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東京都知事選 小池知事再選 都政は国政は

西川 龍一  解説委員 曽我 英弘  解説委員

東京都知事選挙で現職の小池百合子氏が再選されました。選挙結果が国政に与える影響や小池都政2期目の課題について考えます。

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【選挙結果】
選挙の結果はご覧の通りです。小池氏の得票366万票あまりは、前回をおよそ75万票上回りました。この結果をどう見ますか?

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(曽我)
「小池劇場」とも呼ばれた4年前から一転、新型コロナウイルス対策もあって、静かな選挙戦だったという印象です。小池氏は今回街頭に立つことは一度もなく、相手陣営から「論戦を回避している」などと批判も出ました。しかし、NHKが投票日に行った出口調査によると小池氏は無党派層の5割余りの支持を得るなど、新型コロナウイルス対策など公務を優先する姿勢を強調したことに理解が得られた形です。

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一方で投票率は、前回より4.73ポイント低い55%にとどまりました。今回小池氏の信任投票の様相となったほか、選挙期間中、感染者が再び増加したことで有権者が外出を控えようという心理が働いたことも影響したかもしれません。ただ東京都の財政規模と都知事の影響力は、他の自治体と比べ物にならないほど大きいだけに、東京そして日本の抱える課題を解決する具体策について、より議論を深めるべきだったのではないでしょうか。

【小池都政1期目の評価】
(西川)
東京都は、この10年間で4人の知事が入れ替わるという異例の事態が続いていました。任期を全うし、都民の信任を得た形となった小池さんは、今回の選挙で、政党からの推薦はすべて辞退していました。中央政界への影響をどう見ますか?

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【中央政界への影響は】
(曽我)
今回の結果がただちに国政を左右するとは考えにくいものの、各党は首都のリーダーを選ぶ選挙にも関わらず、自らが主導する形で選択肢を明確に示せなかったことで戦略の見直しが迫られそうです。
自民党は小池氏の再選を後押しする党本部側と、独自候補の擁立にこだわる都連との綱引きが続きましたが、最終的に都連側は擁立を断念し、事実上の自主投票となりました。今回小池氏を実質的に支援した公明党と温度差もあり、次の衆議院選挙、来年の都議会議員選挙に向けて小池氏と協調していくのか、距離を置くのかかが課題となりそうです。
一方野党側は統一候補の擁立には至らず、批判票が分散する構図が今回も繰り返されました。
共産・社民両党ともに宇都宮氏を支援した立憲民主党は国民民主党とも連携し、分裂のきっかけになった因縁の小池氏と戦うことで、わだかまりを解消する良い機会になると期待する向きもありましたが、果たせませんでした。さらに立憲民主党に距離を置く日本維新の会は小野氏を推薦したほか、野党議員の中には消費税率5%減税を掲げる山本氏を独自に支援する動きもありました。野党の連携強化や合流の実現は簡単ではないとの見方も出ています。

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【都政の課題】
(西川)
ここからは、小池都政2期目の課題について見ていきたいと思います。直面する課題として、新型コロナウイルス対策と来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックの問題があります。小池知事は、新型コロナウイルス対策では、都道府県では唯一の不交付団体という財政上の強みを生かし、独自の対策を示してきました。国の緊急事態宣言が解除された後も感染拡大防止と社会経済活動の両立を図っていくとして、感染の第2波に備える必要性を繰り返し強調する一方、経済活動の再開に向けて、都独自の「ロードマップ」を取りまとめ、新規の感染者数など7つの指標を踏まえて段階的に休業要請を緩和しています。ただ、選挙期間中、都内で新型コロナウイルスへの感染が確認された人は、増える傾向が続き、今月2日以降は連日100人を超えています。一方、オリンピックについては、感染の終息が見通せないなか、本当に来年の開催が可能なのかという声も上がっています。

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【中長期的な課題への懸念】
都の財源は、企業からの税収に支えられています。法人事業税と法人都民税が都の税収の3分の1を占めているだけに、景気が冷え込むと税収が一気に落ち込むことが懸念されています。実際、リーマンショックの影響を受けた2009年度には、1兆円の減収となりました。そのために積み立てられてきたのが、都の貯金にあたる財政調整基金です。しかし、これを新型コロナウイルス対策の財源としたため、9300億円余りあったものが、残り807億円まで減り、感染の第2波以降への独自の財源は底をついた形です。都の財政について、6日の会見で質問された小池知事は、「いろいろなカードを持っていると言うことだ」と述べるにとどめ、具体策は示しませんでした。

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一方、財政問題は、東京都が抱える「老いる東京への備え」という中長期的な課題への取り組みへの足かせになろうとしています。全国の人口が減る中でも増え続けている東京都の人口は、5年後の2025年から減少に転じると予想されています。その後、高齢化が進み続け、2030年には4人に1人、2050年には3人に1人が65歳以上の高齢者になる見込みです。問題は高齢者の数が桁違いに多いことです。2015年に301万人だった高齢者は、2030年には340万人、ピークとなる2050年には419万人と予想されています。静岡県の人口がおよそ360万人ですから、規模の大きさがわかると思いますが、高齢者のための施設は圧倒的に足りなくなります。
老いるのは人だけではありません。首都高速に代表されるように、東京の都市インフラは、前の東京オリンピックの頃から集中的に整備が進められてきました。道路や橋、上下水道などの中には、すでに半世紀以上が経つものも多く、使い続けるには更新や補修を繰り返さなければなりません。温暖化の影響で日本に上陸する台風の大型化や相次ぐ夏のゲリラ豪雨などで、都市部の豪雨災害に対する脆弱さも指摘されています。いつ起きてもおかしくないとされる首都直下地震への備えも含め、この問題は、東京1局集中の弊害とも言われ、石原都政以来の宿題が積み残され続け、解決を難しくしている形です。小池知事は、この難題への具体策を早急に示すことが求められます。

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【今後の政局は】
(曽我)
最後に今後の政局について考えてみたいと思います。
安倍総理大臣と小池都知事は6日早速会談し、新型コロナウイルス対策や、東京オリンピック・パラリンピックの成功に向け、引き続き緊密に連携していくことを確認しました。
国政では衆議院議員の任期が残り1年3か月余りとなる中、次の選挙がいつ、誰の手で行われるのかに関心が集っていて、年内の解散の憶測も出る一方で、今は小池氏と課題の解決に取り組むことを優先すべきだという声も根強くあります。ただ小池氏は前回の知事選、都議会議員選挙で自民党側と激しく争い、3年前の衆議院選挙では国政進出を目指して希望の党を突如立ち上げ、安倍政権を一時は脅かした経緯もあります。
「再び国政を目指すのではないか」との見方が根強くある中、次の衆議院選挙に小池氏はどう出るのか。与野党各党は小池氏との関係をどう整理していくのか。小池氏の動向は選挙全体の構図や各党の戦略に影響を与える可能性もあるだけに、引き続き注視していくことになりそうです。

【まとめ】
(西川)
小池知事には、1期目でかかげた待機児童ゼロ、満員電車ゼロなど、好印象を与える公約は果たせなかったという批判があります。東京都は日本全体の牽引役を担うことが求められています。そのことを踏まえ、都政運営に邁進することが、自らが得た366万票の重みに応えることではないでしょうか。 

(西川 龍一 解説委員/曽我 英弘 解説委員)


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