東京電力・柏崎刈羽原発でテロ対策などの不祥事が相次ぎ、事実上運転を禁止されている問題で、東電が今週、原因と再発防止策を公表。
現場のテロ対策への認識が甘く、経営トップも実態を把握できなかったのが原因で、原子力部門の本社を新潟に移し現場重視の体制を作って「本気で生まれ変わっていく」と。
しかし東電は福島の事故でも生まれ変わると誓いながら不祥事を繰り返していたわけで、地元の不信感は根強い。
東電は今度こそ生まれ変わることができるのか。
▽相次いだ不祥事とその原因
▽不祥事の連鎖を止めるにはどうするか。
▽さらに東電の原発を運転する適格性について。
以上3点から水野倫之解説委員の解説。
東電は報告書の公表に合わせて小林会長と小早川社長がそろって会見し、社会に不安を与えたことを謝罪した上で、社長の減給処分と原子力部門の責任者と原発所長の更迭を明らかに。
そのもととなった安全管理の相次ぐ不祥事、その発端は、今年1月、運転員が他人のIDを使って、中央制御室へ不正入室していたことが発覚したこと。警備担当社員も、IDの個人情報を上書きして通行させていた。
また2月にはセンサーなどテロ対策の機器10か所が壊れたままで、長期間不審者の侵入を許すおそれがあったことが規制委員会の抜き打ちの検査で確認。
規制委員会は核物質防護体制ができていないとして4月、核燃料の移動を禁止する事実上の運転停止命令を出したが、その後も不祥事が相次いで発覚。
5月には過去に警備員が、誤って他人のIDを持った作業員に違和感を抱きながらも、朝の混雑を配慮して呼び止めずゲートを通行させていたことが判明。
また設備面でも、7月に6号機の配管で協力企業がずさんな溶接を行い、少なくとも30か所が錆びていたことも。
相次ぐ不祥事を受け、東電は社長ら幹部が発電所の全社員と対話を行うなどして報告書をまとめ、今週規制委員会に提出。
まず原因について、IDの不正使用では、現場全体に「内部の人間は脅威にはならない」というテロに対する甘い認識があったと。
また検知機器の不備については、福島の事故後の経営悪化を受けて、機器の更新を伸ばし長く使い続けるようになって故障が増えたということ。ただ現場は代替措置をとっていたが、それは社員一人で複数のモニターを監視しながら別の業務も行うという危ういものだった。
これに対し協力企業から原子力部門の責任者にリスクがあると伝えられたが、責任者は対応せず社長にも報告しなかったため問題が共有されず、不祥事が相次いだと結論づけている。
このため対策として社員の核物質防護教育を強化するとともに、原子力部門の本社機能を新潟に移して現場との距離を縮め、風通しをよくして問題が共有できる体制を整えていくと。
現場の社員のテロ対策に対する意識が低くては原発の安全は確保できない。研修などを徹底し早急に意識改革を進めなければならない。
それに加えて今回の報告書で強く感じたのは、10年前の福島の事故の時と組織の体質がほとんど変わっていないのではないかという点。現場の懸念に責任者が適切に対応しなかった点がまさにそうで、この原子力部門の閉鎖的で風通しの悪い体質の改善こそ真っ先に取り組まなければならない。
というのも、一連の不祥事は、東電が自ら確認して積極的に発表したものではなく、外部へのリークがきっかけで公になったものも多いから。
例えばIDの不正使用が公になったのは、あるネットの掲示板がきっかけ。
「東電の隠蔽体質は相変わらずなのでリークしたい」
「運転員は他人のIDを使用した」
「テロ対策は万全でなければならないのに、社員の意識の低さは信じられない」などと書きこまれていた。
6年前のIDの誤使用もリークという形で報道機関に寄せられ、公になったとみられている。
現場で問題があっても共有されず、多くの社員は問題が起きたことさえも知らない。これでは原発の安全にかかわるのではないか、という問題意識が外部へのリークにつながったと思う。
こうした風通しが悪く閉鎖的な体質の解消は、福島の事故の教訓だったはず。
事故前、大津波の可能性があるという原子力部門内部の指摘に対し、当時の原子力部門の責任者は対策を保留。
そして当時の経営トップも「原子力の安全確保は一義的に原子力部門で行い、責任もそこにある。」という認識で積極的に動かず、結果として重大事故を招いた。
これを教訓に、原発の安全管理は原子力部門まかせにせず、経営トップが責任を持つことを明確にし、安全が何よりも優先する安全文化を組織全体に根付かせていくことを東電は誓ったはずだった。
しかし今回、経営トップは問題が起きていることさえ把握しておらず、教訓は生かされなかった。
今回、核物質防護という秘密が多い分野だったという事情があるかも。しかし核物質防護も最終的には原発の安全確保にかかわり、経営トップが知っておくべきことで、問題があったら必ず報告が上がる体制をつくっていなかったトップの責任は重い。
小早川社長は「本気で生まれ変わる」と。これまで何回もきいてきたが今度こそ実現しなければならない。
原子力のトップは社長で安全管理の責任者も社長だということを社長が自覚しなければ。そして原発の安全に関わる部署と日々意見交換し、重要情報についてはもれなく伝えられる体制を整え、安全文化を根付かせていくことが強く求められる。
これには規制委員会の役割も重要。
今後規制委員会は本格的な核防護体制の検査に入る。
監視機器や人員配置などの技術面を厳しく見ていくのは当然だが、あらためて東電に原発を運転する資格・適格性があるのかどうかを審査会合で問うべきだと思う。
6、7号機の安全審査では技術面だけでなく重大事故を起こした東電の適格性が問題となり、東電は「経済性より安全性を最優先すること」や「社長がリスクを把握し、安全最優先に対応して速やかに社会に発信する」ことなどを約束する文書を提示、規制委員会も了承して適格性を認め、去年審査に合格させていた。
しかし今回、経営の悪化で機器の更新を伸ばすなど、経済性より安全性を優先する約束が実践されていなかったことも考えられ、審査合格の前提が崩れている可能性も。
東電は柏崎刈羽原発の再稼働を引き続き経営再建の柱に掲げ、7号機を早ければ来年秋に再稼働させる計画を立てるが、地元は不祥事を繰り返す東電の適格性に疑念を抱く。それに応えるためにもあらためて適格性についての再審査を検討してもらいたい。
原発は止まっていても核物質がある限り、安全管理が徹底されていなければ。
今東電は原子力事業を継続できるのか瀬戸際に立たされている。今回が再生の最後の機会だ。そういう危機感をトップ以下一人一人が持って安全管理体制を再構築することが求められる。
(水野 倫之 解説委員)
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