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「バイデン政権発足へ どうする日米同盟」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員
髙橋 祐介  解説委員

アメリカでは、今月20日、トランプ政権に代わって、バイデン政権が発足する見通しとなっています。菅総理大臣も、就任式後、速やかに対米外交を本格的にスタートさせることにしています。
ただ、アメリカ国内では、新型コロナウイルスの感染拡大や社会の分断によって混乱が深まり、外交・安全保障政策にも影響を与えることになりそうです。
変化する国際環境の中での日米同盟の課題を探りたいと思います。

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【バイデン次期政権発足をとりまく環境】

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(梶原)
「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領の下でも、日米関係は、全体として、順調に推移してきたとの見方が大勢です。「自由で開かれたインド太平洋」という戦略的方向性で足並みをそろえました。その一方で、TPPからのアメリカの離脱は止められず、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担、いわゆる思いやり予算をめぐっても、トランプ大統領は大幅な増額を求めたとされ、交渉は新政権に持ち越される見通しです。
Q:髙橋さん、アメリカは大統領選挙の混乱が続いていますが、新政権発足を取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。

(髙橋)
まもなく開会する上下両院合同会議で、共和党議員の一部は、バイデン氏の当選確定に異議を申し立てる見通しです。しかし、下院は民主党が多数を占め、上院も共和党指導部が選挙結果を受け入れているため、最終的に勝敗が覆る可能性はありません。ただ、トランプ大統領はホワイトハウス周辺に多くの支持者を集め、選挙の正統性に疑義を呈する示威行動を計画しています。
そうした分断の中でバイデン次期大統領はどれほど求心力を持つでしょうか?

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大統領の影響力を測る目安の一つに“コートテール効果”というものがあります。就任式で着るフロックコートの後ろ裾にどれだけ当選させた与党議員を乗せるのか?近年はオバマ氏やレーガンが「コートテールの長い大統領」でした。しかし、バイデン氏は「コートテールが短い大統領」になりそうです。
現に議会下院で民主党は多数を維持しましたが、前回より議席を減らしました。上院も南部ジョージア州の決選投票の結果がまだ確定せず、同数となる可能性はありますが、バイデン次期大統領は、伯仲する議会で、予算や法案審議、人事の承認でも、共和党からどこまで協力を得られるか?難しい政権運営を迫られます。
しかも、足元の民主党内では、国内問題で急進的な改革を求める左派勢力が存在感を増しています。バイデン氏自身は中道寄りの穏健派ですが、共和党と民主党左派との、いわば板挟みの状態で、多難な船出を余儀なくされるでしょう。

【日米外交の本格スタートは?】
(梶原)
菅総理大臣は、大統領選挙直後に、バイデン氏と電話で会談しましたが、新政権との政策のすり合わせはこれからとしています。

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政府は、まずは、外務・防衛の閣僚同士での会談を先行させ、早ければ来月にも、菅総理大臣がアメリカを訪れて、首脳会談を行いたいとしていした。ただ、ここにきて、アメリカで感染拡大の勢いが収まらないことに加え、日本でも、緊急事態宣言を出すことになるなど、当面は、両国とも、感染対策に集中せざるをえない状況です。
菅総理大臣は、できるだけ早く首脳会談を実現できるよう、感染状況をみながら、訪米の時期を探るものとみられます。日米両国にとって、台頭する中国とどう向き合うかが、最大の課題となっていて、首脳会談でも、対中国政策のすり合わせが焦点となる見通しです。

