による渇水や風力不足で、思ったほどの発電量を確保できませんでした。
そこで、各国は慌てて原油や石炭を確保し、使おうとしているものの、今度は産油国が先行きを心配して、増産に応じず、エネルギー価格が、軒並み、跳ね上がる形となっています。

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【広がる影響】
こうしたエネルギー価格の上昇は、さまざまなところに影響を及ぼしています。
▼まず、日本への影響をみますと、電気・ガスだけでなく、ガソリン代が前年比16パーセント、灯油代も前年比20パーセント上がっています。
その結果、一世帯あたりの年間負担額は、去年にくらべて4万6千円も増えるという試算(第一生命経済研究所による)もあり、個人消費を冷え込ませるのではと心配されています。
また、原油高を背景に、すでに2か月連続の貿易赤字となっているほか、中国から輸入している部品がエネルギー危機で値上がりし、コストが増えて、企業の業績に悪影響が及ぶことが心配されます。

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▼また、中国では、金属や繊維工場で生産がストップし、幅広い分野に影響が出ています。
たとえば、電力制限で減らされたシリコンやマグネシウムの生産が、半導体やアルミ合金の減産を引き起こし、ひいては、自動車の生産にも打撃となる、といった問題に直面しています。
この先をみても、地方で寒波が到来していることから電力不足が続き、国の経済成長を支えてきた不動産セクターの不振とあいまって、「第4四半期はゼロ成長に近い景気停滞に陥るのではないか?」という声すら、専門家からは、聞かれます。
▼さらに、ヨーロッパでは厳しい冬を前に、電力不足や暖房代の値上がりを心配する声があがり、フランスやスペインでは、急遽、支援金を出す方針を発表しています。
▼そして、アメリカでも、大型景気対策の効果が薄れつつある中、政府に対し、ガソリン価格の高騰を抑えるよう、求める声が強まっています。

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【「悪い物価上昇」の懸念】
さて、こうしてみていきますと、心配されるのが経済、そして生活への影響です。
「景気がよくなっているわけではないのに、物価が上がる」
「賃金がなかなか上がらないのに、物価が上がる」といった、
「悪い物価上昇」がすすむ可能性が高いからです。
景気が停滞し、物価全体が急上昇するといった、「スタグフレーション」の状態に陥る懸念もあり、ワクチンの普及でせっかく回復の途上にあった、世界経済の勢いに水を差す形になっています。特に日本では、円安もすすんでおり、エネルギーの国際価格の上昇は、人々の暮らしに、重い負担となります。

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そこで、気になる先行きの見通し、ですが、天候や需給に大きく左右されるエネルギー価格は、一転して、値段が急に下がるといった、乱高下を繰り返す可能性があります。
ただ、世界銀行は来年2022年もエネルギー価格がことしとくらべて2.3パーセント増の、高い水準になると予測しています。
というのも、地球温暖化の影響とみられる異常気象が各地で相次ぐ中、各国は待ったなしの脱炭素化政策を、後戻りさせるわけにはいかないからです。
このため原油や石炭の生産や、新しい投資は今後も手控えられ、その結果、エネルギー価格も、高どまりする可能性があるとみられます。

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IMF・国際通貨基金は、物価の上昇が来年半ばまで続くと予想し、各国に、必要に応じて対応策をとるよう、呼びかけています。
エネルギーを海外からの輸入に頼る日本にとっては、とりわけ、大きな課題となります。
エネルギーは日々の暮らしの必需品で、生活が苦しいから買わない、というわけにはいきません。
このため、値段が高ければ高いほど、所得が低い人に、しわ寄せがきます。
政府はすでに産油国に原油の増産を働きかけ、企業にはLNGの備蓄を増やすよう要請するなど、対応を急いでいますが、脱炭素化社会に移行する中で、その過渡期に、エネルギーを安定的に確保するにはどうすればよいか。
また、物価の上昇が続くのであれば、それにみあう形で人々の所得を増やすにはどうすればいいか、といった点についても、考える必要があるのではないでしょうか。

人々の暮らしを守るために、政府は足元の対策と、より中長期的な対策を、あわせて、検討してほしいと思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

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