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衆院選の争点『社会保障』 将来にも注目を!

牛田 正史  解説委員

10月31日に投票が行われる衆議院選挙では、消費税の減税や給付金の支給など、新型コロナウイルスで打撃を受けた「人々の暮らし」を、どう立て直すかが大きな焦点となっています。一方、暮らしの土台を支える「社会保障制度」も課題は山積みです。
目の前の対策だけでなく、将来的な社会保障の在り方も考えていかなければなりません。

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【消費税をどうするのか】

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社会保障とは、医療・介護・年金・それに子育て支援など、私たちの暮らしを支える制度です。
今回の総選挙で、この社会保障に深く関わる争点となっているのが「消費税」を減税するかどうかです。というのも消費税は社会保障の財源の1つとされているからです。

この消費税について、与党は、税率を引き下げる考えは示していません。
一方、野党の多くは、期間を限定するなどして、今の10%から、5%に引き下げるという公約を掲げています。消費税ゼロ、または廃止を訴える党もあります。

消費税を引き下げるべきか否か。それを考える上で、私は少なくとも2つのポイントを考慮しなければならないと考えます。
1つは「消費税の役割」、そして2つ目は「新型コロナによる生活の困窮」です。

【消費税の役割とは】
まず消費税の役割です。

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社会保障費はグラフの通り、年々増加しています。消費税はその財源とされています。
1989年に初めて3%導入されてから、社会保障費の増加などに対応するため、5%、8%、そして2年前には10%に引き上げられました。
では消費税は、社会保障の財源のうち、どれくらいの割合を占めているのでしょうか。
昨年度の、年金や医療などいわゆる社会保障4経費の国と地方分は、総額で44.5兆円ですが、財務省によりますと、このうち24.7兆円は消費税。半数以上を占めているということです。

【新型コロナによる生活の困窮】
一方で「コロナによる生活の困窮」についても考えなければなりません。
まず給与の減少です。

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昨年度(2020年度)の給与総額は、月の平均で前年度よりも1.5%減少しました。前年度を下回ったのは8年ぶりです。
さらに、コロナ禍で生活が困窮する人も相次いでいます。
収入が減った人に生活資金を貸し付ける「特例貸付」は、去年3月からことし10月までに、累計で286万件、貸付総額は1兆2000億円を超えています。
この件数は、感染拡大前と比べて実に100倍以上に増え、いかに大勢の人が厳しい生活を強いられているかが分かります。
こうした現状について、与野党問わず、多くの党が、新たな「給付金」の支給も公約に掲げています。
消費税を減税するかどうかは、社会保障の財源とされる役割と、家計の負担を減らしていく必要性の両面を考えて、選択していくべきだと思います。

【社会保障制度をどう維持していくか】
一方で、コロナ禍の緊急対策だけでなく、社会保障の将来についても考えていかなければなりません。まず挙げられるのは、厳しい財政が続く中、制度をどう維持していくかです。

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少子高齢化が進み、私たち個人や国などの社会保障への負担は年々重くなっています。
2019年度と、その20年前を比較しますと、個人や事業主が支払う社会保険料は約1.4倍、税金や国債などの公費負担は約2倍に増加しています。
社会保障給付費は今後も増え続け、高齢者の数がおおむねピークとなる2040年度には、約190兆円に達するという推計も出ています。
これに対応していくためには、さらなる公費の投入や、保険料の引き上げを迫られることになります。
もし、そこに限界が来ますと、社会保障のサービスを縮小するという「痛み」を伴う対策も、必要になってくるかもしれません。
各党は、目の前の緊急的な対策だけでなく、社会保障制度の長期的な財源、そしてサービスの在り方についても道筋を示していくべきだと思います。

【社会保障制度が抱える課題】
ここまでは社会保障制度の財政についてお伝えしてきましたが、ほかにも制度そのものが抱える深刻な課題があります。
コロナ対策の陰に隠れがちとなっているとも感じますが、目を向けていかなければなりません。

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まず、年金の支給額が少ないなどの理由から、生活を維持できなくなる人が相次ぐという高齢者の貧困です。
年金だけでは暮らしていけない、あるいは無年金で、生活保護を受ける高齢者が後を絶ちません。2年前の参議院選挙では、大きな焦点にもなりました。
生活保護を受給する高齢者世帯は増加し続けています。
2年前には、所得の低い年金受給者に、給付金を支給する新たな制度も設けられましたが、増加は続いています。
ことし4月には90万世帯を超え、この10年で46%増加しています。

そして「人手不足」。社会保障の担い手をどう増やしていくかも大きな課題です。
例えば介護職員。今も人手不足に悩む事業所は数多くありますが、今後、高齢化が急速に進むのに伴って、さらなる担い手が必要になります。
4年後の2025年度には、2019年度よりもさらに32万人、そして2040年度には、さらに69万人が必要と推計されています。
一方で、平均賃金は、ほかの産業に比べて月額で6万円近く低く、処遇を改善していかなければ、多くの人手は確保できないのではないかと見られています。

【社会保障の課題 各党の公約】
こうした社会保障が抱える課題に各党はどう対処しようとしているのか。
その公約の一部を見ていきます。

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「自民党」は、介護の受け皿50万人分を整備し、職員のさらなる処遇改善を進め介護離職ゼロを目指すなどとしています。
「立憲民主党」は、介護・医療・保育などで待遇改善を図り、希望する非正規職員は5年をめどに正規化するなどとしています。
「公明党」は、低年金の人などを対象にした「年金生活者支援給付金」の実施状況を踏まえ、さらなる拡充を検討、
「共産党」は、年金給付の伸びを抑えるマクロ経済スライドを撤廃するなどとしています。
「日本維新の会」は、給付付き税額控除かベーシックインカムの導入を検討、
「国民民主党」は、最低保障機能を強化した新しい基礎年金制度への移行を検討するなどとしています。
「れいわ新選組」は、介護・保育職の月給を10万円アップ、
「社民党」は、老後の安心を保障する社会保障制度の充実、
「NHKと裁判してる党 弁護士法72条違反で」は、ベーシックインカムの導入議論があれば前向きに議論に参加していくなどとしています。

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このように多くの党が、職員の処遇改善、そして生活の底上げを公約に掲げていますが、大切なのは実行性です。
処遇改善を図るなら、いつまでにどれくらい引き上げるのか。
生活の底上げを行うならば、その財源はどう確保していくのか、各党は、より具体的な政策を示していく必要があると感じます。

社会保障は、様々な課題を解決していくにも、制度を維持していくにも、さらなる資金が必要になります。これは極めて難しい、政治の課題だと言えます。
“先のことは後回し”というわけにはいかないと思います。
今回の選挙戦では、厳しい現実、そして厳しい将来にも目を向けた現実的な政策について、議論が交わされることに期待したいと思います。

(牛田 正史 解説委員)


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