NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「動き出すヤングケアラー支援」(時論公論)【取材後記あり】

米原 達生  解説委員

病気の親やきょうだいの世話に追われる子ども「ヤングケアラー」が、中学校でクラスに2人程度いることが、国の初めての実態調査で明らかになりました。進学や生活に困難を抱える子どももいて、国も対策の検討を始めています。今回はヤングケアラーの実態と求められる支援について考えます。

j210415_01.jpg

■ヤングケアラーの実態

j210415_03.jpg

東京に住む26歳の男性は中学生の時に父親が若年性認知症になりました。症状が進行して昼夜が逆転し、暴力もみられるようになった父親をなだめるため、深夜は海外のサッカー中継を一緒に観戦、休日は山登りに連れて行きました。母親が働いて生計を立てましたが、生活は厳しく、高校は確実に合格できる都立高校1校を受けて進学。介護のことは同級生に話しても、理解できない様子でした。学校の先生にも「家族の問題で難関大学を目指さないのはおかしい」と言われ、父親のことは誰にも相談できなくなったといいます。介護をしながら独学で2浪して入った大学では、学費と生活費を稼ぐためのアルバイトで必修授業に出席できず留年。27歳になる今年、就職活動をしています。

j210415_04.jpg

神奈川県の31歳の女性は、母親が交通事故に遭ったことで小学生からヤングケアラーになりました。母と子の二人暮らしで市からはヘルパーが派遣されてきましたが、中学に入ると支援の対象は食事や洗濯も母親だけに絞られるようになりました。朝食の食器の片付けも登校前に済ませるよう注意されてからは、朝食を抜く日が増え、昼食も菓子パンだけの日が続いたと言います。家事やケアの時間は1日およそ4時間。成績も下がり、高校受験のAO入試では「介護が得意」とアピールしましたが結果につながりませんでした。別の自治体に引っ越して母親への支援が増えると負担も減り、成績も上がって希望の大学に進学できたという女性。しかし「中学生の頃に好きなことや部活動に打ち込むなど、もっと子どもらしい時間を過ごてみたかった」と振り返ります。

j210415_05.jpg

国が今回、初めて行った実態調査では、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話をせざるを得ない子どもを「ヤングケアラー」としています。調査の結果、世話をしている家族がいると答えた子供は中学2年生の段階で、17人に1人、つまり、クラスに2人程度いることが明らかになりました。世話をする対象は、障害や病気の親、祖父母、幼いきょうだいなど様々で、その時間は、平均で1日4時間、7時間以上も1割を超えました。時間が長いほど、宿題が出来なかったり、学校で1人で過ごすことが多かったりする割合が多くなりました。
そして、ケアのことを相談した子どもはあまりいません。

子どもが家族をケアすること自体は否定するものではありませんし、ヤングケアラー自身、家族としての責任と思っているケースも多いように感じます。
しかし、悩みを相談できず取り残されたように感じ、同世代から進学や就職で遅れていく現実は、不条理な話としかいいようがありません。

■問題の構造
子どもが家族の世話をすることは古くからあることで、美徳とされてきた面もあります。では、なぜ、社会問題となってきたのでしょうか?

j210415_07.jpg

大きな理由の一つとして指摘されるのは、家族の形の変化です。誰かが介護が必要になった場合、家族が多かった時代は分担しながら面倒を見ていました。

j210415_08.jpg

しかし、戦後は平均5人いた家族の人数は今や平均2.4人まで減っています。核家族化に加えて、きょうだいの数も減少傾向にあり、ひとり親の家庭の割合は増え、子育てと親の介護が同時に来るダブルケアで手が回らない家庭も晩婚化に伴って増えています。

j210415_11.jpg

一方で、親が職場で求められる働き方は簡単には変わりません。限られた家族の中で誰がケアをするのか、そのしわ寄せが子どもにくるケースもあります。

では、利用している介護サービスはどうかというと、介護保険も障害福祉サービスも、原則、介護を必要とする人・本人に対するサービスです。現実には子どもの分の御飯や洗濯をまとめてしてあげるヘルパーもいますが、制度上は家族の生活まで援助することはできません。家族は支援の対象と言うより、ケアの担い手と見なされがちなのが現状です。

そして、学校での子どもの評価に、介護はほとんど関係ありません。ヤングケアラーにみられる初期の変化は、宿題をしてこない、忘れ物、遅刻などです。家族の世話で時間が間に合わなかったり、親がチェックできなかったりするからなのですが、先生からは「困った子ども」として見られがちです。友達との関係も、共通の話題が理解できないと話が合わず、家族の介護の話をすると気まずくなった、という声も耳にします。遅刻は欠席になり、やがて不登校になるケースもあります。

