政府は、19の都道府県の緊急事態宣言と、8つの県のまん延防止等重点措置の適用を、期限の2021年9月30日で、すべて解除することを決めました。
強い感染力のデルタ株により、第5波では、これまでにないスピードで感染が拡大しました。新型コロナウイルスの感染者は減少してきていますが、感染が広がることが懸念される冬場を控えていることを考えると、感染の再拡大を想定しておく必要があります。
解説のポイントです。
▽宣言や重点措置を解除した理由を見た上で、
▽解除後、対策の緩和を、どう進めればいいのか
▽感染の再拡大にどういった備えが必要なのか、考えます。
まず、緊急事態宣言などの解除の理由をみてみます。
上の図は、1日ごとの全国の新規感染者の数の推移です。8月20日ころをピークに減少しています。
あわせて、専門家が新たに解除の判断の指標に加えた重症者数を見てみると、9月27日の時点で1106人です。これは、第3波のピークとほぼ同じです。いまも、重症者が多い地域もありますが、新規感染者数に遅れるかたちで、全体としては減少しています。
もうひとつ、解除の指標である、「自宅療養者」と「療養先が決まっていない調整中の人」の合計も全国的に減少しています。この他、病床の使用率も下がっていて、医療のひっ迫度合いは軽減されているとみられ、「解除」という政府の判断になりました。
政府・分科会の尾身茂会長は、宣言が出されている一部の地域について、重点措置に移行されるべきではないかという意見もあったとした上で、「再拡大させないための対策を確実に行うことを確認して了承した」と宣言と重点措置すべてを解除する政府の案を了承した理由について説明しました。
減少している要因については、いくつか挙げられています。
▽国民の協力、
▽夜間の繁華街の人出の減少、
これらの背景には、連日、医療の危機的な状況が伝えられたため、多くの人が感染対策を徹底したことがあるとみられています。そして、
▽ワクチン接種が進んだことと、
▽それに伴って、高齢者施設におけるクラスターが減少したことなどです。
減少は、複合的な要因によるとみられていますが、どの要因が大きく寄与したのか、あるいは小さいのかといった度合は、現時点ではわからないと専門家は話しています。
政府は、宣言や重点措置の解除を受けて、今後、対策の緩和をすることにしています。ただ、感染の再拡大に警戒が必要だとして、緩和は「段階的に行う」としています。
飲食店の酒の提供について、政府は、「基本的対処方針」の中で宣言が解除された地域では、酒の提供を認めた上で、営業時間は
▽自治体などから感染対策の認証を受けた飲食店は午後9時まで、
▽それ以外の飲食店は、午後8時までの時間短縮を求めることを基本として、知事が判断するとしています。
東京都では、今回、都の認証を受けた店では、酒の提供を午後8時まで認め、営業時間は午後9時までとし、利用は1グループ4人まで。一方、認証を受けていない店には、酒の提供の自粛と午後8時までの時短営業を求めることにしています。
また、政府はプロ野球などのスポーツやイベントなどについて、ワクチンを接種した人や検査で陰性が確認された人を対象に、観客の人数制限を緩和する実証実験を行い感染を抑えながらイベントなどを開催する方法を検討することにしています。
「対策の緩和」といっても、酒の提供や、営業時間、客の人数などの緩和です。密にならないようにすることや、十分な換気を行う、マスクを着用して大声は出さないといった基本的な感染対策を徹底することは、かわらずに重要です。
特に、
▽今回、感染者が急激に減少し、
▽緊急事態宣言も重点措置も、すべて解除され、
▽加えて、日本でもワクチン接種が進んできていることから、
「安心感が広がって、こうした感染対策が徹底されなくなるのではないか」といった心配の声も聞かれます。いまはまだ、段階的な緩和を始めたばかりであることを意識して、一人一人が感染リスクの少ない行動をとることが求められます。また、対策の緩和を急ぐと、感染者急増につながる危険もあります。そうした兆候が見られたときには、遅れなく対処するなど、段階的緩和は慎重に進める必要があると思います。
今後、感染の再拡大は、一定程度想定しておく必要があるとされています。
▽一つは、冬場の感染拡大、
▽もう一つは、コロナウイルスはデルタ株より、さらに感染力が強いものに変異するおそれがある」というウイルスの専門家の指摘です。
こうしたことを考え、備えておく必要があるのが、医療提供体制の強化です。
第5波では、感染者が急激に増え、各地で医療が危機的な状況になりました。病院には、重症の患者を診る病院や、中等症の中でも酸素の投与が必要な「中等症Ⅱ」の患者を診る病院などがあります。このうち、重症患者の病床を増やすことが求められますが、
人工呼吸器や「ECMO」という人工心肺装置を扱う高度な医療を行える病床を増やすのには限界があります。
そこで特に、中等症Ⅱの患者を診る病院、病床を充実させることが求められています。
関係者によると、第5波のとき、重症の患者の治療がある程度進んで、この患者を別の病院に移そうとしても、中等症の病院にあきがないため転院できず、重症患者用のベッドをあけられないといったことが起こったといいます。次の重症患者を受け入れられず、重症の病床を有効に使えなかったのです。重症、中等症といった症状の重い患者用のベッドが確保できなくなると、治療が追いつかなくなり、軽症の患者にも影響がでる悪循環になってしまいます。一方、医療のひっ迫を抑えられれば、軽症の人に「抗体カクテル療法」による治療を的確なタイミングで行うなどすることで、重症化を防ぐ可能性も高まると考えられます。
次の感染拡大に向け、施設や病床の役割分担を明確にして、様々な症状の患者に対応できるようにすること、そして重症や中等症Ⅱ、そのほかの病床の数のバランスが適切になっているかどうか、第5波の経験を踏まえて確認することが大切になっていると思います。
さらに、感染者が急増したときへの備えも必要です。大阪府では、「臨時の医療施設」を確保しているほか、宿泊療養施設のホテルの1階や2階に診療所を併設して、体制強化を図る計画です。新たに医師や看護師が必要になるだけに、そうした人材をどれだけ確保できるのか、病院ではない宿泊療養の診療所で、どれくらいの医療提供が可能なのか、検証することも大切になっています。医療提供体制の強化は、全国で進められていますが、
感染者が減少しているこの時期を利用して感染拡大への備えをする必要があります。
新型コロナの感染をいかに抑えるのか。
日本はこれまで、社会経済活動と感染対策の両立を目指して取り組んできましたが、対策を緩めれば、感染が拡大し、緊急事態宣言を出すということを繰り返してきました。
今回、対策の緩和を段階的に進める中で、社会経済活動の再開がどこまでなら、感染対策と両立できるのか、今度こそ、その答えを見出すことが求められています。
(中村 幸司 解説委員)
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