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新型コロナウイルス 再開か休校継続か悩める学校現場は

西川 龍一  解説委員

新しい年度を迎えた学校の苦悩が続いています。新入生を迎えた新学期のスタートの時期ですが、いったん再開を決めたものの、きょうになって休校延長を決めるところが出るなど、学校現場は新型コロナウイルスへの対応に振り回されている状況です。

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▽再開か休校継続か苦悩する学校の現状
▽異なる地域の事情
▽学びの確保に中長期的な計画を
以上3点を中心に、この問題を考えます。

新学期直前の今月1日、萩生田文部科学大臣は、新型コロナウイルスの感染が増加傾向にある地域では臨時休校の継続も視野に入れるべきという見解を示しました。文部科学省は先月24日、政府の専門家会議の提言を受け、新学期からの学校再開は、感染症対策を徹底した上で、地域の感染状況に応じて判断するよう求め、そのためのガイドラインを全国の教育委員会に通知したばかりでした。萩生田大臣のこの日の見解にあわせ、文部科学省は各自治体が新学期以降の対応を判断しやすいようにこれを見直し、感染者がいない地域の学校も含めた一斉臨時休校の考え方を盛り込みました。
そもそも全国のほとんどの学校が春休みを前に休校に入ったのは、政府の唐突な全国一斉休校要請を受けての対応でした。その後、政府は休校要請を継続しないことを決めましたが、新型コロナウイルスの感染は、東京などで急速に拡大し、あすにも法律に基づく「緊急事態宣言」が出されるような状況です。保護者の不安が高まる中で、初めから休校継続を前提とした対応に踏み込むことができなかったのか疑問に思います。

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実際の判断はどうなったのでしょうか。新学期の直前に新たな見解が示されたこともあり、再開か休校継続か判断がさらに揺れることになりました。公立学校の臨時休校は、設置者である自治体の教育委員会が決めることになっています。感染者が急増している東京都や大阪府などは、先週半ばに都立や府立学校を大型連休明けまで休校にすることを決めました。感染者の確認されていない岩手県や鳥取県、島根県のほか、新潟県などは再開するところが多くなる見通しです。
一方で、入学式や始業式だけを行って休校を続ける学校や、いったん再開することにしたものの、きょうになって休校延長を決めたところもあります。事態の推移を見た冷静な判断が設置者に求められているのです。

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政府の専門家会議は、今月1日に出した提言の中で、新型コロナウイルスの感染の流行状況などから地域を「感染拡大警戒地域」と「感染確認地域」、「感染未確認地域」の3つに区分し、特に新たな患者数や感染経路がわからない患者数などが大幅に増加している「感染拡大警戒地域」では一斉の臨時休校も検討すべきとしています。しかし、どの区分に相当するかは、各自治体に判断が委ねられています。
子どもについては、「現時点での知見として、地域において感染拡大の役割をほとんど果たしていないと考えられる」との見解です。そして、学校について「地域や生活圏ごとの流行の状況を踏まえることが重要だ」と指摘しています。
ただ、そもそも▽換気の悪い密閉空間で▽多くの人が密集し▽近距離での会話や発声が行われるという、新型コロナウイルスの感染拡大リスクが高まる3つの条件が重なる状況が起きやすいのが学校です。文部科学省は学校を再開する際には、3つの条件が重なることを徹底的に避けることを求めています。しかし、教室の標準的な広さやクラスの人数が決められている中で、学校側の対策には限界があります。
感染者の状況は地域によってまちまちなうえ、いつ新たな感染者が出るのか、予測するのは困難な状況です。休校を判断する自治体によって情報収集能力には差があります。東京都のように市区町村ごとの感染者の状況を明らかにすることも地域の状況を知る上では必要になります。多くの判断を委ねる以上、国には、各自治体へのこれまで以上に正確できめ細かな情報の提供や助言をする責任があると思います。

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地域ごとに学校再開の判断がわかれることが現実になることで、子どもたちにとって問題なのは通う学校によって学習を受ける進度が極端に異なることが現実味を帯びてきたことです。小中学校、高校とも子どもたちの学ぶ権利を確保する必要があります。
一方で、学校によって異なる課題があります。高校の場合、例えば3年生は、進路指導の問題があります。大学進学を希望する生徒が多い高校では、3年生の新学期から本格的な進路指導を計画していたものが、大幅な見直しを余儀なくされることになります。今の高校3年生は、大学入試制度改革をめぐって英語の民間検定試験の利用や新しく始まる大学入学共通テストの記述式問題の導入が急きょ取りやめになるなど、制度に翻弄されてきた経緯があります。ただでさえ進路指導が難しくなっている中、今回の事態でさらに