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新型コロナウイルス 夏休み明けの感染拡大をどう抑えるか

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大を、どう抑えるのか。
インドで確認された「デルタ株」の強い感染力によって、状況はこれまでになく深刻になっています。2021年8月現在、21の都道府県に緊急事態宣言、12の県にまん延防止等重点措置が出されていますが、「夏休み明け」をきっかけに、さらに感染が拡大しないよう、学校現場などでは対策を強化する必要があります。

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解説のポイントです。
▽デルタ株による感染拡大の状況を見た上で、
▽夏休み明けに感染をどう抑えるか、
▽子どもを守るためにも、医療提供体制の改善に何が求められているのか、
考えます。

まず現状です。

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上の図は、東京の1週間の新規感染者を人口10万人あたりでみたものです。15人以上がステージⅢ、25人以上がステージⅣに相当します。現在は、ステージⅣで、指標の25人をはるかに超えています。ここ1週間ほど、感染者数が減少し始めたようにも感じますが、人出が十分下がっていないというデータもあって、楽観的にみることはできません。
全国でみても、人口あたりの感染者はステージⅣ相当です。第3波のピーク、2021年1月は、ステージⅣ相当が14都府県、第4波の5月のときは、22都道府県でした。8月29日時点で44都道府県と、ほぼ全国でステージⅣです。
デルタ株が広がったことで、感染の状況はこれまでとまったく異なっています。

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ワクチンの接種によって、重症化を抑える効果があるとされていますが、いまは全国の重症者は急増、死者の数も増加傾向にあります。ワクチンの効果以上に、感染する人が急激に増えているため、重症になる人も亡くなる人もその人数を抑えられなくなっています。

いま、心配されていること。それは、夏休み明けをきっかけに感染が、さらに増えないかということです。

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子どもたちの感染は、これまで大きな問題になってきませんでしたが、最近は急増しています。この1か月で、20歳未満の感染者数はおよそ5倍になっています。夏休み明け、学校が始まったときに感染が広がらないようにしなければなりません。
子どもたちのこれまでの感染傾向から懸念されているのは、幼稚園や小学校、中学校などでは、教職員など大人から子どもへの感染、また高校、大学では、部活動や学校行事などに伴う感染です。さらには、家庭から学校への感染、あるいは、学校での感染が多くの家庭に広がらないようにしなければなりません。
感染対策の面からは、休校などの措置が考えられますが、今の子どもたちは、2020年から「学びの機会」が減っています。特に年齢が小さい子どもは、授業が減ったり、友達と会えなくなったりすることの影響は大きいと考えられます。文部科学省は、すでに学級閉鎖や休校などを判断する際の指針を示していますが、まずは、学校での感染対策を十分に行い、できるだけ通常に近い授業を行えるようにすることが必要です。
そのためにどうするか。
教職員については、なるべくワクチン接種をしてもらい、希望しているのに接種できていない人には優先して接種する。必要な時には、感染していないか調べる検査を実施することも大切です。また、部活動、特に運動部は対策が難しく、実施方法を慎重に考える必要があります。行事は延期などの検討も求められています。

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ここで、大切なこと。
1つは、対策を学校だけで考えるのではなく、一部の自治体で行われているように、感染症の専門家の助言を得ながら、それぞれの学校に適した対策をとることだと思います。
もう一つは、子どもたちも、教職員も、体調に異変を感じた時は、まずは休むことが必要になりますが、子どもたちや先生が休みやすい環境を作ることが大切です。いつでも代わりの教師が授業をできるようにするとともに、子どもが学校を休んだとき、親が仕事を休みやすいよう、保護者の職場側の理解と協力も欠かせません。
そして、感染が確認されるなど必要なときは、学級閉鎖や休校、ケースによっては、オンライン授業を活用することで、子どもたちに感染が広がらないよう十分な対策をとることが重要です。
子どもへの対策は、学校だけでなく、塾や学童保育などでも強化が求められます。

学校での感染、あるいは、子どもの感染の増加に備える意味でも、いま必要なのが、医療提供体制をどう改善させていくかです。

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厚生労働省によると、8月25日の時点で
▽全国で入院している感染者が、およそ2万4000人なのに対して、
▽自宅療養者が、およそ11万8000人、
▽療養先を調整している人は、およそ3万2000人にのぼっています。
自宅で療養している人が、死亡するケースが相次いで報告されていて、「助かる人を助けられなくなる」という懸念が、現実になっています。自宅やホテルで療養している人の健康状態を確認する医師や看護師の体制の構築が求められています。新型コロナの感染者の病床を、さらに確保することが求められますが、すでに、新型コロナ以外の一般医療や救急搬送にも影響が出てきています。

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そうした中、
▽「臨時の医療施設」の開設や
▽肺の機能が低下した人に酸素を投与する「酸素ステーション」の設置など、
手探りではありますが、早急に行う必要があります。
大阪府の吉村知事が1000床規模の「臨時の患者の受け入れ施設」を設置する考えを明らかにした他、東京都では酸素ステーションの運用が始まるなど、各地で対応が動き出しています。医師や看護師の確保が課題になる一方で、感染者を集中的に診ることで、医師や看護師の配置、あるいは医療機器の利用を効率化できるのではないかという指摘もあります。
こうしたことは、病床に余裕がある地域でも進める必要があると思います。そうした地域でも、今後、感染が拡大する恐れがあるからです。
時間をかけられないだけに、各都道府県で設置した事例を共有して、早く体制強化につなげる必要があります。

では、デルタ株の強い感染力にどう対応したらいいのでしょうか。

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上の図は、デルタ株による新型コロナウイルスの感染者が増加するか、減少するか、その状況を、棒の高さで示しました。感染力が強いため、何も対策をしなければ感染者は、どんどん増加してしまいます。

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私たちは、マスクや手洗い、3密の回避などの対策を実践することで、これを抑え、ワクチン接種が進んできたことで、さらに抑えることができてきていますが、それでもデルタ株の感染者を減少させるまでには、対策が足りません。

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政府の分科会の尾身茂 会長は、8月12日に発表した緊急提言で、東京都などでは「人出を緊急事態宣言前の5割まで削減してほしい」と協力を求めました。これは、そこまで人出を減らせば、感染者を減少させることができる、逆に言うと、そこまで対策しないといつまでたっても感染者の増加が止まらないということを意味しています。デルタ株に関しては、徹底した対策を続けなければ、感染者の減少を維持できないことを認識する必要があります。

まずは、感染者を減少させて、必要な医療が提供でき、重症になったり、亡くなったりする人の数を抑えられるようにしなければなりません。
「人との接触」や「移動」を、最小限にするといった対策を、デルタ株の強い感染力に見合うだけ徹底できているか、夏休み明けをとらえて、一人一人がもう一度確認することが求められています。

(中村 幸司 解説委員)


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