ある教育関係者は「ヤングケアラーという言葉を知って、“困った子”が“困りごとを抱えた子”だったんだと腑に落ちた」と語ります。変わりゆく家族の形が、今の社会に限界をきたしている中で、こどもが出すSOSのサインを受け止めきれていない現状をヤングケアラーの問題は象徴しているともいえるのです。

■ヤングケアラー支援の方向性
ヤングケアラーの存在が明らかになった今、国も支援策の検討を始めました。
では、どのような支援が必要になるのでしょうか。

▽支援①ヤングケアラーの負担軽減を
一つは、介護や福祉サービスに、ヤングケアラーを支援する視点を入れていくことだと思います。

j210415_13.jpg

ケアプランを立てる時は、介護が必要な人の状態に加えて、家族の状況も把握します。しかし聞き取りの対象は主たる介護者が中心で、子どもの視点は抜けがちですし、サービスは原則、介護される人のために限定されています。しかし、子どもがケアする側に入っているのであれば、勉強時間や部活動の時間を確保できるように時間を配慮するなど、負担を減らす視点をケアプランに組み込むことはできないでしょうか。加えて、家族の分もまとめて食事や洗濯をするなどヘルパーが善意で行っているようなことは、制度上も柔軟に出来るようにすれば、大きな支援だと思うのです。もちろん、学校生活に問題を抱えていることが分かれば、ほかの支援につなぐことも大事です。

▽支援②発見と支援の仕組みの構築
もう一つ必要になるのは、ヤングケアラーを見つけ、支援につなぐ仕組みです。

j210415_14.jpg

新潟県南魚沼市では6年前に全国で初めて実態調査を行ったことを機会に、取り組みを進めています。教員を対象にヤングケアラーについての研修会を継続して開き、遅刻や忘れ物といった子どものサインをキャッチするようにしています。
そして、学校から要請があると、教育委員会で窓口となる職員とスクールソーシャルワーカーが学校に派遣されます。家庭状況についても聞き取りを行い必要と判断されれば、福祉部局とも連携して支援につなげていくのです。

ヤングケアラーであることを相談できる子どもがあまりいない中で、学校はそれを見つけ出す貴重な場です。加えて、必要な支援は家庭によって様々であり、多岐にわたります。このため、まずは教員に研修などでヤングケアラーについて理解してもらうとともに、自治体ではワンストップの窓口を設け、教育部門と福祉部門が連携して必要な支援につないでいく、その仕組みを作ることが必要です。しかし教育も福祉も現場の人手不足は深刻ですから、国にはそれを踏まえて自治体の仕組みづくりをバックアップすることも求めたいと思います。

(米原 達生 解説委員)


【取材後記】
小学4年生の国語の教科書に「ごんぎつね」という物語があります。登場するのは、病気の母親の世話をしていた江戸時代のヤングケアラーともいえる青年・兵十と、兵十にちょっかいを出すキツネのごんで、母親が亡くなりひとりになった兵十に、ごんが贈り物を届けるも、事情を知らない兵十に撃たれてしまうという童話です。私は子ども3人がいるので、宿題の音読に繰り返し付き合いましたが、兵十とごんに共通するのは「ひとりぼっち」であることです。
ヤングケアラーの最大の問題は、ケアや家事の時間によって、学習や同世代の子どもとの交流の時間を失い、取り残され、成長の機会を損ねるリスクがあることだと思います。そして、そのケアの時間が、ほかの人から評価される場面は、残酷なほど少ないというのも問題です。
一方で、ヤングケアラーが子どものうちは、自分が支援されるべき対象だと当事者自身が認識できる状況にありません。そのことも、古くからある問題なのに支援が遅れた原因だと思います。社会問題として最近クローズアップされてきたのは、このブログの冒頭に出てきたような大人になった元ヤングケアラー達が、自身の体験をようやく語り始めたことも大きいのです。
「その程度は子どもがやって当たり前じゃない」と感じる人もいると思います。しかし、この問題は、超高齢化・少子化が今後も進展する中で、深刻になることはあっても、放置して改善することはありません。ヤングケアラーをどう支援するかは、私たちの社会に介護やケアをどう位置付け、持続可能な形にしていくかを問いかけているように感じました。

キーワード

関連記事