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都議選 都政の課題と国政への影響

名越 章浩  解説委員 権藤 敏範  解説委員

新型コロナウイルス対策や東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非が問われた東京都議会議員選挙。都民ファーストの会が議席を減らして自民党が第1党になりましたが、自民・公明両党で目標の過半数には届かず、いわば勝者なき選挙とも言えます。この結果が国政や今後の政局にどのような影響を与えるのか、また、山積する都政の課題は何なのか、都政担当の名越章浩解説委員と、政治担当の権藤敏範解説委員が解説します。

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(名越)
まず今回の都議選の結果です。

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前回、大敗した自民党は、今回、第1党に返り咲き、公明党は候補者全員が当選しました。しかし、自民党は、過去2番目に少ない議席数で、目標としていた自民・公明両党での過半数にも届きませんでした。
一方、都民ファーストの会は議席を減らしましたが、自民党との差は2議席と踏み留まりました。
共産党と立憲民主党は、お互いの候補者が競合しないように「すみ分け」を行い、それぞれ議席を伸ばしました。
権藤さん、この結果をどう見ますか?

(権藤)
自民党は、公明党との選挙協力が復活しましたが、コロナ禍で組織力を生かしにくかったことや無党派層を取り込めなかったことが伸び悩んだ要因として挙げられます。
都民ファーストの会は、選挙前から議員の離脱が相次ぎ、前回、選挙協力を行った公明党も離れ、今回は厳しい選挙になると見られていましたが、過労で静養した小池知事の動向が注目を集めたという見方もあります。
一方、前回、都民ファーストの会が一手に取り込んだ政権の批判票は、今回、共産党や立憲民主党にも流れたものとみられます。

(名越)
都議会議員選挙は、無党派層の動向が表面化することなどから、直後の国政選挙を占う「先行指標」とも言われています。 今後、どのようなことが政局のポイントになってくるのでしょうか?

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(権藤)
政府・自民党内には、7つの1人区で2勝に留まるなど、過去2番目に少ない議席に、「事実上の敗北だ」として、衆議院選挙への影響を懸念する声も聞かれます。
その立て直しには、依然として、コロナ対策が重要なカギを握ります。
政府が「感染対策の決め手」とするワクチン接種は、目標の1日100万回を上回りましたが、先月下旬、職域接種や自治体の大規模接種に多くの申請があったとして新規の受け付けを休止。接種の加速を促した政府が自らブレーキをかけた形で、今後、批判が高まることも予想されます。
また、東京大会について、出口調査では、無観客で開催すべきが4割近く、中止と再延期で3割余りと、大会への見方は依然、厳しく、感染拡大を招けば政権へのダメージは少なくないでしょう。
さらに、自民党議員に相次いだ政治とカネの問題も懸念材料で、説明責任が果たされていないという指摘もあります。
政府・与党には、こうした国民の不満や不信を、いかに解消していけるのかが問われます。

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一方、野党側はどうでしょうか。
立憲民主党と共産党は、衆議院選挙にも共闘して臨むことにしていますが、不安もあります。
共産党は、その先に野党連合政権を目指していますが、立憲民主党は、支持団体の連合が反発していることもあって消極的です。枝野代表が、先に、政権を獲得した場合にも連立は組まないという方針を示した際には、共産党から批判的な声も上がりました。
国民民主党は、共産党との連携に否定的です。
野党側は、こうした状況を乗り越え、各選挙区で、与党と1対1の構図を作れるのかが焦点となります。
名越さん、都政への影響をどう見ていますか?

(名越)
小池知事にとっては、議会の構成がこれまでと変わることから、これまで通りとはいかない場面も出てくる可能性があります。
都議会第一会派となった自民党をはじめ、議会との向き合い方で気を遣う局面が増えることも予想されます。

その都政の課題を見ていきますと、直面する新型コロナ対策や東京大会の安全な運営など、これらの対策を前に進めるために必要なのが財源です。

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都の財源は、企業からの法人事業税と法人都民税が都の税収の3分の1を占めています。つまり、景気に左右されやすい構造になっています。
その税収。昨年度は、コロナの影響によって前の年度より2800億円あまり減少しました。
減収は9年ぶりのことです。
また、都には、これまで積み立ててきた様々な基金、いわば「都の貯金」がありますが、このうち、「財政調整基金」をコロナ対策のために取り崩しています。
この基金は、コロナの感染拡大前には1兆円近くありましたが、今年度末には、残りが3分の1以下にまで減る見通しです。このままのペースで使い続けると、来年度には無くなるおそれもあります。
感染拡大で、経済へのダメージが長引けば、税収が今以上に減ることも予想され、財源の確保は今後も東京都、都議会の重要な課題といえます。

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また、人口減少社会への対応も課題の1つです。
全国の人口が減る中でも増え続けてきた東京都の人口は、4年後の2025年の1417万人をピークに減少に転じると予想されています。その後にやってくるのが巨大都市・東京の高齢化です。
2030年には4人に1人、2050年には3人に1人が65歳以上の高齢者になる見込みです。つまり、2050年には高齢者の数が400万人を超える計算になり、その数は、今の長野県と新潟県の全人口を足した数に匹敵します。
将来に向けて高齢者が安心して暮らせる医療・介護の体制の整備が、サービスを支える人材の確保とともに必要になります。

このほか主要な道路や橋などの都市インフラの老朽化も大きな課題です。
一方で、東京都は「2050年の100%脱炭素化」を目指し、都内のすべての建物で再生可能エネルギーによる自給自足を実現することなどを目標にしています。
都民の命を守り、経済を立て直し、その先の未来の東京を創っていく。東京都と都議会には、新型コロナへの難しい対応と同時に、首都・東京の機能維持と街づくりをどのように進めていくのか。しっかりとした議論とスピーディーな判断が求められます。

(権藤)
最後に今後の政局について考えます。

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最大の焦点である衆議院の解散・総選挙はいつなのか。
衆議院議員の任期は10月21日で、政府・与党内では、東京パラリンピックの閉幕する9月5日以降の可能性が高いと見られていますので、解散の選択肢は限られます。任期満了ギリギリまで感染状況を見極めた方がいいという指摘もあります。

一方、小池知事が、今後、衆議院選挙への影響力を強めていくのかどうかも焦点です。
▽都知事を辞めて再び転身をはかろうとするのではないかという見方は根強くあります。
あるいは、▽都知事にとどまり、国政政党を支援していくのか。それとも、▽都政で手腕を発揮するのか、その際、都議会自民党や他党との距離感をどうはかるのか。いずれにしろ、出方次第では今後の政局に少なからず影響を与えることになると思います。

(名越)
その小池知事は、議会の力関係が変わったことで、都政運営を円滑に進められるのか、これまで以上に手腕が問われることになります。
一方で、単なる追認機関に終わらない、行政監視機能を果たすことが議会の存在意義です。
待ったなしの課題が山積する今こそ、適度な緊張関係を保ちながら、都政の課題解決に、互いに知恵を出し合って建設的な議論で都政を前に進めていって欲しいと思います。

(名越 章浩 解説委員 / 権藤 敏範 解説委員)


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