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「衆院解散 政治の流れは変わるか」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

衆議院が解散され、各党は、事実上の選挙戦に入りました。過去3回の衆議院選挙で、与党が安定した多数を占めてきた日本の政治の流れは変わるのかという観点から、今回の解散・総選挙の意味合い、そして選挙戦の焦点と争点を考えます。

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まず、今回の衆議院の解散・総選挙の特徴は、「短期決戦」であると同時に、「事実上の任期満了選挙」であることです。
自民党総裁選は9月29日でした。10月4日に岸田新内閣が発足。14日に解散。このあと19日に衆院選が公示され、投票日は31日です。総理大臣の就任から解散まで、わずか10日。解散から衆議院選挙の投票日までは17日と、いずれも戦後最も短い期間です。
自民党にとっては、岸田総理大臣の総裁選での主張と、所信表明演説など内閣としての方針、そして衆院選の党の公約を、この間に整理しなければなりませんでした。野党側は、岸田総理の総裁選での公約とその後の発言に「整合性がない」と批判しています。具体的な論戦は、選挙戦に持ち越されることになりました。
また、岸田総理としては、総裁選で訴えたことを実現できるかどうか。衆議院選挙の結果は、党運営にも直結するだけに、早くも試練の場を迎えることになります。
さらに、「短期決戦」は、選挙準備という点でも影響がでています。
自民党は、党内で候補者が競合し、公認争いとなった選挙区の難しい調整。野党側は、立憲民主党などの候補者の一本化調整が続きました。このため衆議院が解散されても、構図が固まらない選挙区もあるという事態になっています。

一方で、今回の解散は、10月21日となっていた衆議院議員の任期満了の1週間前ですから、「事実上の任期満了選挙」となります。本来であれば、各党とも満を持しての選挙になるはずです。今回は、かつての小泉政権の郵政解散や安倍政権の消費税率の引き上げ時期の延期など、重要政策の賛否を問うような「単一の争点」は見当たりません。それだけに、各党が、この4年間、何をしてきたのか。その取り組みや実績が問われる選挙という色合いが強くなるのではないでしょうか。
また、在任期間が長くなったこともあって、衆議院議長経験者や党の代表や幹事長など要職をつとめたベテランが立候補しないケースが相次いでいます。この背景には今回の選挙が終わると、いわゆる1票の格差の是正が行われる見通しで、とりわけ定数が減ったり、区割りが大きく見直されたりする地域では、バトンタッチするならこの選挙が望ましく、選挙後の候補者調整には、この選挙で勝って、現職で臨む方が有利だということも念頭にあるように思います。

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さて、衆議院選挙は政権を選ぶ「政権選択」の選挙です。ここからは、すこし長期的な視点から、今回の解散・総選挙の焦点を考えます。
小選挙区を中心にした「小選挙区比例代表並立制」が導入され初めての選挙は25年前の1996年。2大政党を軸に政権交代が可能とされたこの制度のもとで、今回の選挙は9回目になります。
この25年間、2009年には当時の民主党が政権を取り、3年後には自民党が政権を奪い返し、選挙による政権交代は実現しました。
ただ、ここ3回の選挙では、自民党が単独で過半数を維持しています。今回の選挙は、安倍政権・菅政権を引き継いだ岸田総理のもとで自民・公明の連立政権が安定して継続し、与党優位の状況が定着するのか。それとも、政権交代を目指す野党が勢力を伸ばすか。与野党の勢力が拮抗する形で緊張感ある政治になるのか。政治の流れという点で大きな注目点です。

また、今回の選挙は対決の構図にも変化が見られます。それが、野党側の候補者一本化の動きです。
この25年間。野党側は、与党と、どう対峙していくかで揺れ動き、政党の離合集散が繰り返されてきました。特に、この9年間は、衆院選で、野党第1党が100議席を獲得できず、低迷が続きました。今回は、289の小選挙区のおよそ7割の選挙区で、立憲民主党、共産党、国民民主党などの候補者が一本化される見通しです。また、立憲民主と国民民主は、連合との間で個別に政策協定を結び、立憲民主、共産、れいわ新選組、社民党が、市民連合との間で共通政策を締結するなど、政策面でも協力を深めています。
立憲民主党と共産党は、政権交代が実現した際、共産党が、締結した政策の範囲で、限定的に閣外から協力することで合意しています。
これに対して、与党側は「基本政策で違いがある政党が協力しても政権は安定しない」と批判していくものと見られます。
20年以上の協力関係を築いてきた自民・公明両党と候補者を一本化した野党側の2大勢力の対決の帰すうも焦点になります。
一方で、こうした動きと一線を画すのがいわゆる第3極です。日本維新の会は、政権に対し、是々非々の立場を取り、自民党の議席を減らし、自らが議席を増やすことで政策の実現を目指す方針です。第3極の勢力、影響力がどう変化するのかも、政治の流れを考える上で、重要なポイントになります。
見てきたように、これまでと違った選挙の構図の中で、各党が支持層を固めきれるか、さらに無党派層にどこまで支持を拡大できるかが、勝敗を左右することになりそうです。

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では、選挙戦の争点はどうなるのか考えます。
今回は、コロナ禍での衆議院選挙です。全国の感染状況は落ち着いてきているものの、次の感染拡大に備えた医療体制の整備、検査やワクチンの接種を充実させる必要性で、各党は、一致しています。
一方で、影響を受けた人や事業者への支援をめぐっては、給付の対象をどうするか、限定するのか一律にするのかなどには違いがあり、消費税をめぐっては、税率の引き下げを主張する野党とこれに慎重な与党側が対立しています。
また、今回の選挙では、各党が目指す社会像にも関心が集まっています。
各党は、格差の是正、豊かさを実感できる社会を目指す点では一致しています。ただ、それを実現するための方法論や、生活や経済を支えるエネルギー政策、とりわけ原子力発電の扱いでは違いが明確になっています。
さらに、外交・安全保障の分野では、アメリカと中国が対立するなかで、中国とどう向き合っていくか。国際協調をどう進めていくか。日本の防衛力をどこまで強化し、どう歯止めをかけていくかも争点になりそうです。

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このように、政策課題は、直ちに対応が必要なものから、中長期的な社会像まで、幅広くあります。
各党が共通の認識に立つ課題も少なくないだけに、選挙戦で、対立点を明確にすることに加えて、それぞれの政策にどう優先順位をつけていくのか。それを実現するための課題や壁をどのように乗り越えていくのか。各党の説得力が問われることになります。

今回の衆議院の解散・総選挙は、現状では、いずれかの政党に、一方的な追い風や、強い逆風が吹いているようには見えません。政策上の争点が絞り切れない選挙となると、対立する政党の弱点を攻める批判合戦になりがちですし、過去には、政党幹部の発言や候補者の言動が、情勢を大きく変えたと指摘された例もありました。日本の政治の流れを決める選挙にあたって、各党・各候補が、政策や主張を届けきれるかとともに、有権者からの信頼を得られるかどうか。その政治姿勢も大きな判断材料になってくるように思います。

(伊藤 雅之 解説委員)

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