(神子田)
新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるため、政府が緊急事態宣言をだしてからきょうで一週間がたちました。人々の行動は変わったのか。今後の課題は何か。医療担当の堀家委員とお伝えします。
堀家さん、この1週間で、人々の行動に変化はあったのでしょうか。
(堀家)
緊急事態宣言が出されている7つの都府県の市街地について人の動きを携帯電話の位置情報をもとに見てみます。
上の段は日曜日、下の段は月曜日です。感染が広がる前の1か月の平均と比較しています。休日は人出が7割から8割減少しているのに対し、平日は5割から7割弱の減少に留まっているのがわかります。対策を考える上では8割という数字がポイントになります。専門家は人との接触を8割減らすと新型コロナウイルスは収束に向かうとシミュレーションしています。
どういうことかといいますと、普段、10人に会っていたとしたら8人とは会わないようにする、そうすれば1か月後には目に見える効果が期待できるということです。ところが人との接触の減少が65%に留まると効果が出るまでに2か月以上かかってしまうというのです。政府は、緊急事態宣言が出ている地域では人と接しないようテレワークを進め出勤する人を最低7割減らすよう求めています。一方、こうした外出の自粛だけでは不十分だというのが東京都の立場です。小池知事は「何としても8割の抑制を目指したい」と、施設や店舗への休業の要請に踏み切りました。対象はキャバレーやナイトクラブ、学習塾、映画館など多岐に渡ります。緊急事態宣言が出ているほかの6つの自治体も東京都の後を追うように同様の対応を取っています。
(神子田)
一方企業側には、資金繰りに窮する中、店を開けざるを得ないという事情を抱えているところもあります。
政府は、緊急事態宣言と同時にまとめた経済対策で、収入が前の年に比べて半分以下に落ち込んだ中小企業に最大200万円、フリーランスを含む個人事業主に最大で100万円の給付金を支給する政策を導入。しかし対策の裏付けとなる予算について政府は今月下旬の成立をめざしていて、実際に支給されるのは来月の大型連休明け以降になります。
こうした中で、政府系の金融機関が無利子の融資で支援をはかっていますが、全国の中小企業から申し込みが殺到しています。日本政策金融公庫では、本社の職員を支店に応援に出し、土日も対応していますが、それでも融資が決定したのは、申し込みの半分程度にとどまっているのが実情です。新たに導入される民間の金融機関の無利子融資も予算成立を待たねばならず、融資を受けるのにも時間がかかっているのです。
その間にも企業は売り上げが上がらないまま家賃など固定費の支払いに追われます。とにかく手元に資金が必要ということで店を開かざるをない状況だというのです。外出自粛を強め感染対策を急がなければならないとされる、まさにこれからの一か月に、企業の側は資金繰りがうまくゆかずに経営破たんしてしまいかねないという切迫した状況にあるわけです。
この問題を解決するためにも、融資などの手続きを一段とスピードアップすることが望まれています。
(堀家)
営業を続けざるを得ないという企業側の事情もあるということですね。
しかし、そうした場所に人が集まると、患者の集団=クラスターが発生するおそれもあります。いまの対策で十分ではない場合、どうするのか。休業を求めるには3段階のステップがあります。
いまは、ここ、対策を進めるための協力を要請している段階です。次は、まん延を防止するための休業の要請。そして従わない場合は指示をすることができます。要請または指示をした場合、都道府県知事は業種や企業などの名前を公表することもできます。ただこうしたさらに強い対策をとるにしても、企業側の協力は欠かせません。
(神子田)
企業への休業要請を実効性のあるものにするために、必要だと指摘されているのが、休業によって生じる売り上げ減少の補償です。
この補償について政府は、休業要請の影響は、要請に従った特定の業界だけでなく、その業界に商品などを納入するなど関連する別の業界にもひろがっていく、このため給付金で幅広く対応してゆきたいなどとして、個別の休業補償には否定的です。しかし、自治体の側では、給付金だけでは不十分だという企業の声も念頭に、休業要請と補償はセットだという考えが広がっています。
こうした中で、東京都は、要請などに全面的に応じる中小企業に対し、「感染拡大防止協力金」として、事業所の数に応じて50万円か100万円を支給する独自の方針を打ち出しました。しかし、神奈川埼玉千葉の各県は、東京のような財政力がなく、「ない袖は振れない」として、当初は、東京都と時期を合わせて休業要請を行うことに難色を示していました。本来、近隣の自治体と一体となって進めなければ効果が見込めない感染防止対策が、休業補償の問題を理由に足並みが乱れかねないところだったのです。結局、神奈川埼玉千葉の各県も、休業要請に踏み切ることになり、このうち神奈川県は、きょう、国から交付される臨時交付金を財源にすることを想定し、休業の要請に協力した中小企業などに最大で30万円の「協力支援金」を支給する方針を打ち出しました。そのほかの県も国からの交付金を財源にした中小企業への支援を検討しています。この交付金は、もともと地方創生にむけて交付されるものですが、各自治体の要望を受けて、国側もこの交付金を中小企業の支援にも使えるように制度を設計していく考えを示しています。
感染拡大防止策を実効性のあるものにするために、補償にせよ支援金にせよどういう形であれ、とにかく必要な資金がすぐにでも企業の手にわたるよう迅速な対応が求められています。
(堀家)
迅速な対応とともに留意しなければならないのが、新型コロナウイルスとの闘いは長期化を覚悟しなければならないということです。
一足早く、法律に基づかない独自の緊急事態宣言を出した北海道では2月下旬から3週間、住民に外出の自粛を呼びかけた結果、一定の効果が見られました。しかし今月に入ってから札幌市を中心に感染者が再び増加。「第2波ともいえる感染拡大の危機だ」として北海道と札幌市はおととい「緊急共同宣言」を出し、再び札幌市で学校を休校にしたほか不要不急の外出を控えるよう呼びかけました。対策に効果がみられてもその期間が終わればすぐに元通りの生活になるというのではなく、感染の波が、繰り返し押し寄せてくる。そうした事態を想定し、人と人との距離をとる、3つの密を避ける。こうした対策を続けなければならない。北海道のケースは私たちにそう警鐘を鳴らしています。
(神子田)
事態が長期化するのであれば、経済分野でも一段の対策が求められます。政府が呼びかけるテレワーク一つとっても、普及が遅れている中小企業に広げていくには、資金やノウハウ面できめ細かな支援が必要です。
さらに事態が長期化すれば、それだけ経済が落ち込み、追加的な景気対策が必要となる場面も考えられます。財政の負担も大きくなりますが、感染の収束がなければ、経済の再生もありません。限られた予算やマンパワーを、いま最優先だと考えられる課題に、集中して投じていくことが求められています。
(堀家)
日本の対策はヨーロッパなどのロックダウン=都市封鎖で行われているような罰則を伴う外出制限ではなく、あくまでも外出の自粛を要請するというものです。だからこそ、感染の拡大を防止し、医療崩壊を食い止めることができるかどうかは、ひとりひとりの意識と行動にかかっている。このことを改めて強調したいと思います。
(神子田 章博 解説委員 / 堀家 春野 解説委員)
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