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「感染者1億人超 パンデミックを抑えこむには」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が収まりません。WHO・世界保健機関が、去年1月30日に「緊急事態」を宣言して、まもなく1年。全世界での累計の感染者数は、今週、ついに1億人を突破しました。パンデミックを抑えるため、今、何が必要かを考えます。

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■解説のポイントは、▼収まらない感染拡大と変異ウイルスの脅威。▼収束のカギを握るワクチン。▼求められる国際協力体制。以上3点です。

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■世界各国の感染状況を調べているアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の集計によりますと、世界全体の累計の感染者数は、日本時間の27日朝、1億人を突破。犠牲者も215万人を超えました。世界的な感染拡大の勢いは衰えていません。累計の感染者数が8000万人から1億人まで増えるのに、1か月しかかかっていません。有効な対策を、速やかに全世界で講じなければ、犠牲者が際限なく増えることが懸念されます。

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▼感染者数が飛びぬけて多いのがアメリカです。およそ2560万人、全世界の感染者の4分の1を占めます。亡くなった人は、およそ43万人、全世界の5分の1です。現在も1日平均17万人のペースで増え続けています。当初、ウイルスの脅威を甘く見て、感染の急拡大を招いたトランプ前大統領の責任は重大と言わざるを得ません。

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▼世界で2番目に感染者が多いのはインドで、およそ1070万人。3番目はブラジルで、およそ900万人です。

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▼変異したウイルスの影響が最も顕著なのがイギリスです。WHOなどによりますと、イギリスで変異ウイルスが出現したのは去年9月だったとみられ、その後、急速に感染が拡大。今年の1月に入ると変異ウイルスの感染者数が、従来のウイルスの感染者数を上回りました。そして、犠牲者は、累計で10万人を超えました。この変異ウイルスは、感染のしやすさが70%ほど高いとされ、これまでに、日本を含む世界69の国と地域で検出されています。

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■多くの専門家が、今後、感染の主流が、従来のウイルスから、変異ウイルスに移ってゆくのではないかと見ています。アメリカでも、3月までに、この変異ウイルスが感染の主流になるという予測があります。
イギリスで最初に確認された変異ウイルスとは別に、南アフリカやブラジルで確認された変異ウイルスも、世界各地に広がっているほか、今後、新たな変異ウイルスが生まれる可能性もあります。
WHOの専門家は、「すべての国が変異ウイルスをいち早く検出できる監視システムを確立し、速やかに正確な情報を報告することが重要だ」と指摘しています。合わせて、「従来のウイルス対策。たとえば、人と人との距離をとり、マスクを着用し、こまめに手を洗うことなどを、一層徹底させることが大切だ」と強調しています。

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■ここからは、パンデミック収束のカギを握るワクチンをめぐる問題を考えます。
WHOなどによりますと、現在、世界およそ50の国で、ワクチンの接種が行われています。▼イギリスの製薬会社「アストラゼネカ」、▼アメリカの会社「モデルナ」、そして、▼アメリカの「ファイザー」とドイツの「ビオンテック」が共同開発したワクチンなどが各国で承認され、接種が行われています。
欧米の製薬会社とは別に、▼中国、▼ロシア、それに、▼インドで独自に開発されたワクチンも、それぞれの国で接種が行われているほか、国際的影響力の拡大を狙った、いわゆる「ワクチン外交」に利用されていると指摘されます。

27日時点で、全世界で、ワクチンを少なくとも1回接種した人は、およそ6400万人で、世界の全人口の0.8%に過ぎません。
国別にみると、イスラエルが注目されています。国民のおよそ30%が、すでに1回目の接種を受けています。ネタニヤフ首相が自ら、アメリカの製薬会社の経営者と交渉し、ほかの国より高い価格で購入契約を結んで、ワクチンを確保したこと。すべての国民の医療データをITで管理し、重症化リスクの高い人に優先的にワクチンを投与するしくみができていることなどが背景にあります。

■ワクチンは、さまざまなアプローチで開発され、使用法、効果、副反応などは、ワクチンによって異なります。効果の高いワクチンが何種類も開発され、できるだけ早く世界に普及させることが求められます。

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▼ただし、ワクチンの安全性の問題は絶対に蔑ろにできません。ワクチン開発の際の臨床試験について、WHOは、3段階で行う指針をつくっていますが、いくつかの国では、「第3段階」の試験を終える前に、当局が承認するケースも起きています。
熾烈な開発競争や政治指導者の思惑の影響で、審査がおろそかにされてはなりません。投与されたワクチンが、実際にどんな効果や副反応をもたらしたのかを詳しく調査・分析し、ワクチンの普及に役立てる国際的な監視体制をつくる必要があります。

▼もうひとつ、重要なのは、ワクチンを公平に分配する問題です。資金力のある少数の先進国がワクチンを独占し、大多数の途上国が、必要な時にワクチンを入手できないという問題が起きつつあります。これを放置すると、途上国に非常に多くの犠牲者が出てしまいます。
WHOのテドロス事務局長は、「富める国の若く健康な成人が、貧しい国の医療従事者や高齢者よりも先にワクチンを接種するのは正しくない」と述べたうえで、WHOなどが立ち上げた、世界各国にワクチンを公平に届けるための枠組み「COVAXファシリティ」に、できるだけ多くの国や企業が参加するよう呼びかけました。
これは、資金力のある国が、ワクチン開発に取り組む企業に投資し、人口の20%までワクチンを確保できる一方、途上国も、国際組織を通じ、ワクチンの提供を受けられるしくみです。
アメリカのファイザーとイギリスのアストラゼネカが、参加を表明しましたが、途上国を含め、すべての医療従事者や高齢者が、ワクチンの接種を受けられるようにするのは、現時点では困難です。

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■最後に、国際的な協力体制の重要性について考えます。
これまで、ほとんどの国は、自国の対策で手いっぱいで、国際的な協力体制が、十分機能していませんでした。とくに、アメリカのトランプ前政権が、「WHOは中国に支配されている」などと批判し、去年7月、WHOからの脱退を通告したことで、感染抑え込みの取り組みに深刻な打撃が心配されました。アメリカは、WHOの予算の15%を拠出する最大のスポンサーです。

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バイデン大統領が、就任早々、WHOからの脱退を撤回する大統領令に署名したこと、さらに、「COVAXファシリティ」への参加を表明したことで、WHOを軸にした国際的な協力体制を再構築できる期待が生まれています。

■新型コロナウイルスは、全人類が直面する未曾有の危機です。このウイルスは、これからも変異を繰り返し、感染の波を広げると予想されます。新たな変異ウイルスを探し出し、封じ込める取り組み。有効で安全なワクチンを開発し、普及させてゆく取り組み。いずれも一国では成し遂げられません。そして、途上国の感染拡大をくい止めなければ、影響は確実に先進国にも及び、この危機を長期化させます。国連やWHOを中心とする国際的な協力体制を確立することが不可欠です。その中で、日本も、研究と開発、途上国への支援などの面で、いままで以上に貢献することが期待されています。

(出川 展恒 解説委員)

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