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小学校に円滑に接続 "幼・保・小"連携強化へ

二宮 徹  解説委員

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幼稚園や保育園を卒園した後、小学校での学習や生活になじめない子どもが増えている中、子どもが小学校教育に円滑に進めるようにするには、どうすればよいのか。
文部科学省は、幼児教育の質を高めるとともに、幼・保・小の連携を強化するなど、幼児教育改革を進めることになりました。きょうの時論公論は、幼児教育改革の目的や課題について考えます。

<幼児教育と小学校教育の段差>

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幼児教育と小学校教育の間にある課題は、その教育方法の違いから生じています。
幼稚園や保育園は、集団生活の中で、体験や遊びを通じて、他人との関わりや言葉、興味・関心などを育みます。
これに対して、小学校は、基本的に教科書を使い、机に向かって先生の話を聞きながら学習します。
この違い、段差が原因で、入学直後から小学校での学習や生活になじめない子どもが増えているといいます。

<幼児教育改革のねらい>
幼児教育改革というと、計算や漢字など、小学校の学習を前倒しするのかと考える人もいるかと思います。しかし、文部科学省は、今回の改革はいわゆる早期教育の推進を目指すものではないとしています。

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改革の目的は、「すべての5歳児に、生活・学習の基盤を保障する」、「幼稚園・保育園・小学校が連携して一人一人の発達を把握し、早期支援につなぐ」、「市町村の教育委員会と連携し、小学校教育に円滑に接続する」ことで、幼稚園や保育園に共通する「架け橋プログラム」などを検討します。
具体案については、先月、中央教育審議会に設置された「幼児教育と小学校教育の架け橋特別委員会」で議論が始まり、今年度中にまとめる方針です。

<幼児教育の現状>
改革の背景にあるのは、今の幼児教育をめぐる環境と現状への危機感です。

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幼児教育の施設には、文部科学省所管の幼稚園、厚生労働省所管の保育園、それに、両方の機能を持つ内閣府所管の認定こども園などがあり、それぞれの施設が園の個性や保護者のニーズなどに応じた教育や保育をしています。
施設の種類だけではありません。小学校は、教育委員会のもと、同じ教科書を使って授業をするのに対して、幼児教育は、通う施設や園の状況によって、まさに「十園十色」と言えるほど違いがあり、この違いが、入学後の学習態度の差などに影響しているといいます。
通う施設による違いは、昔から多かれ少なかれありましたが、最近は核家族化のさらなる進行や、家庭による教育格差の拡大などで、差が大きくなったと指摘されています。
さらに、おととし10月から幼児教育や保育が無償化されたこともあって、文部科学省は、施設や家庭環境の格差に関係なく、教育の格差をなくし、すべての5歳児が「学びに向かう基礎」を身に付けることを目指します。
すべての5歳児の学びの質を高めるには、文部科学省だけでなく、厚生労働省や各自治体、それに教育・福祉団体が一体となって取り組む、これまで以上の連携が欠かせません。

<育ってほしい姿>
それでは、すべての5歳児をどのように育むのでしょうか。

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文部科学省は、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として、この10項目を挙げています。
「自立心」や「自然との関わり・生命尊重」、「数量や文字などへの関心」、それに「言葉による伝え合い」などです。
障害や発達の違いがある子どもも、個性を生かしつつ、配慮や支援をしながら育みます。
文部科学省は、これらを体験や遊びを通じて身につけることを重視しながら、幼児教育の質を高めようと考えています。
ただ、いずれも抽象的で、いつ、どれくらい身についたのかがわかりにくいものばかりです。
これが幼児教育の難しさを表していると思います。
まして、どうすれば身につくのか、小学校のように教科書はなく、何を重視するかも、通う施設によってさまざまです。
幼児教育の根幹である体験や遊びを通じた学びの質を、どうやって高めていけばいいのでしょうか。

<発達段階に応じた学び>

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文部科学省が全国から集めている効果的な事例の中に、「色水遊び」があります。
3歳児には、きれいな色の水を見せて、「きれいだね」などと話しかけ、感動や興味を引き出しながら、カップに移すなど、やってみたいと思ってもらいます。
一方、5歳児は、多くの色水やスポイトを使って、混ぜると色が変わることなどを体験します。自分で気づくまで声掛けを控えたり、友達といっしょに考えてもらったりします。
このように発達段階に応じた遊びを通して、好奇心や学びに向かう楽しさ、協調性などを育みます。
単に遊ばせるのではなく、ねらいや計画性を持って、段階的に進めることが大切だといいます。
こうした効果の高い実践や関わり方を互いに紹介し合い、共有するとともに、他の施設との連携や研修を進め、学びの質を高めてほしいと思います。

<小学校や自治体との連携も>
また、小学校や自治体との連携も強化する必要があります。

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幼児教育と小学校教育の間にある段差。これは幼児教育の向上だけでは埋まりません。
幼・保・小が協力して、このようなスロープをつくらなければなりません。
小学校では、入学直後の数か月は学習に遊びの要素も取り入れるなど、「スタートカリキュラム」を活用して、学校生活に徐々に慣れてもらうようにします。
ただ、この効果を高めるには、小学校の側が、地元の幼稚園や保育園でどのような幼児教育が行われているかなどを把握することも重要です。
互いに見学し合ったり、連携したりしながら、相互理解を深める必要があります。
中には、連携を超えた取り組みをしている地域もあります。
大阪・箕面市では、16年前に保育所の所管を幼稚園と同じ教育委員会に移すなど、子ども関連の一元化を進めました。0歳から18歳まで教育委員会が一貫して受け持つことで、学校や幼稚園だけでなく、乳幼児健診や子育て支援など、切れ目なく見守り、対応できる体制になったといいます。

<家庭教育支援を>

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そして、子供の成長に一番身近な家庭教育です。
保護者の中には、近くに相談できる人がいない人や、ネット上にあふれる子育ての情報に戸惑っている人も多く、家庭への支援や情報提供が求められています。また、発達の遅れなどに悩んでいる保護者には、専門的なアドバイスも必要です。
文部科学省は、今回、策定する方針の共通プログラムを、家庭教育にも参考になる形にしてほしいと思います。

これまで行われてきた教育改革のほとんどは小学校以上が対象でしたが、文部科学省は、今回初めて、保育園や地域、家庭まで含めた幼児教育全体の向上を掲げました。
ただ、幼児教育は、施設も家庭も多様であることを踏まえると、幼児期に求められる教育の質や視点を示すことは容易ではありません。
幼児教育改革を進めるにあたっては、工夫を続ける幼稚園や保育園の声を集め、子どもや保護者に寄り添いながら進んでほしいと思います。

(二宮 徹 解説委員)

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