『Withコロナの学校』を模索せよ
2020年07月28日 (火)
西川 龍一 解説委員
新型コロナウイルスの感染拡大の学校現場への影響が続いています。本来夏休みであるこの時期、小中学校や高校の多くが夏休みを短縮するなどして休校による学習の遅れに対応するのに加え、感染の再拡大への備えを進め、Withコロナの学校作りを急ぐ必要があります。
▽ほとんどの地域で夏休みが削られる学校の現状
▽学びの保証に向けた国の対策と課題
▽感染の再拡大に備えるために
以上3点をポイントに、義務教育である小中学校を中心にこの問題について考えます。
今年2月末の政府による突然の全国一斉休校要請によって始まった学校の休校は、新しい学年が始まる4月以降も多くの都道府県で続きました。文部科学省のまとめによりますと、4月1日以降、99%の公立小中学校が臨時休校を実施していたことがわかりました。休校の日数は、31日から40日間が最も多く、21日から30日間とあわせると、小中学校とも66%、3校に2校が新学期をなかなか始められない状況を余儀なくされたことがわかります。
臨時休校の長期化で心配されるのが、学習の遅れです。多くの小中学校は、学校行事を見直したり、7時間授業を行ったりするものの授業時間数が補いきれない事態となっています。そこで行われているのが、本来この時期まさに始まっているはずの夏休みの短縮です。文部科学省によりますと、小学校は95%、中学校も94%で夏休みの短縮が行われています。通常40日程ある夏休みを16日間に短縮する学校が多いのですが、中には9日間と、社会人のお盆休み程度しか夏休みがない地域もあります。子どもたちが疲れてしまい、勉強や学校が嫌いになることを心配する声もあります。教員にとっても授業改善にじっくり取り組む時間が奪われるという懸念があります。
ここ数年、各地で夏場は日中の最高気温が35度を超える猛暑日を記録することが当たり前のようになっています。このため学校では冷房設備の設置が進められ、文部科学省は昨年度末までに小中学校の普通教室では設置率が9割程度まで進むという見通しを示していました。しかし、学校内の施設の中には、体育館などのようにほとんど設置できていない場所も少なくありません。加えて今回は、感染防止のため、室内では換気を頻繁に行うことなどが求められています。新型コロナに加え、熱中症のリスクも避けながら子どもたちの学びを確保するというかつてない課題に学校が直面しているのです。
では、遅れを取り戻し、学びを保証するため、国はどのような対応を取っているのでしょうか。文部科学省はこれまでに、遅れた学習を補うための指針をまとめ、公表しています。この中で、授業を効率的に行うため、授業以外でも学べる単元を振り分ける考え方も示し、教育委員会に通知しています。
例えば小学校の国語では、相手の話を受けて話をつないだり、文章を読んで感じたことや考えたことを伝え合ったりすることなどは授業以外ではできません。しかし、経験したことや考えたことを文章に書いたり、必要な文章を読んだりするといった1人でもできることは授業以外で扱うことも可能としました。
算数でも、教科書の問題演習や学んだ内容について考えをまとめることなどは授業以外で扱えるとしています。これらは概ね教科書全体の2割程度に当たります。
一方で学校は、教室での3密を防ぐためクラスをわけて少人数で授業を受けることや、教室の中で学習に遅れが見られる子どもたちを個別にサポートするなどの対応が求められています。学校の働き方改革という重い課題も抱える中、今までの教員だけでは運営を賄いきれない事態です。これに対応するため、全国で新たに3100人の教員を配置するなど、学習指導員やサポートスタッフと合わせて8万人を超える人材を確保するための予算を計上しました。
ただ、これで万全というわけにはいきません。学校以外での学びを示したことについては、積極的に自分で学習を進められる子とそうでない子の学習に差が広がる可能性があることや、特に低学年では保護者の負担が増えるといった懸念があります。単に単元をこなすだけでは遅れを取り戻すことにはならないという意見もあります。子どもたちの学びが定着しているかどうかを見極める必要があります。
学校の人材確保はどうでしょう。国は予算を計上したものの、実際に人材を確保することは、各自治体に任されています。文部科学省は、退職した教員やアルバイト先を失った大学生などに協力を求めることを想定しています。しかし、地方には学生そのものがほとんどいないところもあります。退職した教員には、コロナ禍特有の問題が生じています。定年退職した教員に声をかけたところ、教える意欲はあるものの、感染リスクが心配だと断られるケースが出ているのです。高齢であれば基礎疾患を抱える人も多く、そうした人が感染した際、重症化の可能性が指摘されているだけに、こうした反応は致し方ないことです。授業を支える以上、誰でもいいというわけにはいきません。国はこうした実態も踏まえ、予算化で終わりではなく人材をどう確保するのかなどサポートを進める必要があると思います。
では、新型コロナウイルスの感染の再拡大に学校はどのように備えればいいのでしょうか。休校中、各地の学校で取り組みが進められたのがタブレットなどの情報端末を利用したオンライン学習です。以前から情報端末を使った学習を授業に取り入れてきた学校では、休校中も子どもたちとオンラインでつないで健康状態や宿題の進捗状況を確認したり、授業を行ったりするところもありました。
先進的な取り組みを進めてきた自治体の1つ、埼玉県戸田市は、学校再開後も次の感染拡大によって再び休校になる事態に備えてオンラインと従来の対面学習を組み合わせた「ハイブリッド学習」と名付けた授業を進めています。例えば1人の教員が行う授業を3つの教室とつないで双方向の授業を行う。子どもたちは密を避けて分散させることができる上、日常的にこうした授業を行うことで、家庭と結んだオンライン学習にもすぐに転用が可能になります。戸田市の戸ヶ崎勤教育長は、「日常的なものとして使っていこうという発想の転換が必要だ」と言います。
一方で、学校が再開したことで、黒板とチョークで授業ができるようになったのだから、従来型の授業を行えばよいという考えもあります。しかし、それでは再び学校での学びが止まったとき、また一からやり直しということになりかねません。オンライン学習をめぐっては、家庭の経済状況などによって利用できない子どもがいるなど、格差が広がることが懸念されていました。これには、国が情報端末に加え、通信用のモバイルルータについても通信環境が整備できない家庭の子ども向けに優先的に配備して、環境を整えることを決め、今後、スムーズな調達ができるのかが課題となります。設備が整うとなれば内容を充実させ、授業に生かすことができるのかどうかは、最終的には学校にかかっていることを認識する必要があります。
地域によって感染状況も学習の進み具合も異なる中で、今後ますます教育委員会や学校長の判断が重要になります。今は平時ではないだけに、何もしないことこそが子どもたちの学習権を奪うことにつながると考え、当面は続くと予想されるWithコロナの学校のあり方に知恵を絞り続けることが、国、教育委員会、学校現場のそれぞれに求められています。
(西川 龍一 解説委員)
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