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「コロナ禍の生活困窮 支援の現場から見えたもの」(時論公論)

山形 晶  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大による雇用や生活への影響が深刻になっています。
支援活動をしている団体によると、非正規雇用の人たちなど、もともと不安定な立場の人たちにしわ寄せがいっているといいます。
生活の困窮は、生きる意欲すら奪ってしまいかねません。
今、何が求められているのかを考えます。

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先月(1月)末に開かれた無料の電話相談会。
私(山形)が取材に訪れたのは日曜日の午後ですが、電話がやむことはありませんでした。

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相談会を開いたのは、コロナ禍で困窮する人たちの支援にあたっている弁護士や司法書士などのグループです。
仕事を失った人たちからの相談が最も多く、次いで多かったのは非正規雇用の人たちやフリーランスの人たちからの相談でした。
相談を寄せる人たちのうち、無職の人たちの割合や、所持金の少ない人たちの割合が増える傾向にあるといいます。

もう1つ、私が訪れたのは、新宿で毎週土曜日に開かれている食料の配布と相談会です。
レトルト食品や果物などの食料が用意され、この日は、200人以上が集まりました。
主催しているNPOによると、例年の3倍から4倍の人数が集まるようになっているということです。
この場で私の取材に答えてくれた50代後半の男性は、日雇いで事務所などの移転作業の仕事をしていましたが、去年の1度目の緊急事態宣言の後、しばらく仕事がなくなり、その後は単発の仕事が入るようになりましたが、2度目の緊急事態宣言のあと、また仕事が見つからなくなったと話していました。

コロナの影響は、さまざまな形で広がっています。
支援の現場を取材すると、いくつかの共通する問題が見えてきました。
最大の共通点は、非正規雇用など、もともと不安定な立場の人たちにしわ寄せがいっていることです。

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国は、さまざまな対策を打ち出していますが、去年1年間の平均の完全失業率は2.8%。前の年より悪化したのはリーマンショック以来です。
さらに、失業率に表れない形で、影響を受けている人たちがいます。
それは会社の求めに応じて休む「休業」です。
取材でよく耳にするのは、「シフトを減らされたのに休業補償をもらえない」という、パートやアルバイトなど非正規雇用の人たちの声です。
業績の悪化など、会社の都合で従業員を休ませる場合、会社は休業手当を支払わなければなりません。
この場合、国がその費用の一部を助成する「雇用調整助成金」という制度があります。
国はコロナ対策の特例措置として、助成率や1日あたりの上限の額を引き上げるなど、要件を緩和してきました。
さらに、迅速に給付できるように手続きを簡素化した結果、多くの企業が利用し、支給が決まった額はこれまでに2兆8000億円を超えています。

しかし、手当をきちんと支払わない企業が少なくないのも事実です。
野村総研が、去年12月、コロナの影響で休業中のパートやアルバイトの女性を対象に行った調査では、「シフトが半分以上減った」という人たちのうち7割以上が「休業手当をもらっていない」と答えました。
いわば「実質的失業」です。
その状態に置かれた女性は、全国で90万人にのぼると推計されています。
特に、母子世帯など、もともと収入の少ない世帯にとっては、勤務が減ったのに休業手当が出ないのは死活問題とも言えます。

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企業には、制度に則って雇用を守るという社会的な責任を果たしてもらいたいと思います。

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さらに深刻なのは、非正規雇用の人たちが職を失っていることです。
総務省の「労働力調査」によると、去年12月の非正規雇用の人たちの数は2093万人。女性を中心に、前の年の同じ月と比べて86万人減少しました。
コロナの影響が広がった去年3月から10か月連続で前の年を下回っている状況です。
こうした時のために雇用保険がありますが、支援団体に寄せられている相談からは、うまく機能していない場合があることがうかがえます。
例えば、「会社から辞めるよう迫られたのに『自己都合』扱いにされた」という声です。
「自己都合」で退職すると、失業給付を受けられるまでの期間が延びたり、給付の日数が短くなったりします。

そこで、給付が終わった人や、そもそも雇用保険の対象外の人には、「求職者支援制度」という仕組みがあります。
「第2のセーフティネット」とも呼ばれ、職探しに生かせる職業訓練と毎月10万円の給付がセットになっています。
ただ、今年度の受講者は去年12月の時点でおよそ1万7000人。
前の年度を大きく上回ることはない見通しです。
コロナ禍でも、利用が進んでいるという状況ではありません。
何か月も職業訓練を受けるよりすぐに収入を得たいと考える人もいるようです。
厚生労働省は先週発表した雇用対策の中で、10万円の給付を受けられる要件を緩和することを明らかにしました。

また、コロナの影響で収入が減少した人には、無利子で一定の額が借りられる「総合支援資金」という制度もあります。
ただ、これは借金なので、いずれ返済しなければなりません。
将来の返済のことを考え、申請をためらう人もいるといいます。
厚生労働省は、返済を免除する基準について検討しています。

コロナの影響が長引く見通しの中、こうした既存の制度を積極的に活用していくべきではないでしょうか。

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そして、これらの制度では対応できない場合、生活保護があります。
ただ、生活保護基準以下の世帯のうち、実際に生活保護を受けている世帯の割合、「被保護世帯割合」は所得ベースで見ると全体の2割程度です。
その原因の1つとして、見直しを求める声が上がっているのが、「扶養照会」という手続きです。
生活保護法には、親族などから援助を受けられる場合はそれが優先されるという規定があり、生活保護を申請すると、原則として、自治体から親族などのもとに連絡がいき、援助できないか確認する手続きがあるのです。
このため、自分の窮状を知られたくないという理由で、生活保護を申請しない人たちが多くいるとみられるのです。
こうした背景には、「生活保護を受けるのは屈辱的なことだ」という、社会全体に広がっているマイナスのイメージがあります。
しかし、コロナ禍で「働きたくても働けない」という状況が広がっている中で、そのイメージを持ち続けると、最悪の事態を招いてしまうかもしれません。
国は国会答弁などで、「扶養照会は義務ではない」「生活保護は権利だ」と繰り返し説明しています。
私が取材した都内のある区の生活保護の担当者は、国がこうした姿勢を示すことで、窓口で柔軟な対応がしやすくなると話していました。
国は、「生活保護は権利」だと言う以上は、窓口に来た人たちが申請をあきらめないように、各自治体に周知徹底するべきだと思います。
そして私たち自身も、生活保護に対する意識を変えていく必要があるかもしれません。

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ここまで、さまざまな支援策や制度を紹介してきました。
ただ、複雑さやわかりにくさが支援を妨げる大きな要因になっていると感じます。
生活支援にあたっているNPO「もやい」理事長の大西連さんは、雇用の相談はハローワーク、貸付は社会福祉協議会、生活保護は自治体というように、支援が縦割りになっていること、そして、制度の周知が十分ではないことを課題として挙げています。
支援を受けたい人たちが「ここに行けば何でも相談できる」というワンストップの窓口を設けるといった対応は考えられないものでしょうか。

支援策があるのに、うまく利用できないまま生活の困窮が進んでいる。
これが取材の実感です。
セーフティネットを活用して、網の目からこぼれ落ちる人がいなくなるように、関係機関には、1人1人の状況に合わせたきめ細かな対応を考えていってもらいたいと思います。

(山形 晶 解説委員)

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