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「『ウィズコロナ』時代のプラスチック問題」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

「海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることをめざす」
  ちょうど1年前、大阪で開かれたG20サミットで、各国首脳はそう合意しました。
そして来月から全国の小売店でレジ袋の有料化が義務づけられますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、プラスチック対策には思わぬ課題も出てきました。
 そこで、新型コロナと共に生きる「ウィズコロナ」とも言われる時代のプラスチック問題を考えます。

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 去年6月のG20で、各国首脳は「2050年までに新たな海洋プラごみ汚染をゼロにすることをめざす」大阪ブルー・オーシャン・ビジョンに合意しました。
 背景には近年、海に漂ういわゆるマイクロプラスチックが急増している問題があります。このままでは、「2050年には世界の海のプラスチックは魚の総重量を超える」とも見積もられ、既に今、私たちは水や空気や食物連鎖を通じて毎週5g、クレジットカード1枚分のプラスチックを体内に取り込んでいる、とする報告もあります。その人体への影響は未知数です。

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 こうした中、この年末年始にかけて、日本の南の海でマイクロプラスチックの実態を調べるユニークな取り組みが行われました。
横浜港から南国パラオまで3000kmに及ぶ親善ヨットレース。そのルート上で、ヨット愛好家と研究者が協力して、海水中のプラスチックを採取したのです。
 海洋研究開発機構の千葉早苗さんらの分析で、陸から遠く離れた太平洋上にも多数のマイクロプラスチックが浮遊している実態が確かめられました。円グラフが大きい所ほど海水中のプラスチックの量が多いことを示し、円グラフの内訳は見つかったプラスチックの種類を表します。
 特に多かったのは食品の袋などにも使われるポリエチレンで、次いでボトルのキャップなどに使われるポリプロピレンも目立っています。そして日本近海は量が多いこともわかります。日本は1人あたりの使い捨てプラの量が世界で2番目に多いとも言われ、その一部は環境中に出て川から海へと流れ込んでいます。

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 では、こうした状況に対し、対策はどう進んでいるのでしょう?
 日本は去年、「2030年までに使い捨てプラスチックの排出を累積25%抑制する」などとする「プラスチック資源循環戦略」をまとめました。その具体策の一つとして来月から義務化されるのが、「レジ袋有料化」です。有料化によって、必要の無い使い捨てプラスチックを抑制する狙いがあります。
 しかし、そこに新型コロナウイルスの感染拡大が、思わぬ影響を与えています。

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 まず、使い捨てプラのニーズの増加です。世界的に使用が急増したマスクの素材である不織布は、実は多くが「ポリプロピレン」などのプラスチックを使っています。また、フェイスシールドや人と人の間を遮る透明なシート、持ち帰り食品の包装など様々な場面で、むしろプラスチックの便利さが再認識されています。
 その結果、経済活動が大きく冷え込んだ中でも、今年4月のプラスチックの生産量は、包装用のフィルムや食品トレイなどの素材で、前年同月比で増加しているのです。
 また、日本はこれまで年間およそ百万トンのプラごみをアジア各国にリサイクル原料として、言わば「ゴミ輸出」してきました。しかし、各国が廃棄物の輸入規制を強める中で、さらに新型ウイルスがリサイクル工場の操業などにもブレーキをかけ、国内に多くのプラゴミが蓄積する状況が生まれています。
 プラスチック対策は、思わぬ行き詰まりに直面しているのです。

 国連のグテーレス事務総長は、今月の世界海洋デーに、「プラスチック汚染はあらゆる場所に広がっている」として、各国政府などに新型ウイルスからの復興を、海洋保全や持続可能性と両立するよう求めましたが、容易なことではありません。
 ごみ対策の基本は3R、つまり「ごみを減らすリデュース・再利用するリユース・そしてリサイクル」とされますが、新型ウイルス対策でそれが難しいケースも目立ってきたのです。

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 では、新たな海洋プラ汚染ゼロに向かうには、どうすればいいのでしょう?
 解決のひとつのカギを握るのでは、と期待を集めているのが、いわゆる「バイオ・プラスチック」です。ただし、これには異なる2つの種類があり、それぞれに課題もあります。
 まずひとつは「バイオマス・プラスチック」と呼ばれるもの。これは植物などを原料にしているため、焼却処分をしても植物が成長する時に吸った二酸化炭素が大気中に戻るだけなので、植林などで循環利用すれば、実質的にCO2が増えない、つまり温暖化対策になるというものです。一方で、環境中に捨てられれば、海洋プラの原因になることには変わりありません。
 もう一つは、「生分解性プラスチック」と呼ばれるものです。特に海中の微生物の働きで分解するものは海洋プラごみを増やさないとして期待を集めています。ただしこちらは石油から作られているものもあり、それを燃やせばCO2が出ますから温暖化対策にはなりません。
 つまり、扱い方によっては「環境に優しい」とは言えないのです。

 そして今、この生分解性プラスチックが、本当に海の中で速やかに分解するのか確かめる実証試験が始まっています。

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この3月、海洋研究開発機構の調査船から首都圏の町工場などが開発した無人探査機・江戸っ子1号が、南鳥島周辺の水深5000mを超す深海に沈められました。
そこには、企業や大学などが開発した生分解性プラスチックのサンプル、およそ25種類が取り付けられ深海の環境にさらされます。1年後にこれを引き上げ、実際にどの程度分解したかなどを詳しく分析する世界初の長期分解試験です。実は海洋プラスチックの多くは深海にたまっているとも考えられているため、こうした環境で確かめることが重要なのです。
 この分解試験をとりまとめている、東京大学の岩田忠久教授は、「感染防止用などに使われたプラスチックは環境中に出せないので燃やすしかない。だから、焼却しても実質的に大気中のCO2を増やさないバイオマスプラスチックにすることが重要で、ただ、そうした物もいくらかは回収されず環境中に出てしまうので、海洋での生分解性も必要だ」と指摘します。
 つまり、持続可能なプラスチックとは、「植物由来」で、かつ「海の中で分解する」、しかも、時としてバイオプラの生産は森林や食糧を生産する農地と競合することがありますが、そうならない、つまり「森林保全や食糧生産と両立」することも求められます。
 ごみ削減など「3R」の推進とあわせ、こうした素材の開発・普及を産官学が連携して加速する必要があるでしょう。

 プラスチック問題は、決して遠い海の話でも海外で起きている問題でもなく、私たちの暮らしと生命に関わる問題です。新型コロナウイルスからのグリーンリカバリー、持続可能な復興が求められている今だからこそ、その解決を急がなくてはならないと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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