【バイデン次期政権の外交政策、中国政策は?】
Q:髙橋さん、バイデン政権で、中国政策など外交政策は、どう変わるのでしょうか。

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(髙橋)
新政権の発足後まず目指すのは国際協調。同盟国や友好国との関係修復です。トランプ大統領が離脱した温暖化防止パリ協定への復帰やWHO=世界保健機関からの脱退とりやめなどは直ちに実行するとしています。
気候変動問題について、バイデン次期大統領は閣僚級の大統領特使を国家安全保障会議に設け、盟友のケリー元国務長官を起用しました。環境保護に留まらず、経済など各分野を横断する安全保障上の最優先課題と位置づけたのがポイントです。外交・安全保障チームはバイデン氏の長年の側近や気脈を通じた面々で固めます。ここでバイデン流の独自色を出す狙いがあるのでしょう。
中国との対抗姿勢は、今後も維持される公算が大きいとみられています。アメリカ国民の対中感情は党派の違いにかかわらず近年極度に悪化しているからです。バイデン次期大統領は、中国との協力が可能な分野として、気候変動問題、コロナ対策、核の不拡散の3つを挙げています。しかし、中国との交渉や取引は、ともすればアメリカの国内政局で「弱腰外交」のレッテルを貼られ、共和党から攻撃の的になるリスクを伴います。香港や新疆ウイルグルなど中国による人権弾圧は、民主党左派も強く批判しているため、いわば身内からも突き上げを受けかねません。貿易収支や知的財産権などの対立とは異なって、人権問題は価値観をめぐる問題ですから妥協が難しいのです。このため、中国の出方次第で、バイデン政権の発足後も、米中関係は、さらに緊張激化の可能性をはらむでしょう。

(梶原)
日本政府は、中国との関係を重視しつつも、力で現状を変更しようとする中国の動きには強く反対する立場です。そのため、今回、バイデン政権が、中国に対して「対抗と協調」を掲げ、気候変動対策などでは協調するとしていることを複雑な視線で見つめています。

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それは、新政権の顔ぶれに、オバマ政権の閣僚や高官が多く含まれ、オバマ政権での苦い記憶を呼び起こすからです。
例えば、大統領特使に起用されたケリー氏は、オバマ政権で国務長官を務めていた際、中国が、南シナ海で、大規模な埋め立てを行っていたにも関わらず、環境分野での協力を推し進めました。
今回、国務長官に指名されたブリンケン氏が、国務副長官を務めていた2016年8月、尖閣諸島の周辺海域に、200隻を超える中国漁船が押しよせる事案が発生しました。翌月行われた米中首脳会談で、ホワイトハウスが公表した広報文には、尖閣諸島についての言及はありませんでした。アメリカが、気候変動対策で協力を得るため、中国に配慮したとの見方があります。

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今回、バイデン政権は、中国に「対抗」する姿勢を明確にし、オバマ政権時代とは一線を画しているものの、中国は、早くも、気候変動などでアメリカと連携を探る動きを見せています。政府内からは、中国との「協調」ばかりが先行し、中国の力による現状変更を黙認することにつながるのではないかと、懸念する見方が出始めています。
菅総理大臣としては、首脳会談で、▼新政権の対中政策、「対抗と協調」の2つの要素のバランスをどうとるのか、▼日本と歩調を合わせる形でトランプ政権が掲げた「自由で開かれたインド太平洋戦略」を引き継ぐかなどを確認しておく必要があるでしょう。

【日米同盟のこれから】
(髙橋)
バイデン氏は「同盟国との結束強化」と並んで「同盟国による応分の責任と負担」も訴えてきました。トランプ大統領のように同盟国にも「安全保障上の脅威」を理由に制裁関税を課すような極端な“アメリカ第1主義”は、ひとまず終わります。しかし、自国の利害が最優先という本質はバイデン政権も何ら変わりません。「国際秩序の再構築はアメリカこそが主導する」と言っても、国内問題に力を割かれ、外に振り向ける経済や軍事パワーは陰りも見えています。そもそも「アメリカはもはや世界の警察官ではない」そう言い切ったのは、バイデン氏が支えたオバマ前大統領でした。無論バイデン政権による同盟重視は歓迎するべきです。しかし、かつてのアメリカがそのまま帰ってくることを頼りにするべきではないでしょう。

(梶原)
民間のシンクタンクによりますと、7年後の2028年には、アメリカと中国の経済規模が逆転するという予測があります。アメリカ国内の混乱と中国の経済成長は、唯一の超大国としてのアメリカの抑止力を前提にした日本の安全保障政策に、さらなる検討の必要性を投げかけているように見えます。地域に安定をもたらす日米関係はどうあるべきか。その模索が始まろうとしています。

(梶原 崇幹 解説委員 / 髙橋 祐介 解説委員)

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