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原発で続く不祥事 福島の教訓はどこへ

水野 倫之  解説委員

四国電力は今週予定していた愛媛県の伊方原発3号機の再稼働を当面延期することを決めた。緊急時の対応要員が無断で原発から抜け出していた不祥事が発覚、地元の理解が得られないため。緊急時対応要員は福島の事故を教訓に配置することになった、事故の初動の要。
福島の教訓は不祥事が相次いだ東京電力で生かされていないことが明らかになったばかりで、今度は四国電力でもかと、地元で懸念が。
伊方での不祥事何が問題なのか、対策は十分なのか、国のエネルギー政策への影響は
以上3点から水野倫之解説委員の解説。

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今週愛媛県が開いた専門家会合では、委員から四国電力に対して「基本の基本ができておらず、会社として自覚が必要。同じ問題が起きないようしっかりする必要がある」など厳しい意見。
対策は了承したものの、取り組み状況を定期的に報告してもらうことに。
愛媛県はさらに不祥事の検証を進め、地元伊方町の意見もきいて対応を決めることにしており、再稼働の見通しはたたず。

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問題の発端は、発電所の社員の不正行為の発覚。
会社の車で何度もガソリンスタンドで経費でガソリンを購入。一斗缶に入れてその後自分の車に給油。
去年、四国電力は社員を休職の懲戒処分、社員は自主退職。
ただ問題はそこで終わらず。今年6月になって「原発の規定違反ではないか」と内部通報。
再調査の結果、元社員がおととし2月までの2年間、ガソリンを得るために無断外出を繰り返していたのは、原発の緊急時の対応要員に指名されていた宿直勤務の時で、5回あった。
3号機では、夜間や休日に重大事故に備え、初動対応する社員を22人確保する規定あり。元社員の無断外出で1人減った状態が繰り返されていた。

規制委員会は、規定違反と認定。ただ当時非番の社員もいて要員の補充はできたとして再稼働を妨げるものではないとしながらも、「安全文化の劣化の兆候が考えられ、しっかりした対策が必要だ」と。

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四国電力は先月、報告書を公表。
原因については、元社員が原子力の安全への意識を欠いていたこと。車両の管理が不十分だったこと。発電所を出る時に特別な管理がなかったことが重なり、無断外出を防げなかったとしている。
対策として、社員に緊急時要員の重要性を認識させるコンプライアンス研修を徹底するのに加えて、スマートフォンのGPS機能を使って宿直者の所在を定期的に確認し、車両の管理の厳格化や発電所を出る時も特別な管理をするなどの対策をとると。

確かにハード面の対策がより強化されることになり、緊急時の対応要員が物理的に発電所を抜け出すことは困難になるとみられる。

ただそれだけでは十分ではない。
福島の事故の教訓が社員一人一人にきちんと根付いていておらず、発電所全体でいかされていない疑いもあるから。
教訓が行き渡っていないと東電の柏崎刈羽原発のテロ対策の不備のように、不祥事が繰り返されることになりかねない。

というのも今回問題となった緊急時対応要員は、福島の事故を教訓に新基準によって各原発に配置することが決まったものだから。

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福島の事故ではいち早く電源と水を確保し原子炉に注入する必要あったが想定外の事態に機材の確保に手間取ったり、機器の操作ができず冷却が遅れて水素爆発。放射性物質の大量放出。
これを教訓に新基準で、夜間や休日など手薄な時でも速やかに冷却ができる体制の整備が求められた、これが緊急時対応要員。
伊方原発では冷却や電源確保、配管接続などの訓練を受けた22人を配置する規定。
元社員は配管接続班6人の1人に指名されていたが、度々役割を放棄していた。

「重大事故の確率は高いわけではなく、短時間なら問題ない」と考えたのかも。
しかし会社として22人は必要としたわけで、一人欠ければ作業が順調に進まず冷却が遅れるおそれもあるわけで、元社員には福島の事故の教訓が根付いていなかったと言わざるを得ない。

さらに問題は元社員にとどまらず、ほかの社員や会社全体に福島の教訓が根付いているのか疑われる点が見受けられたこと。
会社は当初、元社員のガソリンの不正入手に絞った調査を行い、緊急事態に備えた役割を精査していなかった。
さらに元社員が宿直中に抜け出しているといううわさが広まっていたのに、今年6月まで誰も上司などに伝えていなかった。
福島の教訓が生き続けているのであれば宿直は大事な任務ということが全体に行き渡っていなければならないが、そうなっていなかった可能性があるわけで、会社全体がもう一回初心に立返り、教訓を根付かせていかなければならない。

四国電力では入社時や原発への配属時に福島事故の研修しているというが、例えば事故当時冷却作業にあたった自衛隊や東京消防庁の職員から、初動対応がどれだけ大変なのか直接話を聞くなど、社員の胸に刺さるようなインパクトのある研修をしていくことも検討を。

また緊急時対応要員は、個室に待機し続けるのが任務。
ただやることがなければ緊張感が薄れる可能性も。機器の点検や訓練を適宜行うなど、常に緊張感が保てるような勤務形態も考えてもらいたい。

さらに今回の不祥事の影響は四国電力だけにとどまらず、国のエネルギー政策への影響も考えなければ。

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政府は脱炭素社会に向けて、2030年の電源構成案で再エネの最優先の導入に加えて、CO2を出さない原発で20%~22%賄う目標。
その達成にはこれまで再稼働したり許可申請済みの27基全てのフル稼働が前提。
しかし柏崎刈羽や今回の伊方を見ていると果たしてフル稼働して目標達成できるのか疑問も。
中でも伊方原発は、福島の事故後2回裁判所から運転を認めない決定を言い渡され、その後認められてもテロ対策施設の完成が遅れて再開できず、その完成後も今回不祥事でまた運転できなくなっている。
2016年の発電再開以降5年で稼働できたのは836日、単純計算で稼働率は23%と、事故前の日本の原発の平均の70%近くと比べるとかなり低く、原発が安定電源とは言い切れなくなりつつあることを示している。
こうした状況で原発で20%以上の電力が賄えるのか、賄えない場合に火力発電を動かせばCO2削減が困難に。
政府は脱炭素に向けて、原発の役割や割合が計画案通りで達成できるのか、あらためて検討していく必要。
福島の事故から10年あまり、原発で続く不祥事は、事故の反省が全体的に風化している兆候。脱炭素に向けて今後も原発を活用し続けるのであれば、政府・電力業界はここで事故の反省と記憶を持ち続けるための対策をしっかり検討し、地元の懸念に応えていくことが必要。

(水野 倫之 解説委員)  


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