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アンモニア発電 脱炭素の切り札になるか

水野 倫之  解説委員

脱炭素社会実現に向けた切り札として、関係者の注目がアンモニアに集まっている。
燃やしてもCO2を出さないため、石炭火力にかわる新たな発電方式としての期待が高まり、実用化への試金石となる大型の石炭火力発電所での世界初の燃焼試験が、まもなく始まる。
しかし生産量が少なく、製造過程でCO2を排出するなど、実用化にはまだまだハードル。
アンモニアが脱炭素の切り札となりうるのか、その課題について水野倫之解説委員の解説。

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アンモニアの燃焼試験が始まるのは愛知県の碧南火力発電所。
JERAが運転する国内最大の石炭火力で、1日4万tの石炭を消費。
貯蔵場所には常に1か月分の石炭が貯蔵され、粉砕機で最終的に小麦粉と同じくらいの細かい粉に砕かれボイラーに投入。
その内部はオレンジ色の炎に包まれていた。
ここにアンモニアを混ぜて燃やす実証試験が来週から始まる予定で、アンモニアタンクからボイラーへの供給ラインを整備するなど準備が進む。
実証試験ではまずごく少量を混ぜて安定的に発電できるかを確認し、3年後には20%まで増。
JERAは問題がなければ2040年代にアンモニア100%での発電を目指したいという。

なぜアンモニアを混ぜなければならないのか?
それは石炭火力がほかのどの電源よりもCO2を多く排出するから。

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石炭火力はコストが安く、日本は福島の事故以降増え続け、全国の150基で電源の32%を供給する主力電源。

しかし世界的な脱炭素化の流れを受けて、ヨーロッパを中心に全面廃止の動きが広がり、フランスは2022年、イギリスが2024年、ドイツも2038年までに廃止する方針で、石炭火力頼みを続ける日本に対する逆風。

このため日本も2030年までに効率の悪い石炭火力を廃止する方針。
しかし再エネの出力を調整する役割もあるとして、エネルギー基本計画の改定案でも2030年時点で全体の19%まで下げる目標を示したものの、全面廃止には否定的。

ただ今月、国連のIPCCが、温暖化で豪雨など極端現象の頻度や強さが増すとして、CO2排出削減を強く求める報告書を発表するなど脱炭素の流れは強まっており、日本に対し石炭火力のさらなる削減を求める声が高まるのは必至。

そこで削減の切り札として政府が注目しているのがアンモニア。
水素と窒素の化合物で理科の実験に使われるが、多くは肥料として使われる身近な物質。

そのアンモニア、燃やしてもCO2が出ないことに政府は目をつけ、5年ほど前から世界に先駆けて新燃料としての研究開発を大手機械メーカーとともに開始。
石炭に混ぜて試験を行った結果、燃焼機器を工夫すれば安定して燃やせることが判明。
この結果を受けてJERAが国の補助を受け、大規模な実証試験を行うことになった。

ここで水素があるじゃないかと思うかもしれない。
これについて政府は水素はマイナス250度以下で管理が必要なのに対し、アンモニアは少し圧力を加えれば常温で管理でき、運搬や貯蔵の技術は確立しているとその利点を強調。
また発電コストも、現状アンモニアの方が水素より安いと試算されているほか、CO2の削減も、大手電力の石炭火力全てで20%混ぜれば、国内の発電によって排出されるCO2の1割が削減でき、100%にすればその5割削減が可能と見積もられ、水素実用化前の新たな発電方式の切り札となりうるという。

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ほかの大手電力も将来的に導入する方針を示しており、政府は2030年の電源構成に、初めてアンモニアなどで1%を目指すことを盛り込んだ。
実現には石炭火力6基で20%の燃焼を行うことが必要で、今回の碧南火力の試験はアンモニア燃料実用化への試金石。
ただ大規模な燃焼試験はこれが初。
データを定期的に検証して技術的課題を明らかにすることはもちろん、今後実用化に向けた道筋をきちんと示すことが必要。

というのもアンモニアも万全ではなく、課題が山積。

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まず大きな壁となるのが流通量の少なさ。
世界の生産量は年間2億tで、貿易量は2000万tにとどまり、日本は多くを輸入。大手電力の石炭火力すべてで20%混ぜて使うと今の貿易量に匹敵する量が必要となり、全く足りない。
本格導入のためには日本が主導して世界規模で生産体制を拡大。そのためにはアンモニア発電が世界的に広がることも必要で、火力発電依存度が高いアジアの国にも導入を働きかけるなど、需要も合わせて作っていく必要。

また製造過程で大量のエネルギーを使うのも大きな課題。
アンモニアは現状、海外の天然ガスなど化石燃料から水素を作り、その後最大600度、1000気圧の高温高圧にして窒素と反応させて合成、その過程でCO2。
アンモニアを完全な脱炭素電源とするためには水から再エネを使った電気分解で水素を取り出したり、窒素と反応させる温度や圧力を大幅に下げる製造技術を開発していくことが不可欠。

このため政府は、天然ガスなどがとれ、再エネも利用できる可能性がある中東など海外に製造プラントを設置し、日本へ供給を増やすことを優先して検討。

確かに海外での取り組みも重要だが、国内のベンチャー企業の取り組みにも注目。
川崎市内にある、東工大発のベンチャー企業が開発した小型のアンモニア製造の実証プラントでは窒素と、水の電気分解によって得られる水素でアンモニアを合成。これまでの製造方法より100度以上低い温度と低い圧力で合成できるのがポイント。
それを可能にしたのが東工大のグループが開発した特殊な触媒。低温低圧での合成が可能となり、CO2も減らせる。
ベンチャー企業ではこれまでよりもコストを2割ほど抑えることを目指してより効率が高い触媒も東工大の協力を得て開発中で、来年以降プラントの販売を目指す。

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このように国内でも、CO2が少ないアンモニア製造の芽が出始めているわけで、政府はこうした芽を大きく育てるための環境整備に力を入れていく必要。
触媒の開発はほかの大学や企業でも進められており、まずはこの分野の研究開発への支援を充実させ、国内でのグリーンなアンモニア製造の基盤を今のうちから固めておくことが大切。

アンモニアは脱炭素に向けての有力な手段となる可能性あるが実用化へのハードルが高いことも事実。
このまま日本発の脱炭素技術にしていけるのか、政府は実用化に向けた道筋を示し、課題解決に向けた体制作りを急がなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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