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緊急事態宣言延長 くらしと経済を守るために

今村 啓一  解説委員 竹田 忠  解説委員
神子田 章博 解説委員

政府による緊急事態宣言が今月末まで延長され、東京を始め各地の自治体で外出自粛や休業の要請が続き、経済への悪影響が一段と大きくなることが避けらない情勢です。
緊急事態宣言が今月末に解除されたとしても、なお感染防止の取り組みを続けることは必要で完全に元の日常生活に取り戻すのは難しく、特に財務基盤の弱い中小企業をどう支え、雇用を維持するかが、待ったなしの課題になっています。いかに暮らしと経済を守るのか。今夜は竹田委員と神子田委員とともに考えます。

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神子田さん、今回の緊急事態宣言の延長、感染防止のために必要だとはいえ、家計や企業はさらに厳しい状況になりますね。

(神子田) 
感染収束の取り組みが、短期決戦で終わらなかったことで、これまでなんとか持ちこたえていた企業からも、今月いっぱいとなると、もうもたないかもしれないという悲痛な声が聞こえてきます。

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 民間のエコノミストは、緊急事態宣言が延長されたことで、飲食や旅行といった個人消費を押し下げるなどのマイナス効果が、年間のGDP国内総生産の8.4%。およそ45兆円分にのぼると試算しています。未知のウイルスの影響で倒産した企業の数は月を追うごとに増え、先月は88社に上りました。外出自粛が長引くことで、さらに増えていくとみられます。また今後、特定警戒都道府県以外の地域で外出自粛が緩和されることになっても、飲食店の中には、他の地域からの来客で感染が広がるのをおそれて、営業の再開に踏み切れないところもあるほか、再開した店でも、感染を恐れた客に来てもらえないおそれもあります。さらに、感染防止のための新しい生活様式が求められる中で、食事処では席は横ならびに、大皿料理もお酌もだめということで、以前のような売り上げは当面期待できそうにありません。景気の低迷は長期化し、V字回復の道は一段と遠のいたという見方が強まっています。

(竹田)
そこで気になるのが、雇用情勢ですが、これも深刻なんです。

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このグラフは、去年と比べて、働く人が、どれだけ減っているかがわかります。今年3月のデータですが、すでに、今回の自粛や休業で影響を受けています。教育、宿泊・飲食、製造業で、働く人が大きく減っています。さらに、非正規労働者全体では26万人も減っていて、比較可能な2014年以来過去最大の減少幅です。立場の弱い人から仕事がなくなっているのです。

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非常事態宣言が出たのは、この後の4月からですので、今はもっと深刻な状況になっていることは確実です。専門家の間では、このままいくと一年後には100万人の雇用がなくなるおそれがあるという見方も出ている。

(今村)
となると、今、こういう厳しい状況の中で雇用を守るためには、どういう対策が必要なんですか?

(竹田)
まず、ハッキリさせておきたいのは、今起きていることは景気がだんだん悪くなってきて、仕事が減った、ということではないんです。感染拡大を防ぐために、政府が、あえて、外出自粛や休業を呼びかけて、自由な市場経済をおさえこんでその結果、売り上げがほぼゼロ、という所が出ているわけです。ならば、そうした状態でも事業や雇用が維持できるように、政府が最大限の支援をする、ということが必要です。

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では、雇用について、政府は何を新たに検討をしているか?一つは、雇用調整助成金の上限の引き上げです。企業が、社員を休ませるためには休業手当を出さないといけない。それを支援するのが雇用調整助成金です。その上限額、一日8330円を、もっと引上げることを検討しています。 
もう一つは、急浮上してきたのが、「みなし失業」の適用の検討。一言で言えば、休業者に、失業手当を出そうというものです。なぜ、そういうことが必要かというと、会社が、休業手当を払ってくれない。このままでは生活できない、という切実な訴えが労働組合などに増えています。

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そもそも雇用調整助成金は会社が申請しないともらえません。しかし、手続きが大変だったり、企業の持ち出しを嫌ったりして、積極的な対応をしない企業があるんです。そこで、そういう場合は、社員が直接ハローワークに行って申請をすれば、失業していなくても失業しているとみなして失業手当を出す、という、「みなし失業」の適用を検討しているんです。これは雇用保険の特例措置として東日本大震災の時に適用されたことがあります。認めれれば、多くの労働者が救われることになります。

(今村)
きょうから中小企業や個人事業主への持続化給付金の支給が一部で始まりましたが、依然必要な資金がなかなか手に入らないという悲痛な声が各地から上がっていますね。

(神子田)
企業の支援にはすでに様々な手が打たれていますが、こうした支援のお金が手に届いたとしても、まだ不十分だという指摘が出ています。

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売り上げのない企業にとって人件費とともに、重い負担となるのが月々の支払いが求められる家賃です。自民・公明両党がきょう、賃料の3分の2を原則半年間給付するなどの支援策をまとめ、野党も賃料の支払い猶予を盛り込んだ法案を提出していますが、支援の額に上限が設けられていることや、企業の中には店舗をいくつも持っているところもあることから、全ての経費を補えるか不透明です。資金が不足する分については、政府系や民間の金融機関から無利子無担保で融資を受けられる仕組みもできましたが、借金は借金ですから、いつかは返さなければなりません。当面の資金繰りは乗り越えられても、長期にわたって売り上げが回復しなければ、多額の負債の返済に追われてやがては資本が食いつぶされ、債務超過に陥って経営が破たんしてしまうおそれもあります。企業が倒産すれば、雇用が守れなくなるうえ、将来の経済回復に向けての基盤も損なわれることになります。とりわけ、地方では、インバウンド関連をはじめ地元の経済の将来の支え手を失うことで、地域経済全体の衰退につながりかねません。

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こうした中、いま政府内で検討されているのが、官民ファンドによる資本出資、いわば“資本注入”によって企業の経営基盤を強化することです。具体的には、政府が出資する「地域経済活性化支援機構」と地域の金融機関がすでに設立しているファンド、これはもともとは災害からの復興目的で設立されたものですが、このファンドをコロナで苦しむ企業の支援にも活用できるようにするというものです。
融資や給付金が一時的な延命措置にとどまるのに対し、新たな動きは、より抜本的な手法で事業の継続を支え、企業経営者の心が折れる前に、安心感をもたらそうというものです。経営の危機がせまる中堅企業への公的な資金を投入するという極めて異例の対応となりますが、未知のウイルスとの戦いには、従来の発想を超えた知恵が求められていると思います。

(今村)
ウイルスが簡単に終息するのは難しく、今後の社会を考えるにあたっては当面「アフターコロナ」ではなく「ウィズコロナ」。ウイルスの感染防止に取り組みながらいかに経済を維持すかが求められます。
一方で今回のウイルスへの対応をきっかけに、今、日本が抱えてきた様々な課題が浮き彫りになっています。導入が遅れてきた教育や医療のオンライン化がようやく動きだしました。
テレワークの導入で遠隔地での勤務が広がれれば、東京への一極集中の是正や生産性の向上に繋がる可能性もあります。
一刻も早く個人や企業に必要な資金を届け暮らしを守りつつ、これを機会ととらえて、浮かび上がってきた問題を打開し、強靭な日本を作るきっかけにすべきではないでしょうか。

(今村 啓一 解説委員長 / 竹田 忠 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)


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