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「介護職員さらに32万人必要~今こそ対策の強化を!」(時論公論)

牛田 正史  解説委員

高齢者が急速に増加し、介護の現場は深刻な人手不足に陥っています。
こうした中、4年後の2025年度には介護職員が、さらに32万人必要になるという国の推計が発表されました。人手不足はなぜ一向に解消しないのか。
そして、これから何が求められるのかを考えます。

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■国の新たな推計とは■
日本の介護において人手不足は最大の課題と言っても過言ではありません。
新型コロナでは、少ない人数で、通常の介護のほか感染対策も強いられ、職員の負担が増大しました。事業の一時中止やサービスの縮小を余儀なくされたケースも相次ぎました。

この介護の人手不足について、7月、新たな推計が発表されました。

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まず、団塊の世代が全員75歳以上になる4年後の2025年度には、243万人の介護職員が必要になるとされました。2019年度には211万人だったので、32万人足りない計算となります。さらに高齢者の数がほぼピークを迎える2040年度は、およそ280万人必要に。69万人足りないということになります。
介護職員は年々増加しているものの、高齢化のスピードに追い付いていません。
今でも、介護事業所の65%・実に約3分の2が人手不足を感じています。
それが今後さらに悪化するおそれがあるわけで、極めて深刻に受け止める必要があります。

■人手不足を解消するポイントは■
この人手不足を解消していくためにはどうすれば良いのか。
いくつかのポイントがありますが、今回はそのうち2つを見ていきます。
1つは「賃金の引き上げ」、もう1つは「若い人材の確保」です。
国などはこうした点について対策を打ってきていますが、果たして十分な効果を上げているのでしょうか。

■賃金の引き上げどこまで?■
まず賃金の引き上げです。

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国は介護事業所に支払う報酬の加算を行って賃金の引き上げを図ってきました。
2年前には総額で年2000億円の新たな加算を実施しています。

では実際にどうなったのか。
介護職員の賃金は確かに上昇しました。
去年までの5年間で月額の平均で3万1000円アップしています。
ただこれは、もともと介護報酬の抑制などで抑えられていた賃金を、すこしずつ上げていったものです。全産業はそれよりも、まだ上を行っています。
去年はコロナ禍で残業代が減りやや下がっていますが、それでも6万円近い差があります。
介護事業所からは「ほかの産業と同じ水準でなければ厳しい」という声も聞かれます。
賃金の引き上げはまだ十分ではないといえます。

■若い人材の確保は進んでいる?■
そしてもう1つのポイント、将来を担う「若い人材の確保」です。
国などは、介護の仕事をPRする動画の作成や体験イベントの開催、それに一部の学生に返済免除付きの学資の貸し付けなども行ってきました。

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しかし若い人材の確保は伸び悩んでいます。
介護福祉士を養成する大学や専門学校などの入学者数は減少傾向が続いています。
最近は横ばいになっていますが、これは外国人留学生が増えたからです。
定員の充足率は50%前後に留まっています。
そして、離職率。こちらは徐々に改善し1昨年度は15.3%と全産業と同じ水準となりました。しかし離職した人の4割近くは、勤務して1年未満に辞めています。
これらの背景には、「低賃金による将来への不安」、あるいは「人手不足で負担が大きい」それに「しっかりとした研修や指導が受けられない」といった要因が指摘されています。

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若い人材の確保では外国人も期待されています。
国は2年前から、「特定技能」という新たな在留資格を設けて門戸を拡大しました。
しかし、介護分野で現在、この在留資格を持つ人は2200人あまり。
新型コロナの影響もあり、受け入れは思うように進んでいません。

■今後の厳しい現実■
この介護の人材確保は、これからますます難しくなっていきます。
15歳から64歳のいわゆる生産年齢人口が減少し続けるからです。
2040年には、2015年と比べて20%以上減ります。
これによってすべての産業が、今より激しく人材を奪い合うことになります。
高齢化で人手がさらに必要となるのに、人材は獲得しづらくなるという厳しい未来が待っています。

■現状を打開するために■
この危機的な状況を打開していくために、何をしていかなければならないのか。
国や自治体、介護事業所、そして私たち国民が、それぞれ取り組むべきこと・考えるべきことがあります。

■介護事業所の経営努力■
まず介護事業所です。新たな人材を採用し、定着させていく経営努力が一層必要になります。その一例をご紹介します。

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まず、都内にある訪問介護などを手掛ける事業所。ここは職員が15人と小規模ながら、新人の研修に力を入れています。本当は即戦力としてすぐに働いてほしいところですが、およそ4か月間、みっちりと実地研修などを行います。年の近い先輩を指導役にして、何でも相談できる体制を整え、若い職員が定着しているといいます。

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また若手職員のモチベーションを高めるため、出てきた意見を積極的に事業に反映させていく事業所もあります。大阪でデイサービスや訪問介護を手掛ける事業所は、深夜でも高齢者の生活を支えたいという声を受けて、夜間の訪問介護事業を始めました。若手のモチベーションアップと事業所の成長に繋がっているといいます。

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そして、中小の法人が共同で、人材募集や育成を行う取り組みも始まっています。
京都・滋賀・青森にある8つの社会福祉法人がグループを作り、人材募集と育成を合同で実施。採用を専門に行う職員も配置しPRなどが進みました。さらに、それぞれの強みを生かした共同の研修プログラムも設けました。幅広い層の研修が実現し、同期の輪も広がったといいます。事業所規模の大きい小さいにかかわらず、工夫によって若い人材の確保や定着に一定の成果を上げているんです。

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■国に求められること■

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ただ、こうした事業所の努力だけでは、限界もあります。
そこで国に求められること、それは賃金の低水準を一刻も早く解消することです。
特に重要なのは、いつまでにいくら引き上げるのかという、明確な目標です。
国は「10年以上の経験があるといったリーダー級の職員は、全産業の平均並みに引き上げる」と掲げているものの、それをいつまでに達成するのかはまだ示していません。
リーダー級以外の職員についても賃上げの目標はまだ明確ではありません。
しかしそれでは、状況が改善しないまま、ずるずると時が過ぎてしまうおそれがあります。
今以上に具体的な目標を立てて、対策を推し進めていくべきです。

■私たちが考えること■
そして私たち国民です。
誰もが介護を受ける可能性がありますが、人手不足は介護の質や量の低下につながりかねません。
一方で賃金を引き上げるには、保険料の引き上げか税金の投入などが必要になります。
人材確保のために、どこまでの負担を許容するのか、私たち自身も考えていかなければなりません。
仮に、ほかの産業との差を埋めるために、介護全体の平均賃金を月6万円引き上げるとします。あくまで単純な計算ですが、介護職員は200万人以上いるので、年に1兆円以上必要となります。現在の介護費用の総額が10兆円あまりなので、その1割ほどに相当します。

もちろん金額については精査が必要ですが、これくらいの規模の負担を受け入れるのか。
また保険料の引き上げ、あるいは公費の投入など、どんな方法を取るのか。
そして、負担を抑える代わりにサービスを縮小していくという考え方もあります。
それらを検討しなければなりません。

それでも介護の人手不足は、早急に改善すべき課題です。
国は一刻も早く対策の道筋を示し、広く国民に問いかけていくべきだと思います。
そして、手遅れになる前に、対策を強く進めていく「スピード」が求められます。

(牛田 正史 解説委員)

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