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「安全保障政策のこれから 日米首脳会談を前に」(時論公論)

田中 泰臣  解説委員

今月16日に行われる日米首脳会談。中国の台頭で東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、日米同盟の強化が重要な議題の1つとなります。会談を前に、日米同盟の現状と、これからの安全保障政策について考えたいと思います。

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《日米首脳会談》

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菅総理大臣とアメリカのバイデン大統領の会談は、今月16日、ワシントンで行われます。バイデン大統領にとって対面で会う初めての外国首脳となります。海洋進出を強める中国への対応などが議題となり、菅総理大臣は、日米同盟の強化、そして日米の結束を対外的に示す機会にしたい考えです。

《安全保障関連法で日米同盟が深化》
その日米同盟のもと、自衛隊とアメリカ軍は、今、どのような連携をしているのでしょうか。両者の関係を大きく変えたと多くの関係者が口をそろえるのが、5年前に施行された安全保障関連法です。
覚えている方も多いと思います。集団的自衛権の行使をはじめ、様々な自衛隊の活動を可能にしたこの法整備をめぐっては、成立までに野党による激しい反対、国会の外でも連日、大規模な反対デモなどがありました。

《深化させたのは武器等防護》

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安全保障関連法で可能になった活動のうち、特に関係を強固にしたと言われるのが、当時は、それほど注目されていなかったものでした。「武器等防護」という活動です。これは、日本の防衛に資する活動をしているアメリカ軍などの艦船や航空機を、自衛隊が武器を使って守ることができるというものです。共同訓練の際や弾道ミサイルの警戒時などに行われていて、緊急時でなくても、平時からできるというのが大きな特徴です。
初めて行われたのは4年前。海上自衛隊最大級の護衛艦「いずも」がアメリカ軍の補給艦を、千葉県の房総半島沖から護衛しました。

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この活動、どのぐらい行われているかと言いますと、最初に行われた2017年は2件、その後16件、14件、そして去年は一気に増え25件でした。増加の要因について、政府関係者は、対中国を念頭に日本周辺で共同訓練が増えてきているのが大きいとしています。

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おととしまで、歴代最長の4年半にわたって自衛官トップの統合幕僚長を務めた河野克俊さんは、アメリカ軍からの要請は、海上であれば装備がぜい弱な補給艦や輸送艦などが単独で動く時が多く、アメリカ軍幹部からは、「日本は変わった。とても助かる」と言われたと話しています。「以前は自衛隊がアメリカ軍に守ってもらうことはあっても、こちらができることは限られていた。この活動のおかげで日米同盟は確実に強化された」と言います。
一方、この「武器等防護」に危惧を抱く専門家もいます。元防衛官僚で内閣官房副長官補を務めた栁澤協二さん。安全保障関連法に反対してきた栁澤さんは、「この活動で平時から作戦上の日米一体化が進んだ」と指摘し、「米中対立が激しくなっている今、意図しない衝突がないとは言えず、自衛隊が巻き込まれてしまうおそれがある」と言います。

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この活動は、米中関係が悪化すれば、その機会はさらに増えることが予想されます。またアメリカ軍だけでなく、オーストラリア軍も新たに防護する対象に加える方向で調整をしていて、実現すれば、さらに活動範囲が広まる可能性があります。
法律では、現に戦闘行為が行われている現場では行わないとして、アメリカ軍の武力行使と一体化しないとしています。この活動について防衛省はアメリカ軍の運用にかかわるとして実施件数の他は、具体的な発表はしていません。活動の必要性とともに、どこまで活動や対象が拡大するのかといった懸念について、政府は可能な限り説明し、検証できるようにしていくべきだと思います。

《新たな活動の可能性は?》

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今後、日米で新たな活動に踏み出すことはあるのでしょうか。注目したいのは安全保障関連法で可能になった2つです。アメリカ軍が攻撃され、日本の存立が脅かされている際に武力行使が可能となる集団的自衛権の行使。日本の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」となれば、アメリカ軍に弾薬の提供などを行う後方支援。どちらも日本が攻撃されていなくても実施可能なものです。これらは今まで実施されたことはありません。しかしかつて日本周辺の情勢が緊迫した際、防衛省内で密かに検討されたことがありました。

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4年前、アメリカのトランプ大統領が、ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮のキム・ジョンウン総書記を「ロケットマン」と揶揄し、日本海に空母3隻を展開させるなど米朝関係がかつてないほど悪化していたころのことです。
統合幕僚長だった河野氏は、アメリカ軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長と頻繁に連絡を取り合っていたと言います。そして、密かに数人の部下に対し、有事に備え、集団的自衛権の行使や重要影響事態の後方支援などで、自衛隊として何ができるか検討するよう指示したということです。その後、米朝両国が対話に転じたため、それ以上の検討はしなかったとしています。

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今、「新冷戦」とも言われる米中対立の中、この時と同様に日本周辺で懸念の声が上がっているのが「台湾有事」です。アメリカ軍幹部の1人は先月、「地域最大の懸念は台湾への中国の軍事動向だ」と発言しました。先月開かれた日米の外務・防衛の閣僚協議、「2+2」では、10年ぶりに台湾に言及し、台湾海峡での平和と安定の重要性を確認しました。これに中国は強く反発。今月、空母の部隊が台湾の周辺海域で訓練を実施したなどと発表しました。今回の首脳会談でも、同様の言及があれば、さらなる中国の反発も予想されます。
もちろんアメリカがどう対応するかにもより、台湾有事が即、自衛隊の新たな活動につながるということではありません。ただ台湾から沖縄県の与那国島までの距離は111キロ。万が一の時にはどのような活動が想定されるのか、その時の判断基準はどうなのか、国会の場などで議論しておくことは重要だと思います。

《“尖閣”で法整備求める声も》
また首脳会談で取り上げられる見通しの、中国海警局が沖縄県の尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している問題も、重要な課題です。

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この問題への対応は、安全保障関連法の整備の際にも検討され、自衛隊に迅速に治安出動などを命じることができる見直しが行われました。しかし、中国がことし2月、海警局に武器の使用を認めた海警法を施行したことで、自民党内などから、それでは不十分との声が出ています。国防部会などは先週、菅総理大臣に直接、必要な措置を早急に検討するよう求めました。また別の議員連盟は陸上自衛隊を事前に展開させる法整備などを提言。野党の国民民主党は、自衛隊による海上保安庁への支援を明確にする法改正を求めています。一方で共産党は、「自衛隊が出ていけば一触即発の状態になる」と法整備に反対していて、自民党内にも「事態をエスカレートさせるおそれがある」と慎重な意見があります。政府内でも、具体的な検討は進んでいませんが、今後の中国の動向によっては、法整備の議論が高まることも予想されます。

尖閣諸島の問題をはじめ、中国の台頭によって日本周辺の安全保障環境がすさまじいスピードで変化しているのは間違いありません。政府には、首脳会談で日米の結束をアピールするのにとどまらず、今の法律で対応は十分なのか、それとも新たな法整備が必要なのか。と同時に、ブレーキの部分、自衛隊の活動にどう歯止めをかけるのかなどについても、しっかりと検証・検討しておくことが重要で、地域の安定に向けた外交努力も含めて、しっかりと議論していくことが求められると思います。

(田中 泰臣 解説委員)

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