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緊急事態宣言 全国に拡大 対策は新たな局面へ

伊藤 雅之  解説委員 中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象地域が、2020年4月16日、全国に拡大され、日本の対策は新たな局面に入ったといえます。そのねらいと課題を考えます。

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安倍総理大臣は、4月17日の記者会見で、緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大したことについて、大型連休に向けて、「感染者が多い都市部から地方へ人の流れがうまれるようなことは、絶対、避けなければならない」と強調しました。
これは、現状では、感染拡大を抑え込む対策が不十分だという強い危機感の表れでもあります。

緊急事態宣言の対象区域は7つの都府県だったのに、なぜ、全国的に広がったと考えられるのでしょうか。

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政府の諮問委員会は、緊急事態宣言の判断のポイントとして、▽累計の感染者の数、▽累計の感染者数が2倍になるまでにかかった期間、▽感染経路のわからない感染者の割合の3つの要素を示しています。
4月7日の緊急事態宣言で対象となった区域は、7都府県でしたが、さらに6道府県を加えた上の図の13都道府県は、感染者が累計で100人を超えているだけでなく、多くで1週間ないし10日未満で累計の感染者数が2倍になったり、感染経路が分からない人が半数以上になったりしていて、重点的に対策を進める必要があるとされています。
そのほかの地域でも、感染者の集団=「クラスター」が相次いで見つかるなどしています。当初から懸念されていたことでしたが、緊急事態宣言の区域から他の地域=地方に人が出て行くなど自治体を越えた人の動きを抑えられなかったことがあるとみられ、こうしたことが全国を対象区域にした理由としてあげられています。

安倍総理大臣は会見でも、大型連休を前にした対策強化の必要性を強調していました。それだけ、大型連休が重要なポイントになっています。

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上の図は、国内の感染者の日ごとの推移です。3月の3連休のころ「自粛疲れ」などと言って、警戒が緩んだとされていますが、その2週間後以降、感染者が急増しました。
3連休のころは、1日に確認される感染は、全国で数十人規模だったのです。

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それが4月現在では、1日数百人規模です。
検査態勢が整ってきた影響もあるかもしれませんが、感染者数が概ね10倍と大きく増え、状況は深刻です。
関係者が危機感を抱いているのは、3連休の「緩み」の後の急増は抑えられたとしても、大型連休に警戒が緩むようなことがあると、今度は感染拡大を抑えられず、「爆発的な感染者の増加」が起こると考えているためです。

緊急事態宣言を全国に広げることで、対策のねらいも変わってきています。

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誰から感染したのかわからない感染者が多いことが問題になっています。それは、水面下にまだ感染が確認されていない人が何人もいる可能性があるためです。いまや、各地でこうした状況になっている可能性があります。

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外出を自粛し、テレワークを行うなど、いま求められるのは人との接触を「8割減らす」ことだと専門家は話しています。これまでの対策は、症状が出て、見えてきた感染者の封じ込めでしたが、併せて、水面下の見えない感染を広げない対策にも重点を置くという新たな局面に入ったということだと思います。
緊急事態宣言の対象を広げることで、全国でこうした対策を徹底することが必要になっています。

安倍総理大臣は、対象地域の全国拡大とあわせて、緊急経済対策に盛り込まれた現金給付を収入の減った世帯に30万円を給付する方針をあらため、国民一人あたり10万円を一律に給付する考えを表明しました。この二つの決断の関係を考えます。

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緊急事態宣言の対象地域の拡大によって、社会と経済活動への影響は全国に広がります。感染が確認された人が少ない自治体からは「想定していなかった」などと戸惑う声も出ています。
また、国民に一律10万円を支給するため、一度決定した補正予算案を組み替えるのは、異例中の異例です。
対象地域を全国に広げ、すべての国民に協力を求めるなら、現金給付も支給対象を限定せず、すべての国民に一律にする必要がある。そして、それが方針を転換する大きな理由になる。
一方で、一律の給付であるからこそ、全国で外出の自粛などに国民の理解と協力が得られる。
全国拡大と一律給付は、切り離せない一体のものとしての決断だったのではないでしょうか。

特に現金給付は、大きな方針転換でした。

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一律10万円は、もともと公明党や野党側が主張していたもので、自民党内にも求める意見がありました。
安倍総理は、「国会議員などには必要ないのではないか」という考えを示すなど、対象を限定することにしました。
事態を動かしたのは、公明党です。山口代表が、「対象が限定されることなどに批判が強く、国民の理解は得られない」と一律10万円の給付を迫りました。
安倍総理は、補正予算案が可決・成立した後に、さらなる対策として検討する考えを伝えました。しかし、山口代表は、あくまでも補正予算案の組み替えを求めて一歩も引かず、連立の枠組みそのものにも影響を及ぼしかねない状況になりました。最終的に安倍総理は、方針の転換に踏み切りました。
この方針転換によって、給付対象は広がり、収入が多い人にも支給されること。また、あてにしていた30万円が減ることになる人も出ることから、反発も予想されます。

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一方、野党側にとっては、もともとの主張が通った形にもなります。見通しの甘さや予算案の提出の遅れによる給付の遅れなど、政権の責任を追及する声も早くもあがっています。
また、自民党内からは、公明党の主張を全面的に受け入れたことに不満も聞かれます。
安倍総理は、17日の記者会見で、一連の過程で混乱を招いたことについて、「私の責任であり心からお詫びを申し上げたい」と陳謝しました。安倍総理にとっては、感染拡大の防止を、効果が目に見える形で実現すること。
そして、現金の給付など緊急の対策を、必要な人に漏れなく、できるだけ早く届けることが、課題であり、重い責任にもなったといえます。

緊急事態宣言の地域の全国拡大のねらいとして掲げられているのが、医療態勢を守ることです。感染が必ずしも広がっていない地域になぜ今、対策が必要なのでしょうか。

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対策をしないと、表面化する感染者が急増して、医療機関が患者の増加に対応できなくなる、「医療崩壊」が起こる危険があります。いったんそうなると、新型コロナウイルスの患者の治療だけでなく、日常的な医療にも影響が広がってしまいます。

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特に地方の中には医療態勢が弱い地域もあります。そうしたところでは、今は感染者が少なくても、患者の増加で一気に地域医療が維持できなくなることが懸念されています。

では、これからの課題を考えます。
感染は地域を超えて広がります。特に、自治体を超えた人の流れをどう抑制していくか、都道府県が個別に対応するだけでなく、隣接する地域、広域的な自治体間の連携が不可欠です。
また、国には、こうした地域間の取り組みの効果が上がるような、調整と十分な情報提供。そして、独自の対策を打ち出す自治体への財政支援も課題です。

わたしたち国民も、緊急事態宣言を、あらためて重く受け止める必要があります。
というのも、4月7日の緊急事態宣言で対象となった7都府県では、目標とされる人と人との接触を8割減らすことができていないとみられているからです。地域の商店街や公園などに人が集まる光景がみられ、また土日は外出自粛ができていても、平日は人の動きが十分減っていないと指摘されています。
人との接触を8割減らせなければ、感染者の減少に長い期間が必要になるとされています。国民ひとりひとりがもう一度、自らの行動を変えることができるか、そのことが問われています。

(伊藤 雅之 解説委員 / 中村 幸司 解説委員)


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