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「戦後75年沖縄慰霊の日 変わらない現実は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

沖縄は23日、戦後75年の慰霊の日を迎えました。沖縄では、普天間基地の辺野古移設問題に限らず、集中する在日アメリカ軍基地の存在による被害という国全体の問題として捉えなければならない変わらない現実があります。75年の節目の沖縄慰霊の日にあたり、この問題について考えます。

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沖縄県の玉城知事は、平和宣言で、アメリカ軍基地が県民生活に今なお大きな影響を及ぼしていることや、世界が紛争やテロなどの脅威にさらされている現状に触れ、平和を希求する「沖縄のこころ」を世界に発信していくという沖縄の意思を強く示しました。
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、今年の戦没者追悼式は、規模を縮小し、犠牲者の名前を刻んだ「平和の礎」への訪問も自粛が求められました。節目となる戦後75年の慰霊の日に、県民の多くが、いつもと違う場所で祈りを捧げました。
なぜ沖縄がこの日を慰霊の日としているのか。太平洋戦争の末期、1945年の6月23日、国内で唯一の地上戦が行われた沖縄で、日本軍の組織的な抵抗が終わったとされているからです。住民を巻き込んだ激しい戦闘によって日米両国の犠牲者は20万人を超えました。中でも住民は4人に1人が亡くなり、住宅や農地、文化遺産や自然環境なども壊滅的な打撃を受けました。その後、20年に及んだアメリカ軍による統治を含め、こうした沖縄の歴史を忘れてはなりません。
その沖縄には、今も多くの在日アメリカ軍基地があります。2016年には県内で最大の軍事演習場だった北部訓練場7800ヘクタールのうち、半分以上の4千ヘクタールが返還されました。それでも日本の面積の0.6%にすぎない沖縄県に、在日アメリカ軍が占有する施設の70.3%が集中しています。比率は北部訓練場などの返還によって4ポイント下がりましたが、7割を超える状況は、変わりません。

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そうした中、国と県との間で対立が続くのが、普天間基地の辺野古移設問題です。国は「普天間基地の危険性を一刻も早く除去するには、辺野古への移設が唯一の選択肢」との考えの元、おととし12月、名護市辺野古の埋め立て予定地に土砂の投入を始めるなど、移設に向けた工事を続けています。ただ、この間工事はたびたび中断してきました。今年4月にも工事関係者の1人が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、工事が中断しました。中断は2か月近くに及んでいましたが、辺野古移設に反対する玉城知事を支える県議会与党が過半数を維持した沖縄県議会選挙の5日後の今月12日に再開されました。
県議会議員選挙は、辺野古移設の是非だけが争点ではないものの、玉城知事を支える勢力が過半数を維持したことは、移設に反対する県民の意思が改めて示されたとの見方が強くあります。さらに去年2月には、争点を辺野古沖の埋め立て工事の是非という1点に絞って県民の意思を明確に示そうと県民投票が行われました。結果は反対票が投票数の7割を超え、移設に反対する明確な県民の意思が示された形となりました。それでも国の考えが変わることはなく、工事は止まりませんでしたから、今回の工事再開は県側にとっては、ある意味想定内のことだったと言えます。それでも県議選直後の工事の再開には、県民の気持ちを逆なでするものだとの反発もあります。

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こうした中で、このまま移設工事を進めたとしても「早期の普天間基地の危険性の除去」という政府の説明そのものが矛盾を来す事態が起きています。辺野古沖の埋め立て予定地のうち、まだ工事が始まっていない東側の区域にある軟弱地盤の問題です。軟弱地盤の存在は、移設工事が始まってから防衛省が明らかにしました。埋め立て地の上には滑走路などが整備されることになっていることから、地盤を強固にするための改良工事が必要になり、国は今年4月、普天間基地の固定化を避けるため早期に工事を進める必要があるとして、そのための設計変更を沖縄県に申請しました。移設に反対する玉城知事は、これを承認していません。

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これに先立つ去年12月には、河野防衛大臣が設計の見直しによって完成までの工期がおよそ12年、経費は9300億円に上るとの試算結果を明らかにしました。早ければ2022年度になるとしていた普天間基地の返還は、2030年代に大幅にずれ込む見通しとなった上、当初およそ2400億円と見積もっていた経費は、4倍に膨らむ形です。普天間基地の返還に日米両政府が最初に合意したのが、橋本内閣時代の1996年のことですから、仮に2030年に返還が実現しても、30年以上が経過することになります。これでは普天間基地の固定化と同じではないかという地元の声ももっともなように思います。

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一方で、今月15日、河野防衛大臣が表明した新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の停止が、辺野古移設工事のあり方にも波紋を広げています。イージス・アショアは、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対応するためとして、政府が3年前に導入を決め、山口県と秋田県に配備する計画でした。しかし、配備先周辺の住民の安全を確保するためには、迎撃ミサイルを改修する必要があり、そのために10年の期間と2000億円の費用がかかることが明らかになりました。「費用や期間を考えれば、配備は合理的でない」として計画の停止が判断されたのです。
これを受けて、沖縄県の玉城知事は「コストと期間を考えたら辺野古の方がより無駄ではないか」と批判しました。さらにツイッターで「予算や期間に加えて工事のための技術開発や危険性の除去、それらの事実に鑑みれば普天間基地は辺野古移設をせず速やかに返還されなければ基地の負担軽減という当初の意図を果たせない」として、河野防衛大臣に「明快な決断を」と促しています。沖縄県内では、国が同じ構図で異なる判断をするのであれば、ダブルスタンダードだとの声も上がっています。国はこうした疑問に答える必要があります。

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普天間基地をめぐっては、今年4月、もう一つ、周囲の環境への影響が懸念される事態が発生しました。有害性が指摘されている有機フッ素化合物の「PFOS」(ぴーふぉす)を含む消火剤14万リットルあまりが基地の外に流出したのです。沖縄県の調べでは、基地周辺の川の水などから環境省が定める暫定目標値を超える量の化学物質が検出されています。国と県は、5年前に締結された環境補足協定にのっとって普天間基地の立ち入り調査を行いましたが、アメリカ軍の同意なしでは基地への立ち入りは元より、原因や汚染の実態といった調査自体ままならないことが浮き彫りになりました。一方で、こうした消火剤をアメリカ軍が国内のどの基地にどの程度保有し、どのように管理しているのかは明らかにっておらず、同じような事態は、全国のアメリカ軍基地周辺で起きる可能性が指摘されています。先週、東京のアメリカ軍横田基地では、所属する輸送機オスプレイの部品がなくなっていることがわかりましたが、落下場所などは不明なままです。沖縄で起きている問題は、日本全国で考えるべき問題であることに本土の我々は気付いているでしょうか。

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基地が集中する沖縄の現状は、戦後、本土の在日アメリカ軍基地が次々と返還される中で進み、それが固定化してきました。本土のつけを沖縄に背負わせることになっていることを、戦後75年の今、改めて考える必要があります。

(西川 龍一 解説委員)

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