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無人攻撃の脅威 問われるAI兵器の規制

鴨志田 郷  解説委員

世界の戦場や紛争地で無人軍用機、ドローンによる攻撃が行われたというニュースが盛んに伝えられています。いまやAI=人工知能の技術も活用した様々な兵器が戦闘に投入されるようになっていて、世界各国の軍事企業が競うように開発を進めています。一方で、人間の能力や制御を超えて、みずから標的を選択、追跡し攻撃するような、自律型のロボット兵器が現実のものとなることへの懸念も、急速に広がっています。
① 世界で繰り返される無人攻撃、
② 兵器のロボット化への懸念、
③ 規制をめぐる国際的な議論、について考えます。

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【繰り返される無人機攻撃】
先月末、アメリカ軍がアフガニスタンから撤退する間際、無人機を使った攻撃を行い、テロを計画した過激派組織のメンバーを殺害したと発表しました。その2日後にも住宅地で爆発物を積んだ過激派の車を狙った攻撃を行ったと発表しましたが、このときは子どもを含む複数の市民が死亡し、その後、誤爆だった可能性が伝えられています。20年にわたりアフガニスタンに駐留したアメリカ軍は、自国の兵士の犠牲を避けるため、タリバンなどとの戦闘に無人機攻撃を多用してきましたが誤爆も繰り返し、夥しい数の市民を巻き添えにしてきました。
世界がアフガニスタン情勢を注視する中でも、アメリカ軍は市民の犠牲をいとわない無人機攻撃を最後まで続けたのです。
もうひとつ、無人機での攻撃が注目されたのが、去年9月にコーカサス地方の係争地ナゴルノ・カラバフをめぐって繰り広げられたアゼルバイジャンとアルメニアの武力衝突です。
アゼルバイジャン軍は、最新鋭のイスラエル製やトルコ製の無人機を駆使して、アルメニア軍の部隊に大打撃を与え、事実上の勝利につなげたのです。無人機によって巨大な戦車や戦闘機が次々に破壊される様子が伝えられ、無人機による攻撃がいまや戦争の勝敗をも決めるものと受け止められるようになりました。

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世界の紛争地ではいま、遠隔操作によって自国の兵士の安全を確保しながら、敵地の奥深くに侵入して攻撃する、無人攻撃機や無人戦車などが次々に実戦に投入されるようなっています。アメリカやロシア、中国、イスラエルに加え、最近は周辺地域に多くの紛争を抱えるトルコでも、そんな最新鋭の無人機などが次々に開発されています。AIの先端技術もふんだんに活用した精度の高い兵器の開発競争が、各国の軍事企業の間で繰り広げられているのです。

【懸念される兵器のロボット化】
そんな先端の無人兵器でも、これまでは人がコントロールするものに留まっていましたが、いまそれを超えた自律した「ロボット兵器」が登場することへの懸念が急速に広がっています。

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ことし3月、国連の安全保障理事会に提出された報告書は、北アフリカのリビアで、世界で前例のない、独自の判断で標的を攻撃する「完全自律型の無人機」が使われたのではないかと指摘しました。無人機を分析したところ、人間のオペレーターとの交信を断った状態でも、標的を認識、追尾、攻撃できるようにプログラムされていた可能性があるというのです。
この無人機を開発したトルコの軍事企業はNHKの取材に対して、「報告書で指摘されたような機能はない」と全面的に否定しています。しかし、このニュースは、激しい兵器の開発競争の中で、そんな「空飛ぶロボット兵器」がいつ登場してもおかしくないという現実を、私たちに突きつけるものでした。

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AIを使った兵器の中でも、人間の指図も受けずに標的を選択・追跡・攻撃するような、究極の兵器のことを、国際社会では「自律型致死兵器システム=Lethal Autonomous Weapons System、英語の頭文字をとって「LAWS」と呼ばれています。LAWSはいまだ世界に存在しないことから、そのかたちは見えませんが、人間の能力や制御を超えて攻撃する兵器がひとたび完成してしまうと、様々な脅威が発生します。もとより非人道的な戦争でも機械の判断で人の命が奪われてしまうほか、人を介さずに安易に武力行使が行われることにもなりかねません。さらにテロリストの手に渡れば極めて危険です。そんなLAWSへの警戒心が世界に広がっています。

【規制めぐる果てしない議論】
AI兵器が次々に開発される中でも、LAWSがつくられるのをいかに防ぐかという議論は、8年前の2013年から続いてきました。

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先月、スイス、ジュネーブの国連ヨーロッパ本部で、パンデミックの影響で2年間、開かれなかった国際会議が再開されました。CCW=特定通常兵器使用禁止制限条約の125の締約国による会合です。各国ともLAWSを認めない点では一致しているものの、規制のあり方については、AI兵器の開発を推し進めてきたアメリカやロシア、中国、イスラエルなどと、開発に慎重な中南米やアフリカなどの国々との間で、立場に大きな隔たりがあります。AI兵器の開発を推進する国々は、「攻撃の過程で人間のオペレーターと何らかの交信が交わされるものは自律した兵器とはいえない」として、LAWSを狭く定義しようとしています。これに対して、開発に慎重な国々は、機械による誤爆や無差別攻撃への懸念から、「攻撃の最終段階まで人間の監視や制御が行き届かない兵器は禁止すべきだ」として、LAWSを広く定義しようとしています。さらに、規制の具体的な方法についても、開発推進国が、「戦争での非人道的な行為などを禁じた従来の国際人道法で規制できる」としているのに対し、開発に慎重な国々は、「LAWSを禁止する新たな条約をつくるべきだ」と主張しています。日本は、「LAWSを造ることも使うこともしない、AI兵器の国際的なルールづくりに貢献していく」という立場をとっています。
CCWではことし中に今後の交渉の方向性を決めることにしていますが、もはや各国の議論は安全保障をこえて「人間が機械の支配を受けないためにはどうするか」という哲学的な領域にも踏み込んでいて、決着は容易ではありません。国連の外交筋は、堂々巡りの議論が続けば、今後LAWSの規制を急ぐ国やNGOがしびれを切らして、独自に禁止条約をつくろうとする展開もあり得ると話していました。最近の軍縮の傾向として、一部の国々が先行して禁止条約などの国際的な規範をつくる流れが、定着してきているからです。ただ、LAWSをめぐっては、ひとたび共通の議論の場が失われてしまうと、様々な解釈が横行し、結局はその実用化を許してしまうことになりかねません。今は何とか国際社会が同じ土俵に留まり、議論が進むことを期待したいと思います。

【21世紀を通じた難題】

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私たちの生活に恩恵をもたらすAIなどの先端技術はこれからも日々進化を続け、同時にそれが兵器に転用される状況も続くでしょう。一方で、世界で武力紛争などが続く限り、より精度の高い兵器を望む声も後を絶たないでしょう。そして、ひとたびそんな兵器が開発されるとそれが実験的に戦場に投入され、さらに兵器の開発が進んでしまうという流れも、変わることはないでしょう。そんな現実を前に、人間の制御が効かない兵器が造られるのをいかにして防いでいくのか。その規制をめぐる議論には、いまや各国の外交や国防の担当者に加え、世界のNGOや安全保障の専門家、さらに科学者や哲学者、歴史家なども強い関心を寄せるようになっています。21世紀を通じて人類に問われることになるこの難題に、世界の英知を集めて臨む必要があると思います。

(鴨志田 郷 解説委員)

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