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ドコモTOB成立 再結集NTT 世界に対抗

竹田 忠  解説委員

国内最大のTOBが成立しました。
NTTが、ドコモに対して4兆3000億円という
巨費を投じて行ったTOB=株式の公開買い付け。
これによって、ドコモは、NTTの完全子会社となって、
年内にも上場廃止という見通しになりました。
NTTがグループの力を再結集して目指すのは、
世界を相手のゲームチェンジです。
その実現への第一歩となるんでしょうか?

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【 焦点は何か? 】
▽終止符が打たれる、親子の“確執”
▽狙いは、対GAFA
▽気になる携帯料金の値下げは?
この3点について考えます。

【 TOB 】
まず、TOBの結果です。

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もともとNTTはドコモの株の66%を保有する筆頭株主です。
残りのおよそ34%、11億株を、すべて買い取るというのが今回の狙いです。
買い取り価格は一株3900円。
買い付け総額4兆3000億円は、国内のTOBとしては過去最大です。

この結果、8億株を上回る応募があり、
NTTの株式保有比率は、91.46%にのぼって、TOBは成立しました。
90%以上の株を持った場合は、「特別支配株主」となって、
残りの株を強制的に買い付けることができます。
NTTはすみやかにこの手続きに入る予定でして、
これによってドコモは年内にも上場廃止となる見通しです。

【 親子の「確執」 】
▼通信政策の大転換
上場廃止になる、ということは、
ドコモというブランドもなくなってしまうのか?というと、
そんなことは決してありません。
今後も、ドコモとして従来通りのビジネスを展開していきます。

それなら、なぜ、4兆3000億円という巨費を投じて
わざわざ完全子会社化するのか?
しかも、この完全子会社化は、日本の通信政策の転換を意味します。
というのも、巨大な独占企業NTTをいかにうまく分割して、
新規参入企業の競争を促すか、
それこそが、日本の通信政策の根幹だったからです。

▼28年の確執
具体的にどういうことなのか。
これまでの経緯で見てみます。

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1985年、電電公社が民営化され、NTTとなります。
当時は中曽根政権の時代で
行政改革や、民営化が大きな流れとなっていました。
そして、92年、ドコモが分離されます。

当時は、まだ固定電話が全盛の時代で、
無線電話というのは、あくまで傍流であり、格下の存在とみられていました。
このため、本体からドコモに移った人は
左遷されたとみられていたと、当時を知る人たちは話します。

しかし、それだけに、新しい組織には
NTTに対する強い対抗心と、反骨精神、
そして、新たな分野を手掛ける、前向きで自由な社風がありました。

その成果が、99年に開始された、 iモードです。
世界に先駆けて、携帯でのインターネットサービスを成功させ、
爆発的なヒットとなりました。

業績が拡大し、会社の価値のものさしである時価総額で、
ドコモがNTT本体を上回ることもありました。

勢いに乗ったドコモの内部では、グループからの独立論が強まります。
一方、NTT側からすれば、ドコモが天狗になった、いうことを聞かなくなった、いうことになり、亀裂は深まっていきました。

そこに、激流が押し寄せます。
スマートフォンの登場です。
この新たな波に乗り遅れたドコモはシェアが低下し、
最近ではiPhoneの販売頼みという様相も強まって、
ついに今年3月期、ドコモの営業利益は
au、ソフトバンクに次ぐ、3番手に落ちこみました。

グループの稼ぎ頭がこのままの状態では
NTT全体が地盤沈下してしまう、
その危機感が、今回のTOBにつながったわけです。

【 対GAFA 】
では、ドコモと一緒になって、NTTは何を目指すのか?
問題はそこです。
NTTの澤田社長は、会見で、こう述べています。

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「『失われた20年』の間に、世界の情勢は大きく変化した」
「グローバル市場で『ゲームチェンジ』を起こしたい」

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まず、この、「失われた20年」で起きていたこと。
それはこの、GAFA。
グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン。
その頭文字をとって、俗にGAFAと呼ばれる4社を中心とした
巨大IT企業の台頭と支配構造の定着です。

それまで、NTTなど各国の大手通信会社が
世界中に構築してきた通信インフラをたくみに利用して
データとモノとマネーが行き交う独自のサービス網を確立し、
世界中から利益を吸い上げるビジネスモデルが作られました。

そして、GAFAは、さらに、
自分たちの生命線である、各地のデータセンターをむすぶ、
太い通信インフラをみずから持とうとしていて
海底ケーブルや通信衛星も手がけようとしています。

このままでは通信網まで巨大ITの支配下に置かれ、
大手通信会社は、新たな経済圏から
遠ざけられてしまうかもしれない。
そうした危機感が強まっているわけです。

では、どうやって、ゲームチェンジを図るのか?
その柱が、NTTが研究や開発で
国際的にリードしている、といわれる
光技術を活用した新たな通信ネットワーク構想です。
「IOWN」(アイオン)と名付けられていて、
既存の技術の100倍の伝送量が可能だといいます。

今、世界各国が、2030年をメドに実用化を目指している
新たな次世代の通信規格「6G」では、
今よりさらに大量の情報を送れることが不可欠で、
その時に、この新たな光ネットワークが
重要なインフラになる可能性があります。

さらにNTTは半導体を、電子ではなく、
光で動かす研究も進めています。
ドコモのスマホを軸にして、光の新たなネットワークにつなげて、
「6G」でゲームシェンジを図る。
すでにインテルやソニーなど、大手企業との提携も進めています。

最初に触れたように。
巨大NTTを分けることが日本の通信政策の根幹でした。
なのに、なぜ、今回、ドコモも完全復帰があっさりと認められたのか?

それは、日本の競争力の復活には
こうしたNTTグループの力を再結集させないと勝てないという
同じ危機感を政府も共有しているためだとNTTの幹部は話します。

【 携帯料金の値下げは? 】
と、ここまでは、
スケールの大きな話をしてきましたが、
まずは、NTTとして、
目の前の厳しい課題、現実を乗り越えないといけません。

その一つが、料金の値下げです。
携帯料金の値下げは、菅政権にとっての重要課題の一つです。

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菅総理は、官房長官時代から4割下げられる、というのが持論ですし、
それを受ける形で武田総務大臣は、先月、
各社に対してより一層の競争を促す政策集、
「アクションプラン」をまとめ、値下げへの圧力を強めています。

そもそも政府が今回のTOBを容認したのも、
NTTが大きくなれば、値下げ余力もそれだけ大きくなるはずだ、
という読みと期待があるため、というのが大方の見方です。

今後の値下げの方法としては
① ドコモそのものが値下げをする
② ドコモが、これまで持っていなかったサブブランドを作って、
そこで大幅に安いプランを始める
③ そのどちらもやる、などのパターンが考えられます。

今後、年内にも引き下げを表明して、
来年の春商戦から実際に値下げを行う、というのが、業界の見方で、
すでに値引きを表明している競合他社もNTTの出方をみて、
さらなる値引きや追加値下げ、ということも十分にありそうです。
そして、最後の課題は、
NTTの肥大化への批判にどうこたえるかです。
先日も、auを展開するKDDI、ソフトバンク、楽天の三社が共同会見を行い
NTTの一体化で公正な競争が損なわれてしまう恐れがあると、危機感を訴えました。

政府は、料金引き下げを求めるだけでなく
大きなNTTと、
その一方で、市場での自由な競争とが両立できるよう
目を光らせる必要があります。

(竹田 忠 解説委員)


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