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「"2030年46%削減" 脱炭素社会への道筋は?」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

気候変動問題への危機感が世界的に強まる中、4月22日と23日にアメリカのバイデン大統領の呼びかけでオンライン開催された気候変動サミットには、40の国と機関の代表が参加。日本の菅総理大臣は、2030年度に温室効果ガス46%削減をめざす新たな目標を掲げました。

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バイデン大統領の呼びかけで行われた今回の気候変動サミット。一旦はパリ協定から離脱していた世界第2位の温室効果ガス排出国アメリカが、気候変動を重要課題として取り組み、世界をリードする意志を示したことがまず重要でした。そして良好な関係とは言いがたい中国の習近平主席やロシアのプーチン大統領も出席し、気候変動問題では世界が協調して取り組みうることも示されました。
このサミットでホスト国のアメリカは、2030年までに温室効果ガスを2005年に 比べ50~52%削減すると表明。オバマ政権が掲げていた、2025年に26~28%削減という目標をほぼ2倍に引き上げました。カナダも2030年までに2005年比で40~45%の削減。EUは1990年比で55%削減、イギリスは2035年までに1990年比で78%削減という目標を打ち出しています。
先進国では、2050年実質ゼロに向けて途中の2030年代には半減というのが相場感のようになってきた中、日本の菅総理も「2030年度に46%削減をめざし、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていく」と述べました。今回の40か国は排出量の多い国のほとんどを含んでおり、中国など新たな削減目標を示さなかった国もありますが、11月の国連の会議COP26に向けて、世界が結束して取り組む機運を高められたことは確かでしょう。

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それにしても、この「46%削減」という日本の目標、どう見たらいいのでしょうか?
この数字は温暖化対策の効果を具体的に計算して出したというより、菅総理の政治判断で決まったと見られていますが、背景のひとつと言えるのが「整合性」です。菅総理は去年、2050年に排出実質ゼロの脱炭素社会をめざすと表明しましたが、途中の2030年度の目標は26%減に留まっており、これだと2030年以降に極端な削減強化をすることになっていました。一方で46%減は2050年実質ゼロに向かうペースとほぼ一致しています。
そもそも、2050年実質ゼロというのは、パリ協定で目指す「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」ために必要だと計算されているものですが、気温の上昇には年々の排出量の合計が影響するため、2030年の段階でも世界全体で2010年より45%削減することが求められています。
もちろん各国それぞれに事情も、また基準とする年も異なっていますが、こうして見ると今回の「2013年比46%削減、さらに50%に向けて挑戦」という目標は、先進国 として世界的に評価されるギリギリの数字だったとも言えます。

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とは言え、あと9年で2013年比46%削減というのは、並大抵の事ではありません。
菅総理は気候サミットに先立つ22日の政府の会合でこの目標を表明した後、積み重ねてきている政府としての数字だと述べました。しかし、従来の26%削減目標は、石炭火力が電力の何%で原子力は何%といった「エネルギー基本計画」など具体的な政策の積み上げで可能と見られる数字だったのに対し、今回は「こうすれば可能だ」という道筋は、まだ描かれていません。
政府は年末に2050年脱炭素社会を目指す「グリーン成長戦略」を打ち出し、自動車の電動化や水素の利用拡大などを挙げていますが、これらは主に中長期の対策です。あと9年で結果を求められる2030年目標には、よりスピードが必要です。

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そうした中でまず急ぐべきと見られているのが再生可能エネルギー、中でも太陽光発電の大量導入です。ソーラーパネルを並べれば発電可能とも言える太陽光は、洋上風力発電などに比べ導入に時間がかからないためです。
政府は、各地域でメガソーラーなど大規模な発電施設の導入を加速するため、今の国会に温暖化対策推進法の改正案を提出しています。これは全国の自治体に再エネ施設の導入を促進する区域の指定を求め、その区域では建設までの手続きを簡素化します。景観や生態系への悪影響などが無いよう配慮しつつ、促進していく必要があります。
また、住宅用の太陽光パネルと電気自動車などをセットで導入するのを後押しする新たな補助金も今年から設けています。これは、発電量が多い時はEVなどのバッテリーに溜めることで再エネの変動を吸収でき、災害で停電した際も電気を使えるメリットもあるため、普及させていく方針です。さらにここに来て、新築住宅などに太陽光パネルの設置を義務化することの検討も始まっています。
とは言え、再エネだけ増やしても、その分化石燃料の使用を減らさなければ二酸化炭素は減りません。排出量の多い石炭火力発電をいつ止めるのか?では、原子力はどうするのか?など、現在見直しが行われている「エネルギー基本計画」で、日本のエネルギー全体の議論を急ぐ必要があります。

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そして、脱炭素化で最大の課題とも言える、コストの問題も避けては通れません。
日本でも今、炭素税や排出量取引といった方法で脱炭素化を経済的に後押しする「カーボン・プライシング」の検討が進んでいますが、産業界からは国際競争力の低下につながるとの反対意見が根強くあります。
ここでもう一つ考えに入れる必要があるのが、欧米で検討されている「炭素国境調整措置」と呼ばれるものです。これは国境炭素税とも呼ばれ、例えば仮に日本が化石燃料に依存するなどして安く作った製品を欧米に輸出しようとすると、公平な競争にするためとして関税のように負担を求められるというものです。であれば、あらかじめ日本の税制に反映させ税収を脱炭素化やイノベーションの後押しに使うべきでは?とも考えられます。むしろ、脱炭素社会に向けた公平な国際ルール作りに日本も積極的に関与すべきではないでしょうか。

今や、取引先にも脱炭素化を求めるグローバル企業や電気自動車の急速な普及など、世界的に産業構造転換の主導権争いが激化しているとも言える状況です。そしてこの変化は、住宅や自動車、再エネ導入拡大の負担など私たちの暮らしにも密接に関わっています。
国はこうした中でどんな未来図を描き、新たな目標をどう実現しようとしているのか?一刻も早く具体的な道筋を示す必要があります。

(土屋 敏之 解説委員)

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