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「ミャンマー危機 事態打開へできることは」(時論公論)

藤下 超  解説委員

クーデターから2か月余りが経ったミャンマーは、情勢が悪化の一途をたどっています。
軍は抗議活動を抑え込もうと容赦ない弾圧を続けていて、犠牲者は580人を超えています。
事態打開のため、何ができるのかを考えたいと思います。

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解説のポイントは、次の3つです。
▼泥沼化するミャンマー情勢
▼一枚岩になれない国際社会
▼日本政府、企業にできることは

【激化する弾圧】
まず、激しさを増す軍による弾圧について見ていきましょう。
先月27日、国軍記念日に合わせて大規模な弾圧が行われ、現地の人権団体によりますと、この日だけで140人以上が死亡しました。
治安部隊はデモ隊を鎮圧するだけでなく、住宅に踏み込んで発砲するなどしていて、自宅周辺で遊んでいた子どもまでが犠牲になりました。

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弾圧による犠牲者の数は先月中旬から急激に増え、今月6日までに581人に上っています。
アウン・サン・スー・チー氏を含む2700人以上がいまも拘束されています。
弾圧が強まったことから、最大都市ヤンゴンでは、かつてのように何千人も参加する大規模な抗議デモは見られなくなったということです。
軍は、このまま支配の既成事実化を進め、スー・チー氏率いる政党を排除して、総選挙のやり直しを強行する狙いと見られます。
しかし、市民の怒りや不満はうっ積しています。
軍がシナリオ通りに事を進めようとすれば、再び抗議活動が活発になる可能性もあり、情勢は依然流動的です。

【少数民族武装組織の動向は】

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今後、注目されるのが、長年軍と内戦を続けてきた少数民族武装勢力の動向です。
この地図の濃い色の部分、7つの州が少数民族の多く住む地域です。
多民族国家のミャンマーには、およそ20の少数民族武装勢力があり、その半数は2015年以降、ミャンマー政府と順次停戦し、和平協議を続けてきました。
しかし、クーデター後は軍を批判して和平協議に応じておらず、弾圧を逃れてきた市民をかくまっている武装勢力もあります。
スー・チー氏率いる政党の議員らでつくる抵抗組織は、こうした武装勢力に共闘を呼び掛けています。
平和的な抗議活動に限界を感じた若者たちが、武装勢力に合流し、軍事訓練を受ける動きも出ているということです。
こうした動きが、軍に武力弾圧の口実を与える懸念も出ています。
軍は、デモ隊に加勢して軍の拠点を攻撃した少数民族カレン人の武装勢力に空爆を行い、一時、数千人が国境を越えてタイ側に避難しました。
ミャンマー情勢に詳しい京都大学の中西嘉宏(なかにしよしひろ)准教授は、「この10年、和平に向けた努力が続けられてきたが、以前の内戦状態に戻る可能性がある。ただ、武装勢力はゲリラ戦は得意だが、本格的な戦闘で軍に対抗するのは難しいだろう」と話しています。

【一枚岩になれない国際社会】

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ミャンマー情勢が泥沼化してしまった背景には、軍の横暴に、一致した対応をとれない国際社会の現実があります。
抗議活動への大規模な弾圧のなか開かれた「国軍記念日」の式典に、日本や欧米諸国は政府関係者を派遣しませんでした。
しかし、中国・ロシアをはじめ8か国は式典に参加し、国際社会の足並みの乱れを露呈しました。
この後開かれた国連安全保障理事会でも、武器の禁輸などの制裁を欧米諸国が求めたのに対し、中国やロシアは、内政干渉だとして反対しました。
ミャンマーに輸入される武器の8割以上は、中国とロシアからのものです。
とくに中国には、ミャンマーにある石油・ガスのパイプラインなどの権益を守るため、軍への影響力を確保したい思惑もあるものと見られます。
国際社会が一枚岩になれないことで、軍に対する外交圧力が迫力を欠いたものになっているのです。

【日本の役割は】

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そうした中、日本には何ができるのでしょうか。
これまで日本は、G7の中で唯一軍とのパイプのある立場を生かし、軍に対し、暴力の停止と、拘束されている人たちの解放、民主的な体制への復帰を、直接求めてきました。
しかし、軍は聞く耳を持たず、逆に暴力をエスカレートさせています。
これからは、軍とのチャンネルを維持しつつも、新たなアプローチが必要ではないでしょうか。
重要なのは、同じくミャンマー軍とのパイプのあるASEAN諸国との連携です。
ASEANは内政不干渉を原則としていますが、インドネシアがミャンマー問題をめぐる首脳会議の開催を求めるなど、一部の国は積極的に関与する姿勢を見せています。
しかし、中国の王毅外相は、先週、インドネシアなど、ミャンマー問題への関与に積極的な東南アジア4か国の外相と相次いで会談し、内政不干渉の原則を順守するよう、くぎを刺しました。
こうした中国の動きに対し、日本には、ASEANの前向きな動きを後押しする役割が求められると思います。

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日本にとって最大の外交カードは、ミャンマーへのODA=政府開発援助です。
支援額を公表していない中国を除いて、日本はミャンマーに対する最大の支援国で、2019年度だけでおよそ1900億円に上っています。
政府は、ODAの新規の供与を当面見送る方針ですが、継続案件も含めた全面的な停止など、より厳しい対応を求める声も出ています。
これに対し、政府は、「事態の推移や関係国の対応を注視しながら、どういった対応が効果的か、よく考えていきたい」としています。
軍の変化を促すため、ODAカードを効果的に切ることが出来るのか、日本の外交の力が試されています。

【経済面での圧力強化を】

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経済面での圧力の強化を求める声も強まっています。
ミャンマーには、軍と関係する2つの大手複合企業があります。
傘下に不動産や建設、金融など幅広い業種を手掛ける100社以上の企業があり、その収益が軍の資金源になってきたと指摘されています。
アメリカはこの2社に、資産凍結などの制裁を科し、ブリンケン国務長官は、先週、各国の政府や企業に、軍の資金源を断つため、ミャンマーへの投資を見直すよう訴えました。
日本企業も無関係ではありません。
大手ビールメーカーの「キリンホールディングス」は、制裁対象の企業と合弁でビール事業を行っています。クーデターのあと、キリンは提携を解消する方針を発表しました。
また、日本のODAで、ヤンゴンに建設されている橋の工事では、元請けの日本企業が制裁対象の企業に橋げたの製造を発注しています。
この元請け企業は、「制裁を受け、今後の対応を検討中だ」と話しています。
さらに、日本の官民ファンドやゼネコンが関わっているヤンゴンの商業施設の開発事業は、事業用地の賃料が国防省に支払われています。
軍の資金源になっているという批判に対し、官民ファンドは、「最終的な受益者は、軍ではなくミャンマー政府だと認識している」と話しています。
軍系企業の活動内容は公表されていない部分が多く、ミャンマーで事業を続ける進出企業は、ビジネスが本当に軍の利益になっていないか、細心の注意を払う必要があります。
経済制裁は、市民の生活にも大きな影響を与えるおそれがあります。
それでも、常軌を逸したともいえる軍の弾圧を止めるには、制裁の強化しかないという声は、そのミャンマーの市民の間からも強まっています。
日本を含む国際社会には、こうした声をどう受け止め、どう対応するのか、判断が迫られています。

(藤下 超 解説委員)

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