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「緊急事態宣言 休業手当を急げ!」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

緊急事態宣言の拡大によって、さらに多くの店や企業が
時短営業や、休業などの対応を余儀なくされています。
経営者も大変ですが、そこで働いている従業員の生活はどうなるのか?
正社員や、パートやアルバイトの人たちは
どうやって収入を維持し、暮らしを守ればいいのか?
切実な問題です。

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【 何が焦点か? 】

そこできょうは、三つのキーワード
▼休業手当がなぜ出ないなのか?
▼深刻な“隠れ休業”
▼使われない新制度
この3点について考えます。

まず、コロナ危機の中、生活に困っている社員や従業員をどう守るのか?
その頼みの綱は、休業手当です。
しかし、その休業手当がチャンと払われていないという
厳しい現実を、改めて突き付けたのが
野村総合研究所が行ったアンケート調査です。

これは、去年10月、
コロナで休業中の社員、およそ2100人にインターネットで聞いたものです。

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このうち、休業中のパートやアルバイト女性への調査では
休業手当を受け取っている人の割合は、30%余りで、
およそ7割の人が、休業手当を受け取っていないと回答しています。
女性の正社員と比べると、もらっている人の割合は、およそ半分にとどまっています。

【 休業手当が出ない! 】

なぜ、このようなことが起きるのか?
それは、休業手当の仕組みが関係しています。

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会社が、従業員を休ませる場合、
法律は、平均賃金の60%以上を休業手当として払うことを義務づけています。
長期間の休業はもちろん、一日単位でも払う必要があります。
罰則もありです。
そしてその際の企業の負担を減らすのが、国の雇用調整助成金です。

通常は働き手一人当たり日額で上限8330円までお金が出ますが、
今は、コロナ対策として1万5000円まで上限が引き上げられています。

また、この助成金は雇用保険のお金を使っているため、
通常は、雇用保険に入っている人が対象ですが、
今回はコロナ対策として、
正規でも非正規でも、パートやアルバイトも含めて、
事実上、雇われている人すべてが対象となります。

このように、国は、コロナ危機の中、
企業に休業手当を出してもらうよう支援策を拡充しているわけですが、
それでも、雇用の現場では、非正規を中心に、
休業手当をもらえないという訴えが相次いでいます。
その理由の一つが会社が休業手当を立て替える際の負担です。
休業手当というのは、まず、会社が払って、
その後で、国が助成するという仕組みです。
つまり、いったんは企業が必要なお金を立て替える必要があります。

しかし、現状はどうでしょうか。
コロナによる全国的な消費経済の縮小で
小さな会社や店では、売り上げが大きく落ち込んで、
休業手当まで、お金がまわらないという雇う側の厳しい事情もあるとみられます。

【 隠れ休業とは? 】

そもそも今、休業手当が必要な人は、どれくらいいるんでしょうか?
実は、その実態がわかりにくいことがこの問題をさらに難しくしています。
それが、「隠れ休業」の存在です。

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どういうことかと言いますと
政府の統計では、休業している人はご覧のように去年なかば、大きく増えて、
一時は600万人近くにまで達しました。
しかし、その後は落ちついて、今はコロナ前とほぼ同じ水準まで下がっています。

これには政府の経済対策なども一定の役割を果たしたとみられているわけですが、
みんなの生活や仕事がもとに戻ったのか、というともちろん、そんなことはありません。

ここには、大きなカラクリがあります。
政府の統計では、月末の1週間に1日でも、1時間でも働けば、
休業ではなく、就業とみなされます。
つまり、働く日が大幅に減って、本来なら休業手当の対象となる人でも
統計上は休業とはならず、働いている人としてカウントされるわけです。

実際、この調査でも労働者が週にどれだけ働いているのかも調べていますが、
去年11月末の時点で、週に5日以上働く人、つまりフルタイムの人が
ちょうど一年前と比べて、217万人も大きく減っています。

その一方で、働く日が4日以内という人が、逆に152万人増えています。

つまり、これは、働く日数が減って、収入が減り、
本来なら休業手当の対象となる人が大勢いることがここから読み取れるわけですが、
実際に全国でどれだけいるのか、
肝心なことが、この統計からは見えにくくなっています。

シフトが減って、収入が落ち込み
家賃などが払えなくなって、住む場所にも困ってしまう。
本当はそうした人たちにこそ休業手当が必要なはずです。

なのに、そうした人たちが隠れ休業と呼ばれて、政府からは見えにくくなっている。

【 使われない新制度 】

では、どうすればいいのか?
実は、こうした休業手当が受け取れない人のために国は去年、新たな制度を作りました。
それが、休業支援金です、
中小企業で働く人を対象とした制度で、
会社から休業手当をもらえない人は、
個人として国に申請することができて、
国から直接、お金をもらえる、というものです。

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月33万円を上限に賃金の80%の手当がもらえる仕組みです。
ところが、この新制度も実は、
うまく使えない、申請しにくい、という苦情が労働組合などに相次いでいます。
実際、この制度のために国が用意した予算は5400億円ですが、
去年暮れの時点で実際に適用されたのはまだおよそ1割にとどまっています。

せっかくの新制度がなぜ、利用されないのか?
1つは、申請するのに必要な、会社の協力が得にくい場合があるためです。

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というのも、国に提出が必要な書類の中に
会社がその人に休業手当を出していないことを、
会社自身に記入してもらう欄があります。

これは会社からすれば
休業手当を払う義務を守っていないことを役所に出す書類の中で
みずから告白することになるわけで、
こうしたことを企業が敬遠しているものとみられます。

しかし、会社が本当に経営が厳しくてその義務を果たすことができないのなら
社員の暮らしを守るために、
会社側は、むしろ積極的に協力すべきではないでしょうか?
そうでないと社員は暮らしていけません。
ここは行政や経済団体などが
会社が協力するよう、もっと強く働きかけるべきだと思います。

そしてもう一つは、
せっかくの制度が多くの人に知られていないことがあります。

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野村総研が去年暮れに行った別の調査では
パート・アルバイトの女性のうち、
直接、国に休業手当が申請できる「休業支援金」について
知っている割合は16.1%なのに対し、
59.2%が知らなかったと答えています。

調査を担当した野村総合研究所の武田佳奈 上級コンサルタントは、
「感染が再び拡大する中、政府はまず新制度を働く人に知ってもらい、
暮らしを守ってもらえるよう、専門の相談窓口を設けたりして
もっと制度の周知に努力すべきだ」と指摘しています。

緊急事態宣言についての、昨夜の会見の中で、菅総理大臣は、
「あらゆる方策を尽くして国民の命と暮らしを守る」と決意を述べました。

政府も、そして企業にもぜひ、働く人の暮らしを守る。
そのための取り組みを、尽くしてほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)

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