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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言一部解除で求められること」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

緊急事態宣言が解除され、何が大切になるのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大で出されていた緊急事態宣言が2020年5月14日、39の県で解除されました。対象は8つの都道府県になりました。
宣言解除によって、私たちは今後、長期間にわたって進める新型ウイルス対策の新たな段階に入ったということもできると思います。

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今回は、
▽緊急事態宣言が39の県で解除された現在の感染状況を見たうえで、
▽一部の解除が決まった今、何が求められるのか、
▽そして、警戒しなければならない第2波、第3波を抑えるために必要なことを考えます、

下図は、緊急事態宣言の区域です。

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これまでは全国が対象で、東京都や大阪府などが特に重点的に対策が必要な「特定警戒都道府県」とされました。

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そして、政府は5月14日、特定警戒の8つの都道府県の宣言を継続しました。一方、そのほかの39の県については、宣言が解除されました。

どこまで感染者を抑えることができたのか。全国の日付ごとの感染者の推移を見てみます。

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3月の後半は、東京都などで「感染爆発」や「医療崩壊」を避けられるかどうかという、非常に緊張した状況になりました。4月7日、7つの都府県を対象に、緊急事態宣言が出され、その後、全国に拡大されました。
感染者1人が平均で何人にウイルスをうつすかを示す値は、緊急事態宣言前の頃は「2以上」でしたが、4月28日には「0.6」まで下がっています。この値で「1以下」が続くと、感染は収束に向かうとされています。

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解除した条件について、政府は、
▽新たな感染者の数などの「感染状況」が直近の1週間で十分少なくなっていること、
▽重症の患者を入院させるベッドに余裕があるなど、患者の急増に対応できる「医療提供体制」が確保されていること、
▽感染を調べる「PCR検査を行う体制」が整っていることをあげています。
医療提供体制と検査体制は、第2波、第3波への備えが十分かどうかを見たもので、こうした点を都道府県ごとに判断したとしています。

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感染が確認されると、病院などで治療を受けることになります。その一方で、症状が軽い場合が多いとされています。ここが、新型コロナウイルスの対策の難しい点ですが、こうした人の中には、感染に気づかずに日常生活を送っていることがあります。

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東京都など、緊急事態宣言が解除されなかったところ(図の左)には、感染者がまだ多く、感染に気づいていない人も比較的多い状況とみられます。
一方で、ここ2、3週間感染者が確認されていない県もあります。こうした県(図の右)では、感染に気づいていない人は少ないと考えられます。

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一般に、こうした2つのケースだけではなく、両者の中間的なところ、つまり確認される感染者も、感染に気づいていない人も、ともに一定程度いるという県もありうると思います。専門家会議は、この中間にあたる都道府県は、現時点ではないとしていますが、感染者の少ない県で、今後、患者が増加すれば、緊急事態宣言の対象となる前の段階で食い止める、つまり「感染拡大に注意が必要な県」と位置づけられるとしています。

では、いま求められることは何なのでしょうか。
その一つは、その中間的な「感染拡大に注意が必要な県」がでてきた場合では、慎重な対策が求められるという点です。

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例えば、人の移動についてみてみます。感染者が多い東京都などと、その他の地域の間の移動は徹底して避けることが必要なのは、もちろんですが、真ん中の「感染拡大注意」の県でも県境をまたぐ移動は避ける必要が出できます。

というのも、感染対策のレベルが、都道府県で異なってきているからです。東京都などでは、休業など多くの自粛要請を基本的に継続していますが、感染者が少ない図の右側にあたる県では、自粛要請の多くをすでに解除しているところがあります。
対策のレベルを低くしているだけに、もし、こうした県で感染に気づいていない人が感染を広げると、それを抑えることが難しくなる恐れがあります。

さらに、真ん中の「感染拡大注意」の県では、感染者が一定程度いることになるため、感染者の増加がみられれば、自粛要請を追加するなど、対策のレベルを引き上げることも必要になります。

もう一つ指摘しておきたいのが、店舗などの事業再開に向けて、どう対策を進めるかです。

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これについては、業種ごとに業界団体が感染拡大を予防する「ガイドライン」を作ることになっていて、5月14日、多くの団体が発表しました。
例えば、スーパーマーケットの業界は、
▽レジなど従業員と客が向き合う場所では、透明なシートで仕切る
▽多くの客が触れる買い物かごなどは、定期的に消毒する
などとしています。
感染リスクを最小限にする方法は、業種によって様々で、ガイドラインは、より安全に営業を再開するうえで重要な意味を持ちます。

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私がここで注目したいのは、山梨県の取り組みです。
山梨県では、ガイドラインを作る際の基準を作りました。
基準では、例えば、
▽「密集」を避けるために、人の動き「動線」を工夫する方法を提示し、
▽「密閉」対策として、室内換気の必要な量を数値で示して、換気量に見合う人数以上、人を入れないよう求めています。業界とは別の自治体からの視点でチェックすることで、ガイドラインをより実効性の高いものにできます。
こうした取り組みは、他の都道府県でも参考になると思います。各自治体、あるいは各業界の取り組みを、たがいに情報共有することがより効果的な感染対策を作り上げていく上で大切だと思います。

緊急事態宣言の解除で重要になるのは、第2波、第3波への備えです。

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そのために、先程の感染拡大を防ぐ業界のガイドラインが、ひとつ、重要な役割を果たします。
そして、もう一つ。私たち一人一人があらためて、行動を変えることが必要です。政府の専門家会議は、「新しい生活様式」として
▽密集・密接・密閉のいわゆる「3密」を避けること、
▽人との間隔をできるだけ2メートルあける。
▽症状がなくてもマスクをし、
▽帰宅後、手や顔を洗うこと
などを求めています。
仕事では、テレワークや時差通勤、オンライン会議など、人との接触を抑えることが引き続き必要です。
生活を変えること、業界のガイドラインを守ることを 日常から徹底し、第2波、第3波を起さない、起きてもその山を最小限にしなければなりません。

ただ、そうできるのか。心配の声は聞かれます。大型連休後、対策が緩んできているという指摘もあります。街中も人が多くなりました。「3密」なのではないかという状態で、営業している店も見られます。
業界のガイドラインが徹底できない、あるいは私たち一人一人が生活を変えられなければ、警戒している第2波が大きな山になってしまうかもしれません。
そうなれば、医療崩壊の危機が迫り、感染対策をやり直すことにもなりかねません。緊急事態宣言の解除で、社会や経済は徐々に動きだしています。そのなかで、感染拡大のリスクを低く抑えたままにするには、自粛などの緩和を一気にするのではなく、段階的に慎重に行うことが必要です。あわせて、業界、そして個人が感染を防ぐ対策を一つ一つ積み上げることが大切です。
第2波を起さないレベルにリスクを抑えられるのか。私たちの行動が、いま問われています。

(中村 幸司 解説委員)

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