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「台風10号 これからの避難の課題」(時論公論)

二宮 徹  解説委員

台風10号は日本から離れましたが、7日午後10時現在、鹿児島県で1人が死亡、宮崎県椎葉村で4人の安否がわからないほか、暴風によるけが人や停電などの被害が相次ぎました。また、合わせて880万人あまりに避難指示と避難勧告が出され、定員オーバーで受け入れを断る避難所も目立ちました。
激甚化する気象災害と新型コロナ対策の中で浮き彫りになった、これからの避難の課題についてお伝えします。

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<台風10号の被害>
今月1日に発生した台風10号は記録的な勢力で近づくと予想され、早くから最大級の警戒が呼びかけられました。そして、6日夜から7日午前にかけて、九州全域を暴風域に巻き込みながら北上。宮崎県椎葉村で山の斜面が崩れて住宅が川に押し流され、4人の安否がわからなくなっているほか、鹿児島県で側溝に転落した女性が死亡しました。

<異例の対応>
今回は「過去最強クラスの台風」との予想に国や自治体は異例の対応をしました。

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気象庁と国土交通省は、連日、共同記者会見を開いて、最大級の警戒を呼びかけました。これを受け、鹿児島県では避難を希望する離島の住民をヘリコプターや船で鹿児島市に避難させました。台風への備えとしては初めてでした。また、JR西日本は新幹線の車両を本州に移動させたほか、新幹線などが計画運休しました。さらに、住民も多くが早くから備えました。九州のホテルの多くが、安心して一夜を過ごそうとする人たちの予約でいっぱいになったほか、ホームセンターやスーパーでは食料品や防災用品が売り切れました。
今回、こうした事前の備えや避難が被害軽減につながったことは確かだと思います。事前に何をすべきか考え、行動する防災の取り組みは、今後の防災のモデルケースになると思います。

<台風が九州接近直前に弱まった理由>
一方で、事前に「特別警報級」とか、「記録的な暴風や大雨のおそれ」などと呼びかけられたことに、今振り返って違和感を持っている人もいるかもしれません。台風の勢力が直前に弱まった理由は何でしょうか。
九州近海の海水温が影響したと見られています。

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9月1日の海水温の平年との差を見ると、赤い部分が平年より高く、本州から九州にかけて広がり、平年より3度以上も高い海域もありました。
これに対して、6日の海水温は、九州の西や南西の海域が青く、平年を下回ったのがわかります。台風がこの海域に入ったため、予想より早く勢力が弱まったと見られています。
なぜ九州近海の海水温が急に下がったのか。台風9号が9月2日から3日にかけて、この海域を通過して海水がかき混ぜられたためです。
それに加えて、台風10号の進路もやや西寄りに進みました。九州南部に上陸、またはすぐ近くを進む可能性がありましたが、九州から少しでも離れたことで、暴風の被害が予想より小さくなったと見られます。
それでも、九州接近時の中心気圧は950ヘクトパスカル以下で、過去に大きな被害を出した台風に匹敵する勢力でした。実際60メートル近い最大瞬間風速が観測され、総雨量がおよそ600ミリにのぼったところもありました。進路が少し東にずれて、九州に上陸・接近していたら、もっと大きな被害が出ていたでしょう。

<受け入れできない避難所>
こうした中、コロナ禍の災害での避難について、大きな課題が浮き彫りになりました。定員に達して受け入れを断る避難所が相次いだことです。宮崎市では、6日の日中の段階で、定員に達して受け入れできなくなる避難所が出て、ホームページで受け入れ可能な避難所を表示するなどしました。
このように受け入れできずに、他の避難所に行ってもらう対応をした避難所が九州と山口県の8県、116の市町村で500カ所以上にのぼりました。これは、3密を避けるため避難所1か所あたりの定員を減らしたからです。避難所によっては半分、または5分の1まで減らしたといいます。
自治体は、新たに高校や文化施設などを避難所に指定して、受け入れを増やしていましたが、まだまだ不十分であることが明らかになりました。背景には、運営に当たる職員や間仕切りなど感染防止の設備が足りないなどの事情もあるといいます。
しかし、大地震など災害の規模によっては、または人口の多い大都市では、今回を大きく超える避難者が詰めかけると予想されます。それに、今回のように、避難に時間の余裕があるとは限りません。国や自治体は、民間企業に避難場所の協力を求めるなどして、早急に避難所の受け入れ人数を大幅に増やす必要があります。

<分散避難にも課題>

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避難について、もう一つ明らかになった課題は分散避難です。今回、コロナ感染への不安から、在宅避難や車中避難、それにホテルなどに避難する人が多くいました。
このうち、車中避難は、暴風が吹き荒れる台風では、屋根のない駐車場で過ごすのは非常に危険です。安全な場所だったとしても、長時間座るなど、同じ姿勢でいると血管に血の固まりができるエコノミークラス症候群が心配されます。
今回、自治体によっては大型スーパーやパチンコ店などの立体駐車場を避難所に指定しましたが、こうした場所を増やす中で、建物の安全性や受け入れ台数などについて確認しておく必要があります。
しかも、こうした分散避難は、どこに、どれだけの人がいて、どんな支援を必要としているかがわかりにくくなります。自治体は、分散避難の人たちへの支援を見落としていないか、人数やニーズを把握して、支援体制の整備を進めてほしいと思います。

<今後も備えを>
今回は台風が接近する3日以上前から備えや避難について強く呼びかけ、早めの対応を取れたことで、被害を抑えられたことは確かですが、得られた教訓や反省を次の災害に活かさなければなりません。次は何日もかけて呼びかけや備えができるとは限りません。台風も直前に弱まるものばかりではありません。

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あらためて、6日の海面水温の平年差を見ると、平年より高い赤い部分が本州を覆うように広がっています。30度を超えているところもあります。これらの海域は、ことし台風が一つも通っておらず、海水がかき混ぜられていないため、温度が高いままです。このため、特に本州を中心に水蒸気が供給されやすく、南から湿った空気が流れ込んで、今夜も広い範囲で局地的な大雨のおそれがあります。それに、今後、本州に台風が近づけば、勢力が強いまま接近上陸するおそれがあります。

台風シーズンは始まったばかりです。今回、影響がなかった地域でも、備えを十分に進めてください。特に、コロナ禍の防災や避難について、国や自治体だけでなく、私たち一人一人も真剣に考え、備えておく必要があります。

(二宮 徹 解説委員)

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