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コロナ禍で追い詰められる女性たち DV・母子世帯の困窮

山形 晶  解説委員

新型コロナウイルスの影響が深刻化しています。
DV=ドメスティックバイオレンスや、母子世帯の母親の失業が増えていることがデータの上でも明らかになってきました。
もともと弱い立場に置かれていた女性たちが、より深刻な状況に陥っているおそれがあります。

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法務省の「女性の人権ホットライン」の強化週間が今月12日から始まり(18日まで)ました。
DVやセクシャルハラスメントなどについて相談の電話が寄せられています。
今回、法務省が特に注視しているのが、新型コロナの影響によるDVの増加です。
もともと攻撃的な傾向のある配偶者やパートナーが、コロナの影響で収入が減ってストレスが増したり、家で過ごす時間が長くなったりすれば、DVのリスクが増大します。
さらに問題なのは、常に相手が家にいる状況で「逃げ場」がなくなり、助けを求めることすらできなくなっているおそれがあることです。
法務省は、被害を受けている人たちや、家族・友人・知人などに、DVの被害など、女性の人権に関する問題があれば、ホットラインを利用するよう呼びかけています。

【法務省 女性の人権ホットライン】
電話番号 0570-070-810(全国共通)
〇強化週間(11月12日~18日)の受付時間
平日8:30~19:00 土日10:00~17:00 
〇19日以降の受付時間
平日8:30~17:15 (平日のみ)
電話のほか法務省のホームページでも相談受付

DVの増加は、データとして表れています。
内閣府によると、全国の相談件数は増加しています。

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全国の自治体に設けられているDVの相談窓口、「配偶者暴力相談支援センター」と内閣府の相談窓口に寄せられた相談件数の合計を見てみると、ことし5月と6月は前の年の同じ時期の1.6倍、7月以降も1.4倍となっています。
ただこれは、あくまでも窓口に寄せられた相談の件数です。
実際は、その陰に、相談すらできない多くの被害が埋もれているおそれがあります。
内閣府は、先月から、より相談しやすくなるように、全国共通の短縮ダイヤルを設けました。
ここにかけると、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。
そして、コロナの影響で相談しにくい状況に陥っている被害者のために、「DV相談プラス」という、内閣府の新たな相談窓口も設けられています。
電話とメールは24時間、チャットは正午から午後10時まで受け付けています。

【DVの相談窓口】
「DV相談ナビ」#8008(はれれば) 
※電話の短縮ダイヤル。受付時間は地域によって異なります。
「DV相談+」 
・電話 0120-279-889(つなぐ・はやく)※24時間受付
・メール ※24時間受付 
・チャット ※12:00~22:00
(メール・チャットはhttps://soudanplus.jp/から相談できます)

こうした相談窓口などを通じて、埋もれている被害をどう見つけ出し、保護につなげるかが緊急の課題です。

もう1つ、深刻化しているのが、新型コロナによる暮らしへの打撃です。
見過ごせないのが、母子世帯の生活への影響です。
コロナの感染が広がり始めた頃から、収入の減少や失業の増加が懸念されていました。
それは、母子世帯は全体の4割あまりがパートなどの不安定な非正規雇用で、職場の経営が悪化すれば、その影響を受けやすい立場にあるからです。
支援団体には、仕事を休まされたり、職を失ったりして、生活が困窮しているという深刻な相談が相次いでいます。
支援団体の1つ、「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」が行っているアンケート調査には、コロナ禍で収入が激減した人たちから悲痛な声が寄せられました。
母親が自分の食事を1日1回にしたり、もやしやうどんといった安い食材を使ったりして食費をぎりぎりまで切り詰めてしのいでいるといった声。
シャンプーの代わりに安い石鹸を、洗剤の代わりに塩を使って節約しているという声もありました。
この団体によると、生活の困窮は、心の健康にまで悪影響を与えているということです。

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それでは、果たしてどのくらいの母親たちがコロナの影響で仕事を失っているのでしょうか。
総務省の「労働力調査」で示されている数字をもとに、母子世帯の母親の完全失業率を計算し、去年と比較してみました。
すると、ことし5月以降、ほぼ去年の同じ時期を上回っていることがわかりました。
9月には4.8%に達していました。
そして、別のデータでは、コロナの影響が鮮明に出ています。
雇われている「雇用者」の女性のうち、非正規雇用の人たちの数の推移です。
ことし3月以降、去年を大きく下回っています。
9月は1421万人で、前の年の同じ時期に比べ73万人も減っていました。
こうしたことからは、もともと不安定だった母子世帯の雇用がさらに不安定になり、多くの母親が働きたくても働けない状況に陥っていることがうかがえます。
母子世帯は、もともと限られた収入で暮らしている場合が少なくありません。
厚生労働省の調査によると、父親と子どもの父子世帯の平均の年収が420万円なのに対して、母子世帯は240万円あまりです。
国は今年度、ひとり親世帯のうち、収入の少ない世帯やコロナの影響で収入が減った世帯に、5万円を基本として給付金を支給する緊急の対策を実施しました。
厚生労働省によると、今後、再び支給するかどうかは今の時点では決まっていないということですが、検討すべき状況に来ているのではないでしょうか。
自分の努力で解決する「自助」が限界に来ているのは明らかです。
食料の支援など、「共助」も広がっていますが、求められているのは、より大きな「公助」です。
必要な人たちに必要なだけの支援が届くような方法を考えていくべきではないでしょうか。

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DV被害や生活苦といった厳しい状況の中、自ら死を選ぶという最悪の事態も起きています。

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警察庁のまとめを見ると、全国の自殺者は7月以降、去年より増加しています。
先月(10月)は、確定前の速報値ですが、2153人でした。
このうち女性は851人で、去年の同じ時期より82.6%増えました。
厚生労働省は、電話やメール、SNSなどで相談する窓口を検索できるサイトを設けています。
つながらなかったり、すぐに返信がなかったりしても、あきらめずに相談してください。

【自殺の相談窓口】
厚生労働省のサイト http://shienjoho.go.jp/

厚生労働省から自殺の傾向について調査を依頼されている「いのち支える自殺対策推進センター」の分析によると、コロナによる生活不安などいくつかの要因が連鎖して自殺者が増えていて、中でも女性の自殺の増加が顕著だということです。
団体の代表理事の清水康之さんは、「初めのころは感染に対する恐怖が大きかったが、その後、生活への不安が高まり、最近では閉ざされた人間関係の中で生じる暴力やストレスの問題が大きくなっている。いつ収束するかもわからず、不安が増している」と分析しています。
今、新型コロナウイルスの感染者が再び増加する傾向が強まっています。
マイナスの要因が重なって最悪の事態にならないように、早く手を打つ必要があります。

コロナ禍では、DVの被害者や母子世帯だけが苦しんでいるというわけではありません。
ただ、いくつかのデータから明確になっているのは、もともと支援の手が足りず、弱い立場に置かれていた女性たちが、より苦しい状況に追い込まれているということです。
コロナ対策の給付金や貸付金をさらに継続していくことも検討すべきではないでしょうか。
そして、児童扶養手当や生活保護など、今のセーフティネットの仕組みの中で、支援を充実させていくこともできるはずです。
弱い立場の人たちがさらに打撃を受けるような事態は、食い止めなければなりません。
時間はありません。国や関係機関は、すぐに対応すべきではないでしょうか。

(山形 晶 解説委員)
 


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