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経済活動再開は 各国のジレンマ

二村 伸  解説委員 神子田 章博  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるために外出制限などの厳しい措置をとってきたアメリカやヨーロッパの国々で、経済活動を再開する動きが相次いでいます。一方で、早期緩和は時期尚早であり、再び感染が拡大しかねないと懸念する声も上がっています。経済が悪化する中で難しい選択を迫られている各国の状況と課題について経済担当の神子田委員とお伝えします。

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解説のポイントは、
▼各国の制限緩和の動きと▼その背景にある厳しい経済状況、▼そして制限緩和のリスクと今後の対応、以上の3点です。

(二村)
まず各国の最新の動きを見てみましょう。

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中国に次ぐ感染拡大の中心地となったヨーロッパでは拡大のペースが鈍り始めたことを受けて、制限を緩和する国がこのように増えています。14日、オーストリアで小規模の店舗とホームセンターが営業を再開したあと、デンマークやドイツ、そしてきのう27日には散歩やジョギングも禁止という厳しい外出制限を行ってきたスペインで子どもの外出制限が一部緩和されました。イタリアも来月4日から段階的に制限を緩和する方針です。

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アメリカでもトランプ大統領が、経済活動再開のため飲食店の営業や学校の再開など3段階で制限を緩和する方針を打ち出し、南部のジョージア州やサウスカロライナ州などで一部の店舗が営業を再開、10以上の州で今週中の再開に向けた準備が進められています。
欧米以外でも緩和の動きが相次ぎ、ニュージーランドではアーダーン首相が「新型コロナウイルスとの戦いに勝利した」と宣言し、きょう一部の企業活動が再開されました。各国自動車メーカーもヨーロッパに続いて来月上旬にはアメリカでの生産を再開する方針で、経済活動も徐々に動き始めています。

神子田さん、各国が制限を緩和する背景には、このままでは経済がもたないという危機感があるようですね。

(神子田)
はい。最も感染者の多いアメリカで、今月から6月までのGDP・国内総生産が前の三か月に比べて40%も落ち込むという議会の見通しが示されるなど、各国の経済は、すでに世界恐慌以来最悪の状況に陥っていて、このままではいけないという危機感が強まっています。
外出制限は、小売り、飲食といったサービス産業で、企業の経営破たん、失業者の急増を招いています。このままでは、消費が一段と冷え込み、不況が長期化することが懸念されます。

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アメリカでは先の経済対策で用意した日本円で37兆円に上る中小企業への支援金に申し込みが殺到し、わずか二週間で資金が底をついてしまいました。このため、あわてて追加の33兆円の支援金を予算に計上することになりましたが、経済の落ち込みが続けば財政が際限なく悪化することになります。こうした事情は日本を含め各国に共通しています。

(二村)
アメリカは大統領選挙を控えているだけに経済の悪化は避けたいですね。

(神子田)
トランプ大統領にとって景気が悪くなれば選挙に不利になることに加え、いま最も気にしているのは、原油価格の下落だといわれます。

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景気の悪化でエネルギー需要が落ち込む中で、5月物の原油価格が一時マイナスとなる異例の事態となりました。さらに、その先の6月物、7月物も景気の落ち込みが続くと見込んで価格が下がってきています。このままでは、40ドルから50ドルが採算ラインと言われるシェールオイルの企業の経営破たんが広がりかねないといわれます。

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トランプ大統領にとって問題なのは、シェールの産地の一部が、大統領選挙で民主党との接戦が予想されるラストベルトと呼ばれる地域に重なっていることです。この地域の人々にとっては、衰退した製造業に変わってシェール関連産業が新たな希望となっていました。その一帯で失業者が増えれば、再選の道が遠のくことになるかもしれない。それを避けるためには、経済活動を早期に回復させ、原油の需要を押し上げなければならないのです。ただ野党・民主党や感染症の専門家は、いま外出規制を解除すれば感染の拡大につながると反発しています。州ごとの対応もばらばらで、こうした状況では、感染収束が一段と難しくなると懸念する声も聞こえてきます。

