北朝鮮が、ここ最近、新たな種類・方式でのミサイル発射実験を立て続けに行いました。
世界の関心が新型コロナウイルスやアフガニスタン情勢などに集まるのをまるで打ち破ろうとするかのような一連の発射から何が見て取れるのでしょうか。
大きく3つのポイントについて考えてみます。
①今回の2種類のミサイルはどれほど脅威か。
②発射に北朝鮮指導部の政治的な思惑は込められているのか。
③そして、日本、アメリカ、韓国は、当面、北朝鮮とどう向き合うべきか。
【軍事的な脅威は】
まず、北朝鮮が行った2つの発射実験を改めて確認しましょう。
今月11日と12日に新型の長距離巡航ミサイルを撃ったことを、13日に自ら労働新聞で明らかにしました。
それによれば、ミサイルは8の字や楕円を描いて2時間以上飛行し、1500キロ先の標的に命中したということです。
続いて、今月15日に北朝鮮は2発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射。
翌16日、北朝鮮は新しく設けた「鉄道機動ミサイル連隊」が、その名前の通り、鉄道の車両に据えた発射台からミサイルを発射した様子を公開し、これが前日に撃った弾道ミサイルとみられています。
防衛省によれば、およそ750キロ飛行し、日本のEEZ・排他的経済水域内に落下しました。
鉄道からのミサイル発射は、北朝鮮では初めて。
過去にも旧ソビエトが1980年代に実用化した例しか確認されていないということで、極めて珍しい発射方式です。
今回の2つの発射、ミサイルの種類は異なりますが、大きな共通項があります。
それは、「捕捉の難しさ」です。
まず、巡航ミサイルは、地形に合わせるように低空で飛行するため、レーダーで探知することが困難です。
実際、2日間にわたって実施された実験を、韓国軍などがどこまで把握できたのか、明らかではありません。
一方、鉄道からの発射は、発射地点を移動させて事前に捕捉されないようにすることが狙いとみられます。
これは、潜水艦から発射するSLBMにも通じる特徴ですが、鉄道を使う方が潜水艦を建造するよりはるかにコストを抑えられます。
また、防衛省は、当初は日本のEEZの外に落下したと分析し、のちに内側だったと修正したわけですが、これは変則的な軌道を描いたためだということです。
ミサイルの種類は、これまでも発射が確認されてきた「KN23」と分析されていますが、北朝鮮は改良を重ねている模様です。
今回の巡航ミサイルと弾道ミサイルに北朝鮮が核弾頭を搭載できるのかは分かりませんが、より捕捉が難しいミサイルの開発が進んでいることが明らかになった以上、日本、アメリカ、韓国は捕捉や防衛の手段を拡充する必要に迫られそうです。
【政治的な思惑は?】
一方、「瀬戸際戦略」という言葉がしばしば用いられるように、北朝鮮の軍事挑発には、緊張を高めることで交渉において優位に立とうとする、政治的な思惑が絡んでいることが珍しくありません。
今回はどうなのでしょう。
巡航ミサイルの発射が、北朝鮮のいうように11日と12日であったのだとすれば、日米韓3か国の高官が北朝鮮をめぐって東京で協議をした直前です。
また、鉄道からの発射も、ソウルで中国と韓国の外相会談が行われた当日。
こうしたタイミングを見ると、北朝鮮が関係国の外交の動きに発射を合わせたようにも思えます。
ただ、私は「深読み」しすぎない方がいいように思えます。
北朝鮮が、中国の顔に泥を塗るようなメッセージを送るというのは、中朝両国の今の緊密な関係を考えると、かなり違和感があります。
そもそも、ミサイルの発射実験では、政治的なメッセージよりも風や雨といった気象条件の方がずっと重要だという指摘があります。
では、北朝鮮指導部は何を考えているのか。
手掛かりは、キム・ジョンウン総書記とその妹ヨジョン氏にあります。
ことし1月、キム総書記が出席した朝鮮労働党の党大会では、兵器開発の5か年計画が決定され、「中・長距離巡航ミサイルをはじめとする先端核戦術兵器を次々と開発した」と報告されました。
最高指導者に「開発した」と報告した以上、発射実験までしてみせないと担当部門の責任問題になりかねないのが北朝鮮の体制です。
指導部としては、今はアメリカや韓国との駆け引きよりも軍事力増強に集中したいようです。
しかし、今後も交渉に関心がないのかというと、そうでもなさそうです。
6月、キム総書記は、党の総会で、「対話にも対決にも全て準備しなければならない」と述べて、対話も念頭に置いていることを示しています。
また、今回の鉄道からのミサイル発射の同じ日、韓国もSLBMの発射実験を行い、ムン・ジェイン大統領が立ち会ったのですが、それに関して、キム・ヨジョン氏が即座に談話を出してこう批判しました。
「大統領まで出てきて言いがかりをつけるならば、対応する行動をとることになるだろうし、そうなれば南との関係は完全な破壊へと突っ走るだろう。われわれはそれを望んでいない」これには伏線があります。
北朝鮮の今回の2つのミサイル発射に、キム総書記が立ち会ったとは伝えられていないのです。
北朝鮮側としては、「自分たちはトップが立ち会わない形にすることで関係国を過度に刺激するのを避けたのに、韓国側がそれをしてしまった」というわけです。
我田引水ともいえます。
しかし、わざわざヨジョン氏がこうした談話を出したのは、新型コロナの影響で中国との貿易が制限されて経済がかなり厳しくなっているとみられる中、今後、どこかのタイミングで米韓との交渉に応じる局面はあると示唆したのだと思われます。
【日米韓はどう向き合うべきか】
では、「今は軍事力強化に集中したい。でも緊張を高めたいわけではない。今後は対話もあり得る」という、やや分かりにくい姿勢の北朝鮮に対して、日米韓3か国はどう向き合うべきでしょうか。
日本時間のきょう午前、ニューヨークで3か国の外相が会談し、国連安保理決議の完全な履行などとともに、外交的な取り組みの強化が重要だという認識で一致しました。
外交的な取り組みという点では、韓国ムン・ジェイン政権の動きが大きな焦点です。
もともと北朝鮮に融和的なムン政権は、来年の大統領選挙に向けた支持層へのアピールのためにも、北朝鮮に対する人道支援を実施したい考えです。
世界的なパンデミックなだけに、人道支援は意義があります。
ただ、支援をした結果、北朝鮮が経済的に一息ついてさらにミサイル開発を加速するようでは、
米韓との本格的な対話のハードルが上がってしまうでしょう。
そうなると、北朝鮮に対する経済制裁が緩和される見込みも遠のき、北朝鮮の一般国民は疲弊するばかりで、それこそ人道問題ともいえます。
アメリカのバイデン政権は北朝鮮と敵対するつもりはなく、無条件での対話を呼びかけています。
それだけに、韓国が北朝鮮に人道支援を実施する場合でも、ミサイル発射の自制、バイデン政権との対話へと誘う動きとすることが期待されます。
そして、日本も、言うまでもなく、拉致問題解決のめどが立っていない中、次の政権にとっても対北朝鮮外交は重要です。
いずれは北朝鮮も対話に応じる可能性を考えると、日本も積極的に対話に打って出ることで非核化や拉致問題の膠着状態打破に、大きな役割を果たすことが求められています。
外交的な取り組み強化も通じて北朝鮮のミサイルや核の脅威に対処するうえで、奇策はありません。
基本に立ち戻るようですが、日米韓3か国の結束が不可欠です。
(池畑 修平 解説委員)
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