祖国に戻れない事情を抱えた外国人に対する厳しい制度が議論を呼んでいます。
在留資格がないために国外への退去命令を受けた外国人が、入管施設に長期にわたって収容されている問題で、入管庁は速やかな送還を目的とした法改正に向けて制度の見直しを検討しています。これに対し、外国人の支援者や弁護士は抜本的な改革にはほど遠く問題の解決にならないと反発しています。国連人権理事会の作業部会も、日本の収容制度が国際人権法に違反しているとの見解をまとめ政府に見直しを求めています。長期化する収容の背景と問題の解決に何が必要かを考えます。
入管、出入国在留管理庁の施設に収容されているのは、在留資格のない人や資格を失った人など不法滞在を理由に国外退去を命じられた外国人です。本来、入管施設は送還までの一時的な収容の場所で、退去命令を受けた人の90%以上は速やかに出国していますが、送還を拒み収容が長期化するケースが増えています。
去年末時点で全国の入管施設に収容されていた外国人は1054人、その4割以上が半年以上収容されている人で、3年以上の人も63人いました。送還を拒んでいるのはおもに難民認定申請中や日本人の家族を持つ人など祖国に帰れない事情を抱えた人たちです。
各地の入管施設では長期収容に抗議するハンガーストライキが相次ぎ、去年6月には長崎県大村市の入国管理センターでナイジェリア人男性が餓死するという痛ましい事件が起きました。
収容の長期化への内外の批判を受けて入管庁は法改正に向けた制度の見直しを検討しています。
主な内容は、▼入管庁が認めた団体や弁護士らの監理のもとで社会生活を認める「監理措置」制度と、▼難民として認められないものの人道的配慮により在留を認める「準難民」制度の設置、これら2つは仮の名称です。▼在留特別許可は日本に家族がいる人など特別な事情がある場合に法務大臣の裁量で在留を認めてきた制度で、申請からの手続きなどが法律で明記、適正化されます。▼さらに、送還を拒否した人や仮放免中に逃亡した人に対する刑事罰の導入、▼難民認定の複数回申請者の送還を可能にする制度も検討されています。これらは現在検討中で修正される可能性もあります。
入管庁は、退去命令を受けた外国人を速やかに本国に送還することが改正の目的であり、自発的に出国すれば再入国までの期間が短くなり、収容に代わり社会生活が可能になるなど人権にも配慮していると説明しています。
これに対して、日弁連をはじめ全国の弁護士会は一斉に声明を出し、懸念を表明しています。とくに、問題視しているのは下の2つの制度で、送還を拒む外国人に刑事罰を科したり帰国を強制したりするのは人権侵害だとしてそれぞれの事情を考慮するよう求めています。また日本は難民認定基準が厳しく複数回の申請だからといって送還は保護すべき人を危険にさらしかねず、迫害の恐れがある人の送還を禁じた難民条約に違反する可能性があるとしています。▼監理措置も、新型コロナウイルスの感染リスクが高い入管の狭い部屋で何人もが暮らすことを考えれば一歩前進のように見えますが、すでに退去処分を受けた人には適用されません。また、就労は認められず監理する側も定期的な報告を義務付けられるなど負担は重く、国が民間に責任を押し付けようとしているといった指摘もあります。
在留資格がなくいつ送還されるのか、不安を抱えながら生活している人の中には、日本人の配偶者や子どもがいる人、日本で生まれ育ち祖国の言葉も文化も知らないという未成年者も少なくありません。
これらの絵は、日本で生まれながら在留資格がなく仮放免中の中学生や高校生、大学生が描いた家族の絵です。仮放免では就労が認められず、健康保険にも入れません。子どもたちは、家族が引き離されてしまうのではないかといった不安を抱えています。それぞれの絵からは家族みんなで日本で暮らしたいという願いが込められています。
法改正を前にこのほど国連人権理事会の作業部会が、長期収容は恣意的な拘禁を禁止した国際人権規約に違反しており、司法の審査もなく無期限の収容は正当化できないなどとする意見書をまとめ日本政府に改善を求めました。入管に長期収容されていた2人の訴えを受けて日本政府の反論もふまえて審査が行われたもので、弁護士によれば日本の入管制度が恣意的拘禁にあたり明確な国際人権法違反だと作業部会で判断されたのは初めてだということです。
作業部会に訴えた1人は、トルコ国籍のクルド人、デニズさんです。13年前に来日し、これまで4回難民の認定を申請しましたが、認められず、通算5年間収容されてきました。妻は日本人で、今は体調を崩して仮放免中です。デニズさんは次のように話していました。「理由も言われずに捕まって収容されました。私たちは人間です。働くことを認めてほしい。働くことができたら最初の給料で奥さんと食事に行って自分で払い、奥さんにプレゼントをあげたい」。
もう1人はイラン出身のサファリさんで、日本に来て30年近くになります。4年半収容され、うつ状態で体調も悪く、「仮放免されても収入もなく病院に行くこともできない。人間として扱ってほしい」と話していました。
国連の作業部会は意見書の中で、収容は最後の手段であり、収容期間に上限を設け、期限をすぎたら収容を解くべきだとしています。また、収容には司法の判断が必要だとしており、現在の収容制度を抜本的に見直すよう求める内容です。海外では収容期間がすぎたら収容を解く国も少なくありません。これについて入管庁は、法に基づいて適切に対処しており、意見書は訴えた個人の扱いに関する見解だとしながらも、適正化に向けて検討していきたいとしています。
収容・送還問題の根底には、日本を離れられない様々な事情が十分考慮されていないこと、それに難民の認定基準が先進国の中では極めて厳しいことがあります。
去年カナダでは申請者の55%、アメリカやドイツでも20%以上が難民認定されましたが、日本の認定率は0.4%にとどまりました。日本の認定率が低いのは、たとえ身の危険があったとしても集団ではなく特定の個人として母国で認知されていることを証明できなければ難民として認めない厳しい基準があるからです。認定基準が厳しいだけに3度目、4度目の申請を理由に審査からふるい落とし、処罰したり強制送還したりすれば国際的な批判は避けられないでしょう。むしろ、難民認定すべき人を見逃していないか、難民認定制度の見直しこそ必要です。日本はより多くの外国人の受け入れに舵を切りました。
少子高齢化が進む日本の将来を考えれば、外国人労働者への依存は避けて通れません。それだけに多くの外国人に社会の一員として活躍してもらうには、外国人にも風通しのよい社会を築くことが不可欠です。入管法の改正案は早ければ臨時国会に提出される見通しですが、「難民鎖国」の汚名を返上するためにも管理するだけでなく共存のための施策を、幅広い議論を重ねながら考えていくことが必要ではないかと思います。
(二村 伸 解説委員)
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