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(二村)
ヨーロッパでもイギリスは制限を緩めず、国によって対応は分かれていますが、イタリアのコンテ首相は経済活動再開にあたって「ウイルスと共存する第二段階に入った」と述べています。終息までには時間がかかるだけに、拡大を抑えながら経済を立て直し、その間に治療薬やワクチンの開発を待つというのが、こうした国々の戦略です。ただ、早期緩和には慎重な見方も多く、WHOのテドロス事務局長は、「終息にはほど遠い」として早すぎる緩和が感染を拡大しかねないと警告しています。
100年前、数千万人が命を落としたスペイン風邪は、第一波がおさまったあとの第二波の方が死者が多かったことから感染拡大のペースが鈍ったからといって油断は禁物です。

(神子田)
一方で、経済の落ち込みが長引けば、最悪の場合、金融システムの危機を招くという指摘も出ています。

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企業の経営破たんが広がり、失業者の急増に歯止めがかからなければ、企業が金融機関から借りている借金を返せないばかりでなく、個人が抱える住宅ローンなどの返済も滞るようになります。すると金融機関は多額の不良債権を抱えて経営が悪化。貸し渋りにつながって、企業の経営破たんがさらに広がるという悪循環に陥りかねません。さらに金融機関自身が不良債権の重荷に耐え切れず経営破たんするような事態となれば、金融システムが危機的な情況に陥ることも考えられます。金融はすべての産業の基盤となるインフラですので、それが大きく傷つけば、不況が一段と長引くことになりかねません。

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 こうした事態を避けようと、日銀をはじめ各国の中央銀行は、企業が必要とする資金を調達するために発行した社債を購入して資金繰りを支援するといった異例の措置に踏み切るなど、できることはなんでもやる姿勢を打ち出しています。しかし経済の落ち込みが長引けば、こうしたセイフティーネットにほころびが生じるおそれも残っています。

(二村)
制限緩和の背景には、各国市民の“自粛疲れ”もあるようです。都市封鎖など厳しい措置が長引くにつれ、いつまで我慢しなくてはならないのかといった不満が強まっています。いつ、どの段階で制限を緩和するか答えがないだけに各国は難しい判断を迫られています。

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たとえばドイツでは感染者を早期に見つけるための検査の徹底と集中治療室の確保など医療体制の充実に加えて、1人の感染者が他の何人を感染させるか、その数が1未満であることを緩和の基準の一つとしています。ただ、緩和するだけでなく交通機関や店内のマスク着用を義務づけるなど新たな対策も講じています。アメリカのハーバード大学の研究グループは「対応を緩めると重症患者が増えるため、再来年まで接触を減らす対応を断続的にとる必要がある」としています。制限を緩めたあとも状況に応じて再び強化するなど弾力的な対応が重要だというわけです。

(神子田)
欧米でも、都市封鎖をしていない日本でも、抱えているジレンマは同じです。短兵急に規制を緩和すれば、かえって本格的な景気の回復を後ずれさせてしまうことになりかねません。

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今後の経済の道筋をめぐっては、急速に回復に向かうV字型は難しく、景気の底が長期間続くU字型になるという見方もでていますが、私は、落ち込んだ景気が経済活動の再開に応じていったんは回復に向かうものの、その後の感染拡大の状況に応じて、規制を再び強めたり、またゆるめたりするなかで、行きつ戻りつしていくWの文字のような型で推移していくのではないかとみています。

(二村)
感染者を減らすと同時に経済を回復させ日常の市民生活を取り戻すには国民の結束と国際社会の連携が不可欠です。グローバル化が進んだ今、感染症対策も経済も一国だけで成り立たないからです。
制限を緩和するにしても継続するにしても国民の不安を和らげ、前向きになれるように丁寧な説明が必要なことは言うまでもありません。

(二村 伸 解説委員 / 神子田 章博 解説委員)


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