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「新型コロナウイルス 変異ウイルス 求められる感染対策の強化」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの変異ウイルスが、日本でも街中での感染、いわゆる「市中感染」を起しているケースが、静岡県と東京都で見つかりました。
変異ウイルスは、イギリスなどで感染が拡大しています。感染力が強いことから、対策の強化が求められます。

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解説のポイントです。
▽変異ウイルスの何が問題なのか、
▽変異ウイルスに対し、どのような対策をとる必要があるのか、
そして、
▽ワクチンの効果に、どのような影響が考えられるのか、みてみます。

変異ウイルスは、新型コロナウイルスの遺伝情報が一部変わって、性質が変化したものです。
では、何が問題なのでしょうか。
主に3つあります。従来のウイルスに比べて感染力や、重症化のしやすさ、ワクチンの効果などが変わることがあるという点です。

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変異ウイルスには、▽イギリスで見つかったもの、▽南アフリカで見つかったものなどがあります。イギリスの変異ウイルスは、従来のウイルスより感染力は高く、イギリスでは、すでに感染の主流になっています。感染力は、これまでより「最大70%高くなっている」ともいわれています。
重症化しやすさは、従来と「変わりはない」とみられていますが、一方、イギリスのジョンソン首相は重症化、さらに「死亡のリスクが高くなっている」可能性に言及していて、評価ははっきりしていません。
ワクチンの効果については、分析が続けられています。
一方、南アフリカで見つかった変異ウイルスも、感染力は従来より高くなっています。重症化しやすさが変化したというデータはなく、ワクチンの効果は分析中です。
この他、ブラジルの人から見つかった変異ウイルスについては、詳細はまだわかっていません。ただ、イギリスや南アフリカのウイルスと共通した変異があり、感染力は「高くなっている可能性がある」と指摘されています。

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ウイルスの変異。仮に重症化に影響ないとしても、感染力が高くなると感染者が増え、結果として、重症や死亡する人の増加につながります。さらに、ワクチンの効果が下がることも懸念されています。
このため、WHO=世界保健機関も含め、世界各国が警戒を強めているのです。

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日本では、空港の検疫などいわゆる「水際対策」でイギリスの変異ウイルスは36人みつかり、南アフリカが5人、ブラジルの変異ウイルスは4人から見つかっています。
しかし、今月18日以降、外国に行った経験や外国人との接触がないにもかかわらず、イギリスの変異ウイルスに感染している人が、静岡県内で4人、東京都で2人見つかりました。   
国内の状況について、厚生労働省は、静岡や東京を含め、全国の他の感染者から、変異ウイルスが見つかっていないことから「面的な広がりはない」としています。
しかし、市中感染のケースが見つかったことで、たとえば、症状の出ていない人の間で感染が続くなど、水面下での感染が起きている可能性は否定できません。

ここで、変異ウイルスについて、みてみます。

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ウイルスは、ヒトに感染した際、細胞にくっつき、中に入り込んで増殖します。細胞から飛び出して、次の細胞でまた増殖します。
ウイルスは増殖するとき、自分とまったく同じコピーを作りますが、時々コピーミスが起きます。このミスが変異で、珍しいことではありませんが、多くの場合、ウイルスの性質に変化がなく、問題視されません。
しかし、コピーミスでウイルスの突起を作る部分が変化すると、ウイルスの性質が変わることがあります。イギリスなどの変異ウイルスは、いずれも突起の部分が変化しました。

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突起が変化すると、細胞にくっつきやすくなったり、細胞に入り込みやすくなったりして、その結果、感染力が高くなるのではないかと考えられています

では、変異ウイルスの対策として、何が必要なのでしょうか。

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ひとつは、水際対策です。
日本はいま、原則、外国人の入国を全面的に制限し、日本人についても帰国の際に、自宅などで14日間の待機が求められています。イギリスの変異ウイルスは、すでに、およそ60か国に広がっています。少なくとも現状の制限を維持するなど、水際対策の徹底が必要です。

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もう一つ。国立感染症研究所は、国内で新型コロナの感染者や濃厚接触者のうち、一部の人について、ウイルスの変異を調べる解析を行っていますが、これを幅広く実施し、市中感染をいち早く見つけることが重要です。静岡や東京のケースはいずれも、この解析でわかりました。
一部の地域では、変異ウイルスを迅速に見つける簡易な解析方法が導入されていますが、これを、早く全国で使えるようにすることが大切です。

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そして、変異ウイルスが見つかったとき、これを「封じ込める」ことです。誰から感染したのか、誰に感染させた可能性があるのか、濃厚接触者を洗い出して、それ以上、広げないようにすることが必要です。

ただ、こうしたことを難しくしているのが、現在の感染状況です。感染者が多いと、対策が徹底できません。

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保健所の業務がひっ迫し、感染者や濃厚接触者の把握が十分にできていない地域があります。
変異の解析も、先月までは全国の感染者の10%程度に実施していましたが、感染者の増加に伴って、現在は、半分の5%前後にまで割合が下がっているといいます。
これでは、国内に入った変異ウイルスを見逃したり、検出に時間がかかったりする恐れがあります。

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変異ウイルス対策の面からも、感染者数を少しでも早く減少させ、変異の解析や保健所の調査などが十分行えるようにする必要があります。

そして、気になる変異ウイルスのワクチンへの影響はどうなのでしょうか。

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ワクチンを接種すると、体の免疫はウイルスの突起部分の形を覚えて、同じ形の突起を持つウイルスが体に入ると攻撃します。ウイルスが変異していると突起の形が違うため、ワクチンの効果が変化することが考えられます。
ただ、変異による突起の変化は、実際にはわずかなため、ワクチンの効果が低下することはあっても「ワクチンが全く効かなくなることはない」とされています。

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イギリスと南アフリカの変異ウイルスについては、ワクチンの効果があることを示唆する実験結果が得られています。一方で、南アフリカとブラジルのウイルスについては、変異している遺伝情報の場所からみると、効果が低下する恐れがあるとも指摘されています。
まずは、変異ウイルスのワクチンへの影響があるのか、あるとするとどの程度なのか、詳しい分析が必要です。
また、変異の影響の受けやすさは、ワクチンの製造方法、つまりワクチンの種類によって異なることも考えられます。日本を含め、世界では様々な方法でワクチンづくりが進められていますので、そうした多様なワクチン開発を急ぐことが、一層求められると思います。

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このように、変異ウイルスについては、評価が定まっていないことが数多くあります。一方で、感染力の高いイギリスの変異ウイルスが、すでに日本国内に入り込んでいることが明らかになり、警戒が必要です。

いま、私たちは緊急事態宣言で、感染を防ぐ対策を進めていますが、これに変異ウイルスという難しい問題を同時に考えなければならなくなっています。
変異ウイルスが国内で拡大したときを想定して、感染をこれまで考えていた以上に抑えることが求められ、併せて、どういった対策を強化するのが効果的なのか、議論を加速させなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

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