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「"同性婚認めないのは憲法違反" 初の司法判断」(時論公論)

竹内 哲哉  解説委員
山形 晶  解説委員

「同性どうしの結婚を認めないのは法の下の平等を定めた憲法に違反する」
札幌地方裁判所は、全国の裁判で初めての判決で、今の日本の法律は憲法に違反するという判断を示しました。
LGBTなど性的マイノリティーの人たちの権利を守ろうとする動きが広がる中、司法がどう判断するのか、注目されていました。
この裁判の背景や影響について解説します。

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【どんな裁判?】

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裁判を起こしたのは、北海道に住む3組の同性どうしのカップルです。
同性どうしの結婚を認めない今の日本の法律は、憲法に違反すると訴えました。
そして、法律を改正してこなかった国に対して賠償を求める形で裁判を起こしました。
同じ趣旨の裁判は、北海道も含め、全国の5つの地裁で起こされています。

【裁判の背景は?】
背景には、社会的に同性婚に対する考え方が大きく変わってきていることがあります。
その1つとして、自治体が同性カップルに対して2人の関係が婚姻と同等だとする「パートナーシップ制度」を認める動きが広がっています。

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2015年に渋谷区で導入されて以来、いま導入している自治体の数は79。
今後も導入予定や検討をしている自治体は100近くあり、これらを加えると全国の人口のほぼ半数近くがカバーされることになります。
また、2018年に20代から50代を対象に行われたインターネット調査では、同性婚の合法化に賛成・どちらかというと賛成と答えた人は78.4%と同性婚を支持する人が多くなっています。

ただ、一方で、こうした動きに反対する意見もあります。山口県宇部市がパートナーシップ制度の導入について、去年12月に市民から意見を募集したところ、200件あまりの意見が寄せられ、その多くは制度に否定的な意見でした。

【なぜ裁判に?】

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同性婚が認められないことで性的マイノリティーの人たちが強く感じているのは、自身の存在の否定です。
「同性を好きになるのはおかしい」。「なぜ異性カップルだけが認められる」そうした葛藤を誰にも相談できず幼少期から1人で抱え込む人たちはたくさんいます。
法律でも認められないとなると「結婚できないのは人として失格ではないか」。いるのにいない存在とされてしまっていることで、自らを否定し、未来への希望も失います。その苦悩は、時に自殺へと追い込みます。そんな思いを終わらせ、ごくありふれた幸せをつかみたい、という切なる思いがあります。

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同性婚が法的に認められると、解放されることを示唆するアメリカの研究があります。それによると「同性婚を認めた州とそうでない州を比較すると、ゲイ・レズビアン・バイセクシャルの高校生の自殺未遂率は14%減少した」と報告しています。

2017年にアメリカで同性パートナーと結婚したロバート・キャンベルさんは「紙一枚のことですが、透明なファイルに包まれたよう。何とも言えない安心感を得られた」と言っています。

自治体の「パートナーシップ制度」には、法的効力がありません。そのため、認められないことはたくさんあります。

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たとえば遺産相続ができない、配偶者控除を得られない、養子縁組を結べないこともあります。また、公的に家族ではないことから、多くの病院では同性パートナーが入院した時に面会を制限されたり、手術の署名を認められなかったりもします。
実際、東京の原告の1人である佐藤郁夫さんは、今年1月、脳出血で亡くなられましたが、この時、入院先の病院で15年以上連れ添ったパートナーの男性は病状説明を受けるのを拒まれたといいます。
最愛の人の最後に立ち会えないということも、同性カップルでは日常的に起こっています。
婚姻が国によって認められれば、こうした問題も解消されます。

【注目の判決は?】

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今回の裁判では、まさにこうした格差の是非が争われました。
結婚すると、さきほど説明した相続の権利のほか、お互いに支え合う義務などが生じ、法的にさまざまな形で保護されます。
裁判では、社会が変化する中で、同性カップルが男女のカップルと同じように法的な利益を得られないことが許されるかどうかが争われました。
国は、伝統的に結婚は子どもを産むことと結び付けて考えられ、今も、「結婚は男女のものだ」という考え方が一般的だと主張しました。

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そして注目の判決。
札幌地方裁判所は、こうした国の主張を退けました。
まず、「異性を愛するか、同性を愛するか」という性的指向は、自分の意思で選んだり変えたりできないもので、性別や人種と同じだという見方を示しました。
このため、法的に得られる利益に違いはなく、扱いに差を設けるのは差別にあたると指摘しました。
そして、今の法律は、法の下の平等を定めた憲法に違反すると結論づけました。
ただ、国民の意識が変わってきたのは比較的最近のことなので、国が法律を変えていないからといって賠償はしなくていいと判断しましたが、原告の訴えの中心的な部分は認めた形です。
判決について法務省民事局は「確定前の判決であり、ほかの裁判所でも同様の裁判が行われていることから、その判断も注視したい」というコメントを出しました。

【世界の状況は】

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世界では2001年にオランダで初めて同性婚を認める法律が施行されました。国際ゲイ・レズビアン協会によると、現在、同性婚を認めている国と地域は去年12月に同性婚法案が可決されたスイスを含め29。このほか、メキシコでも実質的に同性婚が認められています。また、国としてパートナーシップ制度を導入しているところが15あります。

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アジアでは唯一、台湾が同性婚を認めています。台湾では2015年にパートナーシップ制度にあたる登録制度を高雄市がスタート。2017年には、憲法裁判所の役割を持つ司法院大法官会議が、「婚姻の自由」や「平等権」を根拠に、同性カップルに結婚の権利が認められないのは憲法違反と判断し、2019年に同性婚を認める特別法が施行されました。

日本は先進国首脳会議のメンバーとして唯一、同性婚あるいはそれに準ずる法律がない国です。国には、同性婚を認めている諸外国と同じように真摯に性的マイノリティーの人たちの人権をどう守るか、向き合って欲しいと思います。

【今後の影響は?】
今回の判決は、全国5か所で起こされている裁判のうちの1つです。
最高裁の判断のように、ほかの裁判所が従わなければならないというものではなく、今後も各地で争われることになります。
今回の判決は「憲法違反」という判断でしたが、同性どうしの結婚については、賛否が分かれ、社会的な議論、そして国会での議論が進んでいる状況ではありません。
今回の司法判断が社会にどう受け止められ、今後、どのように議論が行われていくのかに注目したいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員 / 山形 晶 解説委員) 

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