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東京の住宅地で陥没 何が起きたのか

中村 幸司  解説委員

なぜ、住宅地で地面が5メートルも陥没したのでしょうか。
2020年10月18日、東京・調布市の住宅地でおきた陥没では、けが人はありませんでしたが、現場周辺では不安な日々が続いています。
現場の下40メートル以上の地下では、東京外かく環状道路、いわゆる「外環道」のトンネル建設工事が行われています。陥没の原因は調査中で、トンネル工事との関係も分かっていません。

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今回は、
▽陥没がどのように起きたのか、
▽原因について、現状でどのような指摘があるのか、
▽原因解明に求められることは何なのか、考えます。

陥没が起きたのは、東京・調布市の住宅地です。10月18日の朝、地表面にひび割れが見つかりました。穴は次第に広がり、昼過ぎに大きな陥没が確認されました。

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陥没は、深さ5メートル、幅6メートル、長さ5メートルほどの大きさで、周辺の住民およそ30世帯に一時、避難が呼び掛けられました。
現場の真下、地下およそ47メートルには、東京外かく環状道路(「外環道」)のトンネル工事が進められています。工事を行っている東日本高速道路は、「陥没の原因は、わからない。トンネル工事との因果関係も不明だ」としています。
トンネル工事は掘削機で掘り進めます。すでに陥没現場をおよそ130メートル通り過ぎています。トンネル内の壁には、ひび割れや水漏れなどはなく、陥没との関係が考えられる異常は確認されていないということです。

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ただ、住民は異常を感じていました。
調布市には、「家が揺れている」などといった連絡が、8月ころから寄せられていたといいます。トンネルの掘削機が現場の下を通過したのは、陥没の1か月ほど前の9月14日でした。

いったい、何があったのでしょうか。
東日本高速道路は、専門家らの委員会で調査しています。原因について、この委員会は、2つの可能性を指摘しています。

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ひとつは、もともと現場付近の地下に空洞があった可能性です。
かつて川が流れていた場所や、水道管からの水漏れなどで空洞ができることがあります。この場合、トンネル工事と関係なく陥没したかもしれませんし、工事が陥没を誘発したことも考えられます。
もう一つは、トンネル工事が直接、原因になった可能性です。地下では、「シールド工法」という方法でトンネルが掘られています。

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この方法で山を掘るときは、固い岩盤を削りながら進みます。一方、砂でできている地盤を掘るときは、注意をしないと崩れた砂に気づかずに進んでしまいます。その結果、トンネル周辺に空洞ができ、これが陥没の原因になることがあります。

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こうした陥没は、2020年6月に横浜市で起きています。
鉄道のトンネル工事で、地下19メートルの砂の地盤をシールド工法で掘り進めていたところ、真上の道路が2か所で陥没しました。この陥没事故の報告書では、掘削の際に空洞ができて陥没に至ったとしています。

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今回の現場も、砂の層を掘り進んでいます。同じように、空洞ができて、それが原因で陥没した可能性が指摘されています。
このトンネルは、深さ40メートル以上の「大深度地下」を利用しています。これだけ深いと、掘削工事の影響は地表面までは及びにくいと、一般には考えられます。粘土のように粘り気のある土の場合はそうなのですが、砂の地盤の場合、空洞の上の砂がそのまま落ちて、地表で局所的な陥没を引き起すことがあります。
加えて、このトンネルは3車線分の道路を掘るために、直径が16メートルと国内最大級の大きさです。
仮にトンネル工事が陥没の原因だったとすると、地盤が砂だったこと、トンネルの規模が大きかったことなど、地表に影響が出やすい条件が重なったことが要因として挙げられると指摘されています。
ただ、今回の陥没については、まだ調査中ですので、ほかの原因で陥没した可能性はあります。

ここで、外環道が、どのような道路なのか見てみます。

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都心からおよそ15キロのところ、東京・埼玉・千葉を結ぶ環状の道路です。このうち、関越自動車道と東名高速道路の間、16キロを南北に結ぶ区間の建設が、陥没現場の下で進められていた工事です。南と北からそれぞれ掘り進めていました。完成すれば、東名高速道路をはじめ、中央道、関越道、東北道、常磐道など放射状に伸びる高速道路をつなげます。
東日本高速道路は、工事をいったん中止していて、原因が分かるまで工事を再開しない方針にしています。

では、原因の解明には、どのようなことをする必要があるのでしょうか。

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ひとつは、トンネルの工事記録の確認です。特に陥没現場の真下付近で何かに手間取って、掘り進むスピードを遅くしたり、止めたりしていなかったか確認する必要があります。
さらに、陥没とトンネル工事に因果関係があるかどうかは、陥没の下の部分の地盤を調べることで分かる可能性があると専門家は指摘しています。

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もし、トンネル工事で空洞ができて、それが原因で陥没したのであれば、地盤が空洞部分に向け、下に落ちるように動いたことになります。

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現場付近の砂地盤は強度が強いことが過去の調査で分かっていますが、落ちた部分の砂は密度が緩くなってしまうため、強度は弱くなります。
ですから、陥没の下の地質を調査して、強度が弱くなっていれば、それもトンネル付近の深いところまで弱くなっていれば、地盤全体が動いた、つまり空洞の隙間に向け、落ちたと考えられ、トンネル工事と陥没に因果関係があったことが強く示唆されます。

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一方、もともとここに空洞があったのかどうかについて、東日本高速道路は、現場付近で以前、川が流れていなかったかどうかや、井戸などがなかったかといった、いわば「土地の経歴」を資料などで調べることにしています。
こうした調査で、トンネル工事によって陥没したのかどうかを明らかにできるかが焦点になります。

そして、今、求められることは住民の不安の解消です。

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特に、掘削の機械が通過してから1か月余り後に陥没しただけに、「再びどこかで陥没が起きないか」と心配している住民は多いと思います。
東日本高速道路では、周辺を24時間巡回しています。また、地面の動きを計測したり、地面の下に空洞がないかどうか探査装置で調査を進めたりするとしています。こうした調査については、その結果の意味や、調査でどこまでわかるのかという限界などを、住民にわかりやすく説明することが大切です。

もう一つ考えておく必要があるのが、「大深度地下」の工事の安全性です。

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深さ40メートル以上の地下は、通常は使われない深さであることから、大深度地下の制度は、用地の買収せずに、土地の所有者への同意なく使うことができるようにしています。
外環道だけでなく、JR東海が建設を進めているリニア中央新幹線でも利用され、今後、さらに広がる可能性があります。
今回の陥没と地下のトンネル工事に因果関係があるとなった場合、国は大深度地下の利用を住民が安心して受け入れられるように、工事を安全に進めるための対策の検討が必要になることも考えられます。

地下は見えないだけに、そこでわからないことが起きていると、住民の不安は大きくなります。東日本高速道路は、少しでも早く地域がもとの暮らしに戻れるよう、専門家の検証を受けながら、陥没の原因を明らかにすることが求められます。

(中村 幸司 解説委員)


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