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新型コロナウイルス 感染の再拡大を防げ

中村 幸司  解説委員

再び急速な感染拡大を起さないために、どうすればいいのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加しています。このまま感染の拡大が続けば、再び経済活動を大幅に自粛しなければならない事態にもなりかねません。専門家も、感染の集団=「クラスター」を作らないようにするなど、対策を一層進めるよう求めています。
今回は、感染の現状を見た上で、いまの感染拡大を抑えるには何が必要なのか考えます。

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まずは、感染者の現状です。

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上の図は、全国の感染者数の推移を日付ごとに見たものです。2020年3月から4月にかけての最初の大きな山と、7月から8月ころにかけての大きな山に続いて、10月に入って、再び感染者が増加傾向になっています。
11月11日には、感染者の発表が1500人を超えました。8月8日以来の数です。大阪府、愛知県、それに東京都といった大都市で増加傾向にありますが、特に、北海道で感染者が急増しています。

北海道の状況がこちらです。

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北海道は、9月の中ごろからの増加傾向が、ここにきて急になってきています。この1週間で新たな感染者がおよそ2倍になっています。
北海道では、クラスターは9月までに39件発生していますが、10月以降、11月6日までの1か月程だけで、それを上回る43件のクラスターがみつかっています。
北海道で何が起きているのでしょうか。

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冬になって感染が広がりやすくなっている要因も考えられますが、ひとつ大きいのが、札幌市の繁華街での感染拡大です。43のクラスターのうち、半分近い20件は、札幌市内の接待を伴う飲食店という限られたところで起きています。
札幌市では、クラスターの連鎖も起きています。接待を伴う飲食店から、学校や家庭、職場などに広がり、それがさらに、福祉施設や医療機関などに広がって、クラスターになった例があります。クラスターの連鎖は、感染者の急激な増加につながりやすいとされ、警戒されていますが、実際に起こっているのです。
北海道は11月7日、感染を抑える対策を始めました。ススキノの地域限定で、接待を伴う飲食店やバー、ナイトクラブは営業時間を、午後10時までに、カラオケ店や居酒屋などは、酒の提供を午後10時までに短縮するよう求めました。11月27日まで、集中的に対策を進めることにしています。

接待を伴う飲食店で感染をどう抑えるかは、6月から8月にかけて、東京で感染が広がったときに、問題になりました。

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それをきっかけに、対策のポイントが専門家から示されています。自治体や保健所が、オーナーや従業員など店側と信頼関係を作ることが前提で、その上で感染が広がっていることを早期につかみ、関係者に集中的にPCR検査を受けてもらう。こうした協力が得られる状況にすることが大切です。そして、感染が拡大した時は、地域や業種を限定した営業時間の短縮の要請をすることが有効だとしています。
しかし、最初にある「信頼関係」の構築は難しく、この対策の実効性を上げるには、時間がかかるとされています。ススキノについて見ても、感染拡大の把握や集中的な検査の実施がどこまでできていたのか、課題を指摘する声も聞かれます。
新型コロナウイルスの感染対策では、接待を伴う飲食店がカギを握っているとされているだけに、全国の他の地域でも、こうした店の対策を実施する態勢、関係づくりを急ぐ必要があります。

現在の全国での感染状況をみると、接待を伴う飲食店以外でも、クラスターが報告されています。

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たとえば、大学生の飲み会や学生寮、外国人たちのコミュニティーなどです。これらは、感染しても症状が出ない、あるいは言葉が通じにくく、情報が伝わりにくいケースが多いといった理由で、感染者の集団が発生しても把握しづらく、課題となっています。
ほかにも、職場の休憩時間などに感染が広がっている例があります。
自治体が、大学や外国人とネットワークをもった国際交流協会などの団体と連携する、あるいは企業の産業医などと連携することが、重要とされています。多様化に伴って、様々な機関と協力することが一層必要になっています。

いま、感染者が増加する要因は何なのか。

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実は、感染者数が横ばいに見える9月、10月のころから、「感染が拡大するリスクがある」と指摘する声は上がっていました。
最初の感染の山を過ぎた、5月、6月は、新たな感染者は、全国あわせても1日に数十人程度まで減りました。緊急事態宣言を解除した直後で、社会全体の動きが抑えられていて、都道府県境を越えた移動を恐る恐る始めたころです。
一方、9月、10月は、概ね1日に300人から700人くらいで下げ止まっていました。GoTo トラベルなどのキャンペーンが実施され、イベントの人数制限の緩和など、様々な経済活動が拡大されました。また、新型コロナ発生前のような「普通の生活に戻りたい」という気持ちもあって、どこか、対策が緩みがちになっていると指摘する専門家は少なくありません。
社会経済活動と感染対策の両立を図る中で、感染者は以前のようには抑えられませんでした。政府の分科会の尾身茂 会長は、11月9日、「適切な対策をしなければ、急速な感染拡大に至る可能性が高い」と、強い警戒感を示しました。

では、いま、どのような段階にあるか。

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政府の分科会は、感染状況を、4つのステージ=段階に分けています。感染者が散発的に発生する「ステージⅠ」から、爆発的な感染拡大が起きている「ステージⅣ」までです。「ステージⅣ」では、緊急事態宣言の検討が想定されます。「ステージⅢ」は感染者が急増している段階です。どのステージにあるのかは、感染者数、あるいは準備された病院のベッドがどれくらい埋まっているのかといった指標から都道府県が判断することになっています。
現在、北海道は「ステージⅡ」にあるとされていますが、「ステージⅢ」に近づいているとみられています。大阪など近畿や愛知、東京など、ほかの都府県も対策が遅れれば、同じように「ステージⅢ」へ移行する危険があります。
緊急事態宣言を避けるのはもちろんですが、「ステージⅢ」になれば、その都道府県について「GoTo トラベル」の対象から除外することが検討されます。
さらに、イベントや県境をまたぐ移動など、さまざまな活動の自粛も進められることになると思います。

徐々にもどり始めている経済活動を維持するためにも、これ以上の感染拡大は、何としても抑えなければなりません。そのためには、各業界、各機関が感染対策ができているかどうか改めて点検するなど、対策の徹底を図ることが必要です。

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私たち一人一人も、3密を回避する、大声を出さない、換気などの徹底が重要です。年末に向けて人と集まる機会が増えるかもしれませんが、対策を十分とらないで、大勢で長時間、飲食をするなどリスクの高い行動をとらないことが大切です。

新型コロナウイルスは、感染が増加すると、あるところから急激に感染者が増えるという特徴があるとされています。感染者が急増すれば、保健所による感染対策が追い付かなくなるなど、悪循環を引き起こし、病院など医療への負担の増加につながってしまいます。
過去2回の苦い経験を繰り返さないよう、それぞれが感染を抑える行動をとることが求められます。

(中村 幸司 解説委員)


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