この時期、全国各地で私立の大学や高校・中学の入試が行われていて、本格的な入試シーズンを迎えています。
しかし、会場での感染を懸念して、面接を中止したりオンラインに変えたりした学校に加え、個別試験を中止した国公立大学もあるなど、新型コロナウイルスの影響は小さくありません。
きょうは、この異例の入試シーズンに、受験生の不安を可能な限り減らす取り組みを考えます。
<コロナ禍の入試>
コロナ禍の入試シーズンは、先月16日、大学入試センター試験に替わって導入された、初めての大学入学共通テストで幕を開けました。
座席は1m以上の間隔をあけ、昼食は自分の席で、会話せずに食べるなどの感染対策が取られました。
ことしの入試日程です。共通テストは先月末に第2日程を終え、今は主に私立の大学や高校、中学の入試が行われています。このあと、来月にかけて全国各地の国公立の高校の一般入試、今週末には感染者などを対象にした共通テストの特例追試があり、今月25日からは国公立大学の個別試験が始まります。2次募集や感染者などへの追試を含めると、入試シーズンは来月いっぱい続きます。
<試験会場の感染対策>
入試はほとんど会話をしないため、感染リスクは低いとされています。
実際、これまで行われた入試の会場では、感染者のクラスターは発生していないと見られますが、気を緩めずに、感染対策を徹底する必要があります。
文部科学省は、先月の共通テストで各会場が工夫した感染対策の事例集をつくり、全国の大学や短大に周知しました。
休憩時間はドアを開けっぱなしにして受験生がノブを触らないで済むようにした例や、教室の入口と出口を分けたり、トイレの隣の空き教室にトイレ待ちの動線を確保したりして、混雑させない工夫が紹介されています。
試験が終わった後、最寄り駅のホームが混雑しないよう駅と相談して、受験生に時間差で退室してもらったところもありました。
これから試験をする学校は、これらの工夫を、今後の感染対策の改善や徹底に役立ててほしいと思います
<個別試験の変更や中止も>
感染対策の一方で、受験生を戸惑わせているのが、入試の変更や中止です。
通常、入試の方法は12月までに発表される募集要項から変わることはありませんが、今年は緊急事態宣言が出された年明け以降、変更や中止が相次ぎました。
文部科学省は、大学や短大からの報告をまとめ、ホームページで公表しています。
それによりますと、先月29日の時点で、何らかの変更をした大学や短大は130校。全国のおよそ9校に1校にあたります。
感染対策として、面接や実技試験を取りやめたりオンラインに切り替えたりしたほか、試験会場を増やしたところが目立ちます。
中には、受験生の安全確保を理由に、個別試験を中止した大学もあります。
国公立大学では、山口東京理科大学が取りやめたほか、宇都宮大学と信州大学も一部の学部で中止し、共通テストの成績を活用して合否を判定します。
こうした場合、個別試験を重点に努力してきた受験生が、挽回の機会を失うことになります。
このため、文部科学省は、大きな変更は準備を重ねてきた受験生に不利益を与えるおそれがあるとして、慎重に検討するよう、先月22日に各大学に通知を出しました。
その後、中止や変更をするところは減りましたが、今後も感染状況によっては変わるおそれがあり、受験生は各校のホームページなどで最新の情報を確認する必要があります。
<追試などの救済措置増やして>
こうした変更のうち、今からでももっと増やしてほしい変更があります。感染者や濃厚接触者、それに当日、体調がよくない受験生に対する、追試などの救済措置です。
共通テストでは、当日体調が悪ければ追試を申請でき、無症状の濃厚接触者は、PCR検査で陰性などを条件に、別室で受験できました。
個別入試でも、多くの学校が追試を用意していますが、中には別室での受験や追試がない学校があります。
それに、追試はあるものの、本試験の日と近い学校は、感染した場合などに追試も受けられなくなるおそれが高まります。
受験できない場合、追試の代わりに「追選考」として、共通テストや調査書の成績で判定するという学校も増えていますが、挽回できないという問題が残ります。
これらの学校では、体調が良くなくても無理をして受ける受験生が出てくることも考えられます。
学校にとって追試は、別の試験問題を作ったり、会場を確保したりする負担がかかりますが、試験会場で不安を広げないためにも、受験できる機会を増やしてほしいと思います。
<沖縄県の県立高校入試>
追試は、感染者の回復や濃厚接触者の陰性確認を待つため、2週間程度は間隔を空けることが望ましいのですが、一つ、受験生のために思い切った対応と日程にした例を紹介します。
沖縄県は県立高校の入試で、4月にもう一回、追試を設けたのです。
3月3日から本試験、3週間空けて、追試を25日から行いますが、さらに、この追試も受けられない受験生がいた場合を考え、2つ目の追試を2週間後の4月8日に設けました。その2次募集も12日に行います。
県立高校の入学式は7日です。合格発表後すぐに入学しても、新学期は始まっています。
たとえそうなっても、志望校を受験できない生徒が出ないようにしようという配慮です。
この二重の救済措置には、沖縄県の教育関係者の強い思いを感じます。
2週間以上離した追試を2回行うのは日程も準備も大変ですが、他の学校や自治体でも、検討してほしいと思います。
<受験生と家族の感染対策>
最後に、受験生の家庭での感染対策を確認します。
文部科学省に去年6月から12月に感染の報告があった児童・生徒のうち、家庭内で感染したと見られる割合は、それぞれ小学生が75%、中学生が60%、高校生が31%でした。
文部科学省と厚生労働省は、受験生の家庭に対し、普段から食事での距離を確保する、家族も外での会食を減らす、外食は向かい合わず、会話も最低限にする、また、体調が良くない家族がいる場合は、同じ部屋で食事や睡眠を取らない、家族の会話もマスクをするよう呼び掛けています。
このコロナ禍の受験は、長い人はあと2カ月近く続きます。
感染対策で疲れたり、孤独を感じたりしないよう、みんなで支え合い、励まし合ってほしいと思います。
<まとめ>
受験生は、この一年、常に感染への不安と闘いながら、志望校を目指して頑張ってきました。
これから入試を行う学校や自治体には、感染対策の徹底に加え、救済措置の充実を求めたいと思います。
受験生は、体調管理を万全にしながら、落ち着いて試験に臨んでください。
(二宮 徹 解説委員)
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