新型コロナウイルスの感染が拡大する中、病床のひっ迫が深刻になっています。
必要な人が治療を受けられなくなる事態は避けられるのでしょうか。
【入院できない高齢者/感染拡大の悪循環】
11月に感染が拡大した“第3波”は、高齢者にも感染が広がっているのが特徴です。感染症法の運用では、重症化するリスクが高い、高齢者や持病のある感染者を入院させることになっていますが、病床が埋まるにつれて、入院調整が難しい地域が出てきました。
入院できない高齢者は、自宅や施設で療養しながら入院を待ちます。本来入院する人が待機しているわけですから、状態を把握し、急変したら医療につなげることが最低限必要です。それを担うのは保健所ですが、入院の待機者が多くなった地域の保健所はこの業務でひっ迫しています。その結果、これまで効果を上げていた濃厚接触者を追うクラスター対策に手が回らなくなるという悪循環が進んでいます。
【数字以上にひっ迫する医療現場】
感染者を受け入れる病床は、数字以上にひっ迫しています。北海道でみてみると最大で確保できると国に報告しているのは1811床。これを確保病床といいます。
青色の棒・入院者数993人を確保病床で割ったとすると、全体の使用率は55%。これが公表されている病床の使用率です。
しかし、実際には今使える病床は白い部分、残りは行政の要請に応じて順次準備していく病床です。今使える病床を分母とすると病床の使用率は71%になります。
一番下の、大阪の重症の病床でみると、実際に運用されている病床を分母にすると82%で、大阪府はこちらの数字を公表しています。
透明のところ、準備病床の運用を始めるには専門医や呼吸器管理のできる看護師を、確保していかなければなりません。
そして、その確保のために医療現場では苦渋の選択が始まっています。
大阪市立総合医療センターは若年世代のがん病棟を一時休止し、患者に別の病棟に移ってもらいました。そして捻出した20人の看護師を、同じ大阪市立の病院でコロナ患者の受け入れをしている十三市民病院に派遣して、受け入れを拡大します。感染の拡大によって医療機関に起きるのは、感染者を受け入れる病床のひっ迫だけでなく、ほかの診療科も巻き込んだ診療体制への影響なのです。
【医療機関の連携の課題】
病床のひっ迫の裏に見えてくるのは、医療機関同士の連携の課題です。
表面化しているのは「退院がスムーズにいかない」という課題です。
厚生労働省が出している入院患者の退院基準は2つ。▽PCR検査が2度陰性になる、もしくは、▽発症して10日が経過し、症状が軽くなって72時間経過した場合です。発症から10日経過というのは、この期間を過ぎると、患者からの感染力がなくなるとされているからです。
しかし、高齢の患者の中には入院中に日常生活ができなくなり、直接自宅に帰れなくなることもあります。一方でリハビリを行う病院や療養施設はPCR検査が陰性でなければ、感染の可能性を恐れているところがあります。このためPCR検査をするのですが、検査はウイルスの残骸にも反応して陽性になることが多く、入院が延びてしまう理由の一つになっているということです。
この問題については、リハビリ病院や療養施設に、退院基準の妥当性をきちんと周知して協力体制を構築する必要があります。また、退院する患者については感染の恐れがないとして受け入れる病院や施設側に財政支援がありません(新型コロナ患者を診療する病院には財政支援があります)。しかし、治療を終えた患者を退院させて、スムーズに次の患者を受け入れるためには、後方病床にも支援を検討していくべきではないかと思います。
連携の課題としてもっと大きな問題があります。病院の診療データを詳しく分析すると、地域に医療従事者はいたとしても、うまく生かせていないことが分かってきたんです。
上の図は新型コロナの患者を受け入れた病院と受け入れなかった病院の2月から6月までの診療データを比較したものです。
受け入れた病院が341、受け入れなかった病院が226で、それぞれの病院にいる専門医を分析しました。受け入れのない病院でも、呼吸器内科の専門医がいた病院が4分の1、集中治療医と救命医含めて揃っていた病院も1割ありました。逆に専門医がいないのに受け入れをした病院も4分の1あって、受け入れとその体制に「ミスマッチ」が起きていたことが分かります。
また、病院の設立母体別に見ても、受け入れの傾向が分かれています。指定感染症となっている新型コロナの患者を受け入れるかどうかはそれぞれの病院の判断です。行政の指揮命令系統が働く公立病院は76%が受け入れましたが、民間病院は中小規模のところが多いこともあり、あまり受け入れていませんでした。専門家からは「中小規模の民間病院に分散している人材を再配置できれば新型コロナ患者の受け入れ体制はもっと拡大できるのではないか」という指摘が出ています。
【苦渋の選択=入院対象者を絞る】
では医療体制の崩壊を防ぎ、患者への影響を最小限に食い止めるために何が出来るでしょうか。すでに始まっているのは「入院対象者の絞り込み」です。
感染症法の運用では65歳以上の感染者は全員が入院対象ですが、神奈川県では入院する人の数を絞るため、優先度を判断する指標を作りました。75歳以上だと3点、糖尿病があると2点、症状がない場合は−1点、といった具合に重症化するリスクを点数化し、合計5点以上を入院の目安とします。入院調整が難しくなったことを受けての対応で、本当に必要になった人を医療につなげるための次善の策です。こうした取り組み、地域ごとにいろいろ行われています。政府には各地の対応や事例を把握して、厳しい事態に直面した地域にノウハウとして共有することが求められていると思います。
【医療従事者の再配置の仕組みを】
そして、医療資源のある都市部では医療機関の壁を越えてスタッフを派遣し再配置する仕組みを検討する時期が来ていると思います。国は5月に、医療従事者を派遣した派遣元の医療機関を支援することを通知しています。しかし同じ地域のほかの医療機関への派遣は、積極的には行われていませんし、そもそもどの病院にどの程度重症の患者が運ばれているのか、個別の医療機関は情報を持っていません。
だからこそ行政のリーダーシップ、あるいは、大学病院や地域の医療関係者を含めた調整の場を行政が作ることで、医療従事者の派遣・再配置を促す仕組みを検討するべきだと思うのです。調整ができるキーマンは地域によって違います。大学の医局が地域の医師の人事権を握っているところもあれば、病院協会に詳しい人がいるケースもあるでしょう。災害でもないのに自分の病院の優秀なスタッフを派遣するのは、今までの常識では考えられないでしょうが、それを実行する仕組みを作らないと、個別の医療機関任せでは“第3波”は乗り切れないのではないでしょうか。
もちろん、そもそも医療従事者が少ない地域には、災害派遣と同じように感染が拡大していない地域からの広域応援を行うべきです。
国内は間もなく、多くの人が交流するクリスマス・年末年始に突入し、そのあとも冬は続きます。医療体制が崩壊し患者に大きな犠牲がでるようなことにならないよう、医療サイドとしても、できる対策を早急に打っていくことが必要だと思います。
【最後に】
とはいっても、感染拡大がこのまま続けば、医療体制は無限ではないですから、いずれ崩壊します。体調が悪いのに外出する(体調が悪いのに勤務させる)、何の対策もしない飲み会で無防備に飛沫を浴びるといったことは、もう絶対にやめましょう。
(米原 達生 解説委員)
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