政府は、新型コロナ対策のための改正特別措置法で新設された「まん延防止等重点措置」を大阪、兵庫、宮城の3府県に初めて適用することを決めました。菅総理大臣は、「各地で発生する波を全国規模の大きな波にしないため、感染を封じ込めていく」と強調しました。なぜいま、この措置が必要なのか、感染の現状と今後の課題を考えます。
「まん延防止等重点措置」は、経済社会に大きな影響を与える「緊急事態宣言」を出すような事態を避けるため、宣言が出されていない段階で、感染拡大の動きが見えた場合、ただちに抑え込むことができるように設けられました。
政府は、当初、各自治体が講じている対策の効果を見てから検討する方針でした。しかし、各地で感染が急速に拡大したこと、2021年4月から高齢者へのワクチン接種も始まることから、医療体制のひっ迫を避けるため、調整を加速させ、判断を早めざるを得なかったものと見られます。期間は、さっそく4月5日から大型連休の最後の祝日の5月5日までとなりました。
この「重点措置」の特徴は、地域限定の集中的な対策が可能なことです。緊急事態宣言は、対象が都道府県単位ですが、知事が市区町村を限定できます。
また、実施できる措置は、緊急事態宣言と比べて、飲食店への休業要請や命令ができないことや、罰則が宣言より軽いなどの違いはありますが、知事は営業時間の短縮を要請や命令でき、従わない場合は罰則も規定されています。
また、大阪府の吉村知事が「飲食でのマスクの義務化」に言及しているのは、対象地域で講じることができる措置として、「感染防止の措置を行わない人の入場禁止」があげられていることから、飲食店への命令も念頭に置いたものです。
こうしてみてきますと、知事が講じることができるのは、緊急事態宣言に準ずる強い措置ということができます。そして、国との関係に加えて、同じ府県の中で、対象地域、あるいは、それ以外の市区町村との十分な連携や調整が必要で、その役割や責任はより重く、指導力が問われることになります。
では、今回なぜ3府県に適用されるのか。それぞれの地域の感染状況はどうなっているのでしょうか。
大阪府では、2021年1月に緊急事態宣言が出されたあと、感染者は減少しました。その結果、宣言を東京などより早く、2月28日に解除しました。しかし、解除の直後3月上旬ころから感染者数は増加に転じていました。3月中旬からその傾向が強まり、4月1日の新たな感染者は、616人でした。兵庫県や宮城県も、3月に入って増加傾向が強まっています。
これを東京都と比較してみてみます。東京は、減少傾向が続かず、緊急事態宣言が解除された3月21日前から増加傾向で、今も増加しています。ただ、大阪や兵庫は感染者の増加割合が大きくなっています。
東京と、何が違うのでしょうか?
大阪や兵庫では、イギリスで見つかった変異ウイルスに感染しているケースが相次いで見つかっています。変異ウイルスは、全国的な広がりを見せ始めていますが、特に関西で多く報告されています。変異ウイルスは感染力が強いとみられていて、これが感染急拡大の原因になっている可能性が指摘されています。
宮城県では、これまでのところ、変異ウイルスが関西のように多いとは考えられていません。ただ、宮城県では、大阪府と同様に、20代から30代の感染者が最も多くなっていて、感染は、若い世代で広がっているとみられています。
さらに、各地の繁華街での人の流れを見てみると、大阪では緊急事態宣言が解除された、2月28日の1.5倍近くに増えているというデータもあります。
言い換えると、
▽ウイルスの感染力の強さ、
▽若者は、無症状あるいは軽症が多いため、感染に気付かず周囲にウイルスを広げてしまうケースが多いと懸念されること、
▽人の移動や接触を防ぐという基本的な感染症対策が、十分徹底されなくなっていること
などから、感染拡大を防ぐために、より強い措置が必要になっていると考えられたのです。
では、「まん延防止等重点措置」を運用していくうえでの課題は、何でしょうか。
まずは、地域によって実施される対策が違ってくることです。「重点措置」が適用される地域とそうでない地域が、同じ府県の中にあります。また全国的には、これとは別に、自治体独自の営業時間の短縮要請などが行われている地域もあります。国民が、こうした状況をそれぞれどう判断して行動していくか、より明確な指針とていねいな説明が必要になります。
また、対策の柱となる飲食店などへの財政支援も課題です。政府は、午後8時までの営業時間の短縮に応じた飲食店への協力金を、事業規模に応じた仕組みに改める方針です。中小企業は売上高に応じて1日あたり4万円から10万円、大企業は売り上げ減少額の4割、1日最大20万円にするとしています。強制力だけでは対策の効果は期待できず、支援のあり方は、これまでも国会で各党から強い要望が出されていました。こうした方針を飲食店側がどう評価していくかが、今後の注目点になります。
さらに、「重点措置」の新たな適用と解除をどうするかも重要です。
緊急事態宣言がステージ4に相当する場合としているのに対し、「重点措置」は、ステージ3を想定し、必要ならステージ2でも適用が可能です。一方で、解除は、都道府県全体に感染拡大させるおそれや医療体制のひっ迫の状況を総合的に判断するとしています。対策の機動性を重視し、幅を持たせた形ですが、それだけに「適用しやすく、解除しにくい」ようにも見えます。野党などからは、緊急事態宣言の解除が早すぎたなどという厳しい批判の声があがっています。適用地域を次々に増やしていけば、緊急事態宣言との違いがわかりにくくなります。一方で、措置が長期化したり、解除と適用が頻繁に繰り返されたりするようでは、混乱が広がり、国民の協力が得られないおそれもあります。
第4波の感染拡大が懸念されているのは、重点措置が適用される大阪府などだけではありません。これをどう見れば良いのでしょうか?
感染は、いま、全国的にも増加傾向にあります。3月31日までの1週間の感染者が前の週より増加したのは、41の都府県です。また感染力が強いとみられている変異ウイルスの感染が確認されたのは、3月30日の時点で34都道府県に上っていて、関西だけでなく次第に広がってきています。
つまり、重点措置の対象となっていない地域でも、たとえば変異ウイルスが広がるなどすれば、今後、急激な感染拡大が起こるかもしれず、対策の強化や警戒が必要です。
手洗いや、マスク、三密の回避といった、基本的な対策の徹底が必要ですが、さらに、感染拡大の端緒=予兆をつかむため、
▽繁華街、あるいは高齢者施設などでの、症状のない人のPCR検査の実施、
▽感染者が確認されたときの濃厚接触者の調査を徹底する、
▽また、変異ウイルスが広がっていないか調べるため、ウイルスの遺伝情報の検査を強化することが必要です。
そして、変異ウイルスは、いずれ国内で主流となると専門家は指摘していますが、そうなるのを遅らせるために、変異ウイルスが広がっているとみられる関西の地域と他の地域との人の行き来について、不要不急の移動は自粛することが求められると思います。
全国的に感染が増加傾向にある中で、「まん延防止等重点措置」が、政府が狙うように、感染の拡大を限定した地域で早期に封じ込め、医療体制のひっ迫を避けることができるのか。今回初めて適用される3府県での取り組みは、次の波に備える日本の新型コロナ対策の重要な試金石となりそうです。
(伊藤 雅之 解説委員 / 中村 幸司 解説委員)
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