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各地で記録的大雨 身近に潜む命の危険

二宮 徹  解説委員

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停滞する前線の影響で14日から15日にかけて、西日本と東日本の各地で記録的な大雨となり、九州北部と広島の4県に一時、特別警報が出されましたが、この時間、再び九州や中国地方で雨が強まっています。前線は今週末頃まで日本付近に停滞すると予想され、引き続き土砂災害や川の氾濫への厳重な警戒が必要です。
真夏に、まるで梅雨末期に戻ったかのように大雨が続くのはなぜか。そして、命を守るためにはどうすればいいのかを考えます。

<真夏に続く記録的大雨>

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特に14日から15日の朝にかけて、各地で記録的な大雨となりました。
気象庁によりますと、11日から日本付近に前線が停滞していて、西日本と東日本に発達した雨雲が断続的に流れ込んでいます。一時、佐賀と長崎、福岡、広島の4県に大雨の特別警報が発表されました。
▼佐賀県嬉野市では今月11日の降り始めからの雨量が1000ミリを超えました。
また、今回の一連の大雨で72時間に降った最大の雨量は、▼長崎県雲仙岳、▼熊本県山鹿市、▼福岡県大牟田市、▼広島市三入など、各地で観測史上最も多くなり、3年前の西日本豪雨を超えたところもあります。さらに、多いところでは平年の8月1か月分のおよそ4倍の雨量となり、各地で川の氾濫や土砂災害が相次ぎました。

<前線停滞のメカニズム>

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真夏にもかかわらず、梅雨末期に戻ったかのように大雨が続くのは、気圧配置が関係しています。
天気図を見ると、12日から前線の位置がほとんど変わっていないのがわかります。

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例年、真夏は南の太平洋高気圧が大きく張り出し、晴れて暑い日が続きますが、先週から張り出しが弱く、日本列島を覆っていません。しかも、高気圧の縁を回って、南西から暖かく湿った空気が流れ込み続けています。
これが、北のオホーツク海高気圧の冷たい空気とぶつかり、前線が発生して、雨を降らせています。
さらに、真夏で海面水温が高く、前線に流れ込む水蒸気の量が多いことも加わって、西日本豪雨とよく似た状況が続いています。

<佐賀県武雄市などの浸水被害>
この記録的な大雨により、各地で浸水や土砂災害の被害が相次いでいます。

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佐賀県の六角川沿いの武雄市や大町町、それに筑後川が流れる福岡県久留米市などでは、広い範囲が浸水しました。
川の氾濫だけでなく、水路や小さな支流の水があふれる「内水氾濫」も起きたと見られます。
浸水した水をポンプで川に流すと決壊するおそれがあるため、一時、ポンプを使用できず、住宅地の水路などから押し寄せた水で、被害が広がりました。

<岡谷市の土石流被害>

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また、15日朝、長野県岡谷市で土石流が住宅を襲い、中にいた8人のうち、7歳の小学生を含む親子3人が死亡しました。
崩れたのは駅の目の前にある住宅の裏山で、大きな被害を受けたのはこの1軒のみでした。
私は去年まで長野市に住んでいて、このあたりは何度か車や鉄道で通ったことがありますが、裏山を背にした住宅が道路沿いに並ぶ、長野県だけでなく、どの地方でもよく見られる場所です。

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岡谷市のハザードマップには、土砂災害の危険を示した区域が諏訪湖西側の山沿いなどに広がっています。急傾斜地や地すべりの危険がある区域はオレンジ、土石流の危険が特に高い区域は赤枠で示されています。
今回土石流が起きた川岸駅周辺を詳しく見ると、3人が亡くなった住宅は、この黄色い扇型の土砂災害警戒区域に含まれていました。しかし、区域はそれほど大きくなく、今回発生した土石流も、小規模でした。
先月の静岡県熱海市のように、大量の土砂が流れ下る大規模な土石流ではなく、小規模でも3人の命を奪ったことを思うと、土砂災害の威力や恐ろしさを思い知ります。
ところが、岡谷市は、当時、避難指示を出していませんでした。予想していたよりも雨が激しかったうえ、暗い中での避難は危険と判断したということです。
土砂災害警戒情報が出ているのに、市が避難指示を出さずに土石流が起きたのは、熱海市と同じです。
岡谷市では15年前にも土石流で8人が死亡しています。なぜ、過去や熱海の教訓を生かせなかったのか、しっかり検証してほしいと思います。

<身近な山や川の危険>
こうした中で、市区町村はもちろん、住民も、自分が住む場所のリスクを確認し、素早く適切に対応できるようにしておく必要があります。

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大きな川や山だけでなく、水路や小さな支流、自宅の裏山のような身近なところにも命の危険が潜んでいます。
しかも、大きい川や沢は堤防や砂防ダムといったハード面の対策を進めることができますが、支流や水路、裏山などのすべてに十分な防災対策をすることはできません。
このため、市区町村には早く適切に避難指示などの避難情報を出すことが求められます。
住民は、場合によっては避難情報を待たずに、警戒レベル4に相当する土砂災害警戒情報や氾濫危険情報などをきっかけに避難して、自分や家族の命を守ってほしいと思います。

<避難の注意点>
ただ、避難の途中で危険が迫ることもあります。避難する際の注意点をあらためて確認します。

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今回の大雨でも、冠水した場所を歩いている人が多くいましたが、用水路やふたが外れたマンホールなどに落ちる危険があるので、可能な限り浸水する前に避難してください。
やむを得ず、冠水した中を歩く場合も、深い場所は避け、2人以上で長い棒や傘を使って安全を確認しながら行動しましょう。
Tシャツや半ズボンは、けがをする危険があるので、長袖、長ズボンにしてください。長靴は水が入ると歩きにくくなるので、スニーカーを履きましょう。
そして、両手を使えるように、傘はささず、カッパを着て、荷物はリュックなどに入れてください。

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また、大雨の中を車で移動する人も多くいますが、おととしの台風19号では、屋外で死亡した人の4割が車での移動中で、車ごと流されたり、転落したりしました。
道路が冠水していると、用水路や側溝との境が見えず、転落する危険があります。
大丈夫だろうと思わず、車の床面より深いところには入らず、う回してください。
特に、線路や道路などの下を通る「アンダーパス」は、水没して、車から出られなくなる危険があります。

この時間、九州や中国地方で再び雨が強くなっていて、今後、九州北部や広島県などでも非常に激しい雨が降るおそれがあり、気象庁は再び特別警報を発表する可能性があるとしています。
これまで大雨が降った地域では、川の水位が上がり、地盤も緩んでいるため、少しの雨でも災害が起きやすくなっています。しかも、前線は今週末頃まで停滞し、その後も雨が降りやすい状況が続く見通しです。
コロナ禍の避難を躊躇する人もいるかもしれませんが、市区町村は、感染対策を万全にしたうえで、安心して避難できることを住民に伝えてほしいと思います。
住民は、気象や避難の情報を確認しながら、少しでも危険を感じたら自ら早めに避難するなど、安全を最優先に行動してください。

(二宮 徹 解説委員)

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