NHK 解説委員室

これまでの解説記事

来年度予算編成 膨らむ要求 ~求められる効率化

神子田 章博  解説委員

政府の来年度の予算編成に向けた動きが本格化しています。各省庁からは、新型コロナウイルス対策に加え、安全保障環境の変化など内外の新たな情勢に応じた要求が行われ、歳出圧力が一段と強まっています。その一方で、1年間に200兆円を超える巨額の国債発行によって、利息の支払いという重荷も増しています。

j210906_1.jpg

解説のポイントは三つです。
1) 国債費増加が示すもの
2) 財政健全化への道筋
3) 査定に求められること

1) 国債費増額が示すもの

j210906_3.jpg

 まず来年度の予算編成に向けて各省庁から提出された予算要求についてです。
要求総額は111兆円余りと、4年連続で過去最大を更新する見通しです。要求額が最も大きいのは厚生労働省で、医療や介護など高齢化にともなって社会保障費が膨らむことから、33兆9450億円と今年度当初予算を2.4%上回りました。厚生労働省では、これに加えて新型コロナ関連で、病床確保など医療提供体制の充実などについて事項要求をしており、要求額はさらに膨らむ見通しです。
 また今回の予算要求で目立って増えたのは、防衛省です。海洋進出を強める中国を念頭に南西諸島の防衛力を強化するため、島しょ部に部隊や装備品を輸送する艦艇を取得する費用として102億円を要求するなど、要求総額は5兆4797億円と今年度予算に比べて7%も増えています。

j210906_4.jpg

さらにこうした政策経費とは別に、増額が目立ったのが国債費です。
国債費は、過去に発行した国債の償還=つまり借金の返済や、利息の支払いに充てられる費用で来年度の予算要求は今年度の当初予算よりも6兆円余り増えて30兆2362億円にのぼりました。背景には昨年度、新型コロナ対策に必要な財源として212兆円あまりと、前の年度を80兆円も上回る巨額の国債を発行したことで利息の支払いが膨らんだことがあります。政府は今年度も221兆円の国債発行を計画していますが、一年の間にこれだけ巨額の発行をすることで、新たな懸念材料も指摘されています。

国債の発行を巡っては、金利の低い現状では、利払い費を安定化させるため、長期の国債による財源確保が望ましいといわれています。

j210906_5.jpg

j210906_6.jpg

どうしてかというと、例えば償還期間一年の短期の国債であれば、1年後には借り換えなくてはならないので、市場金利の上昇が翌年には利払いに影響することになりますが、償還期間が10年の国債を固定金利で発行した場合、その直後に市場の金利があがったとしても、10年先まで市場金利の上昇の影響を受けないで済むからです。

j210906_8.jpg

ところが、財務省ができるだけ多く長期国債を売りたい思っても、市場のニーズには限りがあります。その限度を超えたものについては、短期国債を発行して調達せざるをえません。実際に、国債発行総額のうち短期国債の占める割合をみてみると、2019年までと比べて2020年度以降は一気に増え、40%にせまっています。

j210906_9.jpg

財務省が、金利が1%上昇すると3年後にどれだけ国債費が増えるかを試算したところ、昨年度の試算では、3兆1000億円でしたが、短期国債の割合が増えた今年度は3兆8000億円と、一気に7000億円も負担が増加。短期国債の割合が増えれば、金利上昇が財政に及ぼす打撃はより強まっていくのです。

j210906_10.jpg

2) 財政健全化への道筋

j210906_11.jpg

 このように、コロナ禍で財政が一段と悪化する中、政府は健全化への道筋についてどう考えているのでしょうか。

j210906_12.jpg

政府は財政の立て直しにむけて基礎的財政収支の黒字化を目標にかかげてきました。基礎的財政収支とは、政策に必要となる経費と、その年の税収などの収入の間の収支です。いまは大幅な赤字ですが、これが黒字になれば新たな借金をしなくてよいことになります。

j210906_13.jpg

政府は国と地方を合わせた収支を2025年度には黒字化することを目標としています。

j210906_14.jpg

 さらに、政府は、GDPを分母に、国と地方の債務残高を分子にとって、その比率を計算した数字を安定的に引き下げていくこともめざしています。国の経済規模に対して、どのくらいの借金を背負うことが可能かという視点で、財政状況をみていこうというものです。

j210906_15.jpg

この比率は、成長率が高くなれば分母のGDPが大きくなり、数字を小さくしていくことができますが、

j210906_16.jpg

逆に金利が上昇すれば、利子が膨らむため分子の債務残高が増え、数字が大きくなってしまいます。

j210906_17.jpg

j210906_18.jpg

この数字、現在は、債務残高がGDPを大きく上回るため、2.11、2倍余りとなっていますが、内閣府の試算によりますと、今後実質で年間2%程度の成長が続くという前提で、来年度以降は低下が続き試算の最終年度である2030年度には1.68倍までさがるとしています。

ただ、そもそも実質で2%成長するという前提自体が非現実的で、この見通しは楽観的過ぎるという指摘が出ています。

j210906_19_1.jpg

さらに、慶應義塾大学の土居丈朗教授が、政府の試算のさらに先、2030年度以降この数字がどうなるかを試算したところ、2%成長という楽観的なシナリオのもとでさえ、将来金利が上昇し、成長率を0.5%上回るだけで数字はやがて反転する。1%上回る場合にはさらに大きく反転して上昇していくとしています。土居教授は経済成長にともなう金利上昇の可能性は頭に入れておくべきだして、財政の健全性を保つには、基礎的財政収支をできるだけ早くそれも大幅な黒字にすることで、債務残高の伸びを抑えることが欠かせないと主張しています。

j210906_20.jpg

しかし、今年6月の政府の経済財政運営の基本方針いわゆる骨太の方針では「基礎的財政収支を2025年度に黒字化するという目標を堅持する」としながらも、「本年度内に、感染症の経済財政への影響の検証を行い、その検証結果を踏まえ、目標年度を再確認する」とする但し書きをつけ、目標年度の変更もありうることを示唆しています。

j210906_21.jpg

コロナ禍の先行きが見通せず、コロナ関連の歳出増加はやむをえない面もありますが、拡大する歳出のなかで、コロナ関連と、それ以外をわけて考え、コロナがなかったとしたら目標を達成することができたのか。そういう視点で財政の状況を検証できるような数字の示し方を、政府には考えてもらいたいと思います。

3) 査定に求められること

j210906_23.jpg

最後に、予算の査定する側に注文です。
財務省は来年度の予算要求を前に、各省庁の裁量によって増減できる政策の経費を今年度予算より10%減らし、その三倍にあたる規模の「新たな成長推進枠」という特別枠を設け、脱酸素やデジタル化など成長戦略の実現にむけた予算の要求を行うよう求めました。新たな時代に対応した予算を増やす一方で、必要性の低下した予算を削るいわばスクラップアンドビルドで、予算を効率化しようという狙いがあります。しかし過去の予算要求では、例えばコロナ対策枠のなかに、従来から予算化されていた事業が盛り込まれるなど、既存の政策の看板の架け替えにすぎないとみられるものも散見されました。

j210906_24_1.jpg

予算の査定に当たっては、どれが成長に欠かせない新たな予算要求で、どれが看板の架け替えか、しっかりと目を凝らして精査してもらいたいと思います。

財政が一段と悪化する中、予算の効率化を決してお題目で終わらせない。来月には総理大臣が替わることになりましたが、国のトップが誰になろうとも、将来の世代に責任をもつ財政運営を求めたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

神子田 章博  解説委員

こちらもオススメ!