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コロナ対策 総務省接待 問われる政治の役割

梶原 崇幹  解説委員

国会は、26日、新年度予算が成立し、後半国会へと入りました。これに先立って、政府は、今月21日、1都3県への緊急事態宣言を解除しました。国会審議から見えてきたコロナ対策などの課題と、これからの政治の役割について考えてみたいと思います。

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(新型コロナウイルス対策)
まず、新型コロナウイルス対策についてです。

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年末から急速な感染の拡大がみられたことを受けて、政府は、国会の召集に先立って、1月8日から、1都3県に緊急事態宣言を出し、その後(13日)、対象地域を拡大しました。1都3県の宣言は、2度延長され、今月21日まで2か月半続いたことから、前半国会の大きな争点となりました。

菅総理大臣は、1都3県への宣言を解除するにあたって、リバウンドを抑えるため、変異ウイルス対策やPCR検査の強化など、5つの柱からなる総合対策を打ち出しました。
ただ、首都圏や関西、その他の地方でも、すでに新規感染者数が増加する傾向がみられ、全国的に変異ウイルスの感染者も増えています。

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前半国会では、野党側は、▼去年の年末の段階で感染者数が急増していたにも関わらず、菅総理大臣が、年内の緊急事態宣言を見送り、年明けになって、4都県の知事の要請を受ける形で、発出を決めたことや、▼対象地域を、当初、首都圏に限ったことをあげ、対応が後手に回り、感染の拡大を招いたと批判しました。
こうした批判も踏まえて、政府は、今回、再拡大の兆候をいち早くつかむため、無症状者を対象にしたモニタリング検査を拡大し、来月には1日5000件の規模とするとしています。
ただ、検査数が少ないという指摘や、ウイルスに特徴的な「抗原」と言われるたんぱく質を調べる、より安価な「抗原検査」を頻繁に行うべきだとの意見もあり、さらなる検討の余地がありそうです。

また、政府は、病床の確保や保健所の体制強化にも取り組むとしています。

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第3波では、政府の目安を参考に、都道府県が作った病床の確保計画は十分ではなく、自宅療養中に死亡するケースが急増しました。ことし1月以降に感染で亡くなった人は、これまでに死亡した人の6割を占め、5500人を超えています。
病床の確保や保健所の体制強化にあたっては、自治体と緊密に連携し、着実に進めていく必要があります。

そして、第3波では、総理大臣のメッセージの出し方が弱く、国民の間で、誤った受けとめもみられるとの批判を招きました。
感染の長期化に伴って、国民には、負担やストレスによる疲労の色が次第に濃くなっています。コロナ禍のような危機の克服には、国民の結束が欠かせません。そのためには、国のリーダーが、国民に寄り添い、対策や見通しについて、ことばを尽くして説明していく姿勢が、なにより求められていると思います。

(総務省接待問題)
前半国会では、総務省の幹部が、衛星放送関連会社「東北新社」やNTTから国家公務員の倫理規程に違反する疑いのある接待を受けていた問題が、大きく取り上げられました。

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総務省の調査によりますと、総務省の官僚ナンバー2である総務審議官や衛星放送業務を担う局長級の幹部ら11人が、東北新社から、2016年から去年までの5年間に、のべ37回にわたって接待を受け、その内の20回は、菅総理大臣の長男も出席していました。
この時期、東北新社は、外資規制に違反していたにも関わらず、衛星放送事業の認定を受け、今国会で問題を指摘されるまで、取り消されませんでした。
また、NTTをめぐる総務省の調査では、総務審議官が、2018年から去年までの3年間で、のべ3回、あわせて10万円あまり、情報通信技術の国際戦略を担う局長が、去年1回、4万円あまりの接待を受けていました。
2018年8月、当時の菅官房長官は、「携帯電話料金は引き下げの余地がある」と発言し、去年9月には、NTTは、日本の通信政策の大転換である、NTTドコモの完全子会社化を発表しています。

一連の接待問題を受けて、総務省は、多くの幹部職員の処分を行ったほか、検察官出身の弁護士を含む第三者委員会を設置し、政策への影響を調査するとしています。

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東北新社の外資規制違反は、公開されている有価証券報告書などで容易に確認できるもので、総務省の審査体制が甘いとの批判はまぬかれません。
この外資規制違反をいつ認識したかについて、総務省と東北新社の言い分が食い違っているほか、NTTの携帯料金引き下げなどについても、接待の時期と重なるだけに、行政の公正性への疑念が生じていて、後半国会では、実態の解明を含め論点になりそうです。

さらに、審議の中では、大臣がNTTの社長らと食事をしていたことも明らかになり、大臣規範のあり方も問われていることから、国会は、「官」と「業」だけにとどまらず、「政」と「官」、「政」と「業」との関係についても幅広く議論を行い、3者の適切な距離感について方向性を示すことが求められます。

また、一連の国会審議では、参考人として呼ばれた総務省の官僚が、一度、答弁した内容を、週刊誌などの報道を受けて、修正することが相次ぎました。政府の中に国会答弁を軽視する風潮がないのか、政府の問題であるとともに、立法府としても、与野党を超えた取り組みが求められています。

(今後の政治の流れは)
では、後半国会の政治日程ついてみておこうと思います。

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後半国会から秋にかけての主な日程です。
政府・与党は、来月(4月)下旬にも、内閣の看板政策である、デジタル庁の創設を柱としたデジタル改革関連法案の成立を図りたいとしています。ただ、国民の関心は、引き続きコロナ対策で、感染の再拡大の防止や、影響を受けた人や事業者に対する支援や補償のあり方が最大のテーマとなりそうです。

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日程は、衆参の補欠選挙・再選挙や東京都議選、東京オリンピック・パラリンピックなど非常にタイトで、秋に任期満了を迎える衆議院の解散時期も限られてきています。
衆議院の解散・総選挙について、これまで、東京都議選と同時に行うか、または、オリンピック・パラリンピックが終わった秋に行うという見方がありましたが、ここにきて、自民党の一部から、4月末にも解散があるのではないかとの観測が出始めています。
日米首脳会談やワクチンの接種など、政権にとって、追い風になりうる日程が続くうちに、解散に打って出て、勝利すれば、菅総理大臣は、自民党の総裁選挙を乗り越えられるという見方が観測の背景にあるものとみられます。
ただ、当の菅総理大臣は、「いつ解散があってもおかしくないとは、思っていない。コロナ対策など、やるべきことはしっかりやる必要がある」と慎重な立場を示していて、感染状況や世論の動向などを見極めて、解散時期を探るものとみられます。

(まとめ)
後半国会では、▼コロナ対策、▼デジタル社会や脱炭素社会への道筋、それに、▼来月前半にも予定されている日米首脳会談などをめぐって、議論が交わされる見通しです。
ことしは、10月までに必ず衆議院選挙が行われる政治決戦の年であることから、国会は、会期末にかけて、与野党の攻防が激しさを増すことも予想されます。
コロナ後を見据えた経済・社会はどうあるべきなのか、アメリカと中国の大国間競争の中で、日本の外交・安全保障は、どうあるべきなのか。選挙の年であるからこそ、有権者に訴えかける力を持つ、骨太の議論を期待したいと思います。 

(梶原 崇幹 解説委員)


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