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どう止める? 途上国・新興国の感染拡大

出川 展恒  解説委員

新型コロナウイルスの世界全体での感染者数が、570万人を超え、亡くなった人も、35万人を超えました。日本では緊急事態宣言が解除され、欧米諸国でも経済活動が段階的に再開されています。ところが、世界全体では、感染の勢いは衰えていません。とくに発展途上国や新興国での感染拡大が強く懸念されています。これを止めない限り、今後、感染の第2波、第3波という形で、日本にも影響が及びかねません。

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■WHO・世界保健機関のテドロス事務局長は、20日、途上国や新興国で、感染者数が急激に増加していると強い懸念を示しました。

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▼とりわけ深刻なのが、南米の新興国ブラジルです。
世界各国の感染状況について調べているアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の集計によりますと、これまでの感染者数は、41万人を超え、アメリカに次いで世界第2位。亡くなった人は2万5000人を超え、1日の死者数はおよそ1000人で世界最多です。
都市部で、貧しい人々が、狭い住宅に密集して暮らす地区を中心に、爆発的な勢いで感染が拡大しています。最大都市サンパウロでは、3月中旬から外出を制限する措置がとられましたが、感染を止めることはできません。新たにつくられた巨大な墓地でも、遺体が多すぎて、埋葬が追いつかない状態です。
これほど急激に感染が拡大した背景には、貧困や格差の問題に加えて、政治指導者の対応に問題があると指摘されています。ボルソナロ大統領は、新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪」と呼び、感染対策を疎かにしてきました。亡くなる人が急増しても、経済活動の再開を優先する考えを強調し、各自治体が実施する規制に強く反対してきたのです。
ちなみに、25日、羽田空港に到着した4人の外国人が、検疫で、新型コロナウイルスに感染していたことが確認されましたが、このうち3人は、ブラジルに滞在していたということです。

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▼続いて、中東でも、感染者が急増しています。
サウジアラビアでは、7万8000人で、この1か月間で5倍に急増。

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カタールでは、4万9000人で、この1か月で4倍に増え、人口10万人当たりの感染者数では、世界最多です。

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また、中東で最初に感染が拡大したイランでは、14万人を超えました。いったん減少した新たな感染者数が再び急上昇し、「第2波」とも呼べる感染拡大が起きています。
これら、ペルシャ湾岸の産油国には、アジアなどから出稼ぎ労働者が数多く働きに来ています。狭い宿舎での集団生活で、いわゆる“3密”の状態が生まれ、感染を拡大させているとみられます。加えて、イスラム教の断食の月ラマダンが、先週終わったばかりですが、この間、親族や仲間が集まっての夕食や集団礼拝で、“3密”状態となり、感染が広がったものとみられます。また、イランで、「第2波」の感染が起きたのは、政府が段階的に経済活動の制限を緩和したためとみられます。

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▼ここからは、今後、感染拡大が懸念される地域について、見てゆきます。
まず、内戦や紛争が続く国や地域です。
中東では、イラク、シリア、イエメンなどがこれに該当します。
イエメンでは、5年前から激しい内戦が続き、国民の3分の1が飢餓に直面するなど、「世界最悪の人道危機」と呼ばれる過酷な状況の中で、先月以来、新型コロナウイルスの感染が広がっています。病院が空爆されるなどして、医療体制が崩壊しており、WHOは、「実際の感染者数は全くわからない。衛生環境が劣悪で、感染爆発が心配だ」とコメントしています。
一方、イラクとシリアでは、ほぼ壊滅したとみられていた過激派組織IS・イスラミックステートが、このところ、テロ攻撃を再開しています。そのことは、新型コロナウイルスの感染対策にも悪影響が懸念されます。

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▼そして、今後、世界的な感染拡大をくい止めるカギを握るのは、アフリカの国々です。
国連は、先週、「新型コロナウイルスのアフリカへの影響」と題する報告書を発表しました。それによりますと、アフリカ大陸の54か国のすべてで感染者が確認されています。その合計は、18日の時点で、およそ8万4000人。他の地域や事前の予測と比べて少ない水準にとどまっています。報告書は、アフリカ連合などが、エイズやエボラ出血熱など過去の感染症を教訓に、早めに対応したのが功を奏したのではないかと説明しています。その一方で、多くの国で検査態勢が整備されておらず、内戦や紛争の影響もあって、感染の実態が十分に把握されていないとも指摘しています。今後、アフリカ連合と連携して、1000万件のウイルス検査を実施する方針です。
国連のグテーレス事務総長は、「アフリカの感染は、まだ初期段階にあり、楽観を許さない。アフリカの感染拡大を止めることが、世界の感染拡大を止めるために不可欠だ」
と述べて、世界各国に支援と協力を呼びかけています。

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■ここからは、途上国や新興国の感染拡大を封じ込めるため、日本を含む国際社会にとって、何が必要かを考えます。
今までは、先進国がそれぞれ、自国の問題への対応で手いっぱいで、途上国に目を向けるゆとりはありませんでした。しかしながら、途上国での感染拡大をこのまま放置すれば、コロナウイルスの脅威は、第2波、第3波となって、必ず先進国に戻ってくるでしょう。そして、世界的大流行の封じ込めを、何年も先まで遅らせることになります。
また、世界経済に与える打撃もいっそう深刻になるでしょう。世界銀行は、先週、コロナウイルスの感染拡大の影響で、今年の世界経済が、最大で5%のマイナス成長になる可能性があると指摘しました。そのうえで、途上国が受ける影響は深刻で、6000万人が極度の貧困に追い込まれる恐れがあるとしています。

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こうした新たな困難に備えて、国際的な協力体制をできるだけ速やかに構築する必要があります。具体的な取り組みとしては、
▼まず、途上国に対して、医師や医療スタッフを派遣するとともに、検査キット、人工呼吸器、マスク、防護服、消毒薬など、不可欠な医療資材や衛生用品を届けることが必要です。
▼次に、先進各国の開発で、新型コロナウイルスの治療薬やワクチンができた時には、それらが途上国にも行き渡るよう、制度やしくみを整備しておくことが重要です。
▼さらに、アメリカと中国の対立によって、国連安全保障理事会やWHOが、正常に機能していません。コロナウイルスとの闘いに適切に対応するためには、関係国の対立を解消して、正常化させなければなりません。
WHOの最大の拠出国であるアメリカのトランプ大統領は、WHOの中国寄りの姿勢が根本的に改められなければ、資金拠出を恒久的に停止すると警告し、WHOは創設以来、最大の危機に直面しています。
▼そして、途上国における失業や飢餓、医療崩壊などで、多くの命が失われるのを防ぐため、最も貧しい国々に対しては、債務の返済猶予を含む財政支援が必要です。

■先進国と途上国が手を携えてゆかない限り、コロナウイルスとの闘いに勝利はありません。日本にとっては、来年夏に延期された東京オリンピックやパラリンピックも、世界的大流行が終息しない限り、開催が困難であることを肝に銘じ、積極的に貢献してゆく必要があると考えます。

(出川 展恒 解説委員)


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