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「阪神・淡路大震災26年 隠れた断層のリスクをつかめ」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

阪神・淡路大震災から26年になりました。この震災をきっかけに内陸直下の大地震を引き起こす「活断層」の調査が全国で進みました。しかし、その後発生した地震はその対象以外の断層によるものばかりで、隠れた危険な断層をどう把握し備えるのかが次の課題になってきました。

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【ポイント】
▼活断層調査の成果と限界
▼隠れた断層はどこまでわかったのか
という研究の現在位置を見たうえで、
▼わかってきたリスクにどう向き合うのかを考えます。

【活断層調査の成果と限界】
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阪神・淡路大震災では震度7の揺れが神戸市などを襲い、10万棟を超える建物が全壊し6434人が亡くなりました。この地震は地盤に溜まったエネルギーで「活断層」が30キロにわたってずれ動いたことで引き起こされました。

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震災で活断層の危険性が大きくクローズアップされました。国は地震調査研究推進本部を立ち上げて全国で調査を進め、危険性が高い114の主要な活断層について想定される地震の規模と発生確率を公表してきました。活断層の活動間隔は数百年から数万年と非常に長いのですが、前に地震が起きてから長い年月が過ぎて切迫性の高いものから4ランクに分けて警戒を促してきたのです。

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その後も新潟県中越地震や岩手・宮城内陸地震など内陸直下の地震が次々と発生し被害をもたらしました。しかし、これらの地震は国が対策に力を入れてきた主要活断層以外によるものばかりでした。主要活断層で起きたのは5年前の熊本地震が唯一のケースです。

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なぜ主要活断層以外の地震が多いのでしょうか。
沖合のプレート境界付近で起こる海溝型地震に対して内陸直下地震は地盤の表面付近、私たちのすぐ足元で発生します。

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断層がずれ動くことで起こりますが、繰り返し発生し、ずれが地表まで達して現れたものが「活断層」です。
一方、断層面が地下にとどまって地表に現れない「伏在断層」や沿岸の海底にあるものなど隠れていて地震を繰り返す断層が数多くあります。そうした断層で発生するケースが多いのです。

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20世紀以降、大きな内陸直下地震は30あまり起きていますが、3800人近くが死亡した福井地震をはじめ半数以上はどの活断層で起きたのかわからず、隠れた断層で起きたと見られています。

【見えない断層はどこまでわかったか】
主要活断層の危険性が高いことに変わりはありませんが、それ以外の隠れた危険な断層を見つけ出し、備えることも重要な課題になっています。主にふたつの方向で取り組みが進められています。

ひとつは地下を探査することで断層を探し出す取り組みです。

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こうした探査技術は近年、大きく進歩しています。
▼航空機からの地表の精密な測量で地下の断層をさがす手がかりを得やすくなりました。
▼また陸上や船の上から地下の構造を調べる技術が向上し、より詳細に深い場所までわかるようになりました。
こうした調査によって隠れた危険な断層の実態が少しずつわかってきました。

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日本海沿岸では10年あまりにわたって調査プロジェクトが続けられて、例えば新潟県の沿岸部には過去に地震を起こした多くの断層があることがわかってきました。長方形の枠が地下の断層のずれの範囲を示しています。

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新潟市の南にある長岡平野西縁断層帯は主要活断層のひとつで以前から知られていましたが、詳しい調査の結果、断層面は考えていたより海側に大きく広がり、活動度もより高いことがわかりました。

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都市の下であらたな断層も見つかっています。山形県の庄内平野ではこれまでわかっていた活断層とは別に、重なり合う形で隠れた伏在断層があることが去年わかりました。市街地の真下にあたり、活動度も高いことがわかりました。

調査をした東京大学地震研究所の石山達也准教授は「隠れた断層の調査は進んだが、まだわかっていない場所が多い。特に人口が密集し構造物が多い大都市部での調査が遅れていて、技術的困難は多いが解明に取り組む必要がある」と話しています。

地下の探査によって多くのことがわかってきましたが費用と時間がかかり、まだ一部の地域にとどまっています。そこで別のアプローチも行われています。

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地震調査研究推進本部が進める「活断層の地域評価」という取り組みで、活断層単独ではなく地域ごとの危険性を明らかにするものです。

主要活断層は大きな被害を起こしますが発生間隔が非常に長く、ひとつの断層に着目すればめったに起こりません。しかし、ひとまわり小さい活断層や伏在断層はたくさんあって、それらをすべて考慮すると発生確率は高くなります。
「地域評価」は中小の地震の発生頻度などから隠れた断層が大きな地震を引き起こす可能性を推計し、活断層とあわせて地域ごとに地震の発生確率を示しています。
これまでに九州や関東など4地域について公表されています。
例えば中国地方北部は活断層がほとんどないため以前は大地震が少ないと考えられていました。しかしこの評価では30年間にマグニチュード6.8以上の強い地震の発生する確率が40パーセントと活断層が多い地域より高い結果が示されています。

【断層調査を防災に活かすために】
ここまで研究の現在位置を見てきましたが、では内陸地震のリスクをさらに解明し、わかってきた情報を防災に活かすために何が必要なのでしょうか。

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▼見てきたふたつのアプローチのほかGPSの地表データから断層の状態を分析する研究も進んでいて、統合的に取り組むことで長期評価の精度を高めていく必要があります。そして国はその成果をわかりやすく伝える一層の工夫が求められます。

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▼次にわかってきたリスクを防災に活かすことです。さきほど紹介した新潟県はこれまでの研究成果に加え独自の調査も行い、いま長岡平野西縁断層帯の地震被害想定を見直す作業を進めています。まだ試算の段階ですが死者7000人という厳しい想定も出ていて、今後、いかに被害を小さくしていくのか防災対策を検討することにしています。

活断層周辺の建物を規制している自治体もあります。徳島県は条例で活断層沿いに学校やホテルなど多くの人が集まる建物を建てることを規制していて、最近も真上にある学校の校舎を教室から倉庫に変えたり、住民の意見を聞きごみ焼却場の計画を変更するなどの対応が取られています。また福岡市は活断層周辺の建物にはほかの地域の1.25倍の耐震強度を求めています。

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▼私たちはどう備えたらよいでしょうか。地震は全国どこでも起こりますが、活断層調査やそれを受けた地震の揺れやすさ地図、地域評価で住む場所のリスクを知っておくことが大切です。高い場所であれば耐震化や保険など対策を一層徹底する必要があります。

【まとめ】
今、コロナという災害に直面し、感染リスクを下げようと社会全体で取り組んでいますが先が見えない状況が続いています。地震はたいへん恐ろしい災害ですが、危険性をよく知って、建物の耐震化や家具の転倒防止、長期的には揺れやすい場所を避けるなど行動によってリスクを大きく下げることができます。阪神・淡路大震災の教訓を振り返り、備えを点検してもらいたいと思います。

(松本 浩司 解説委員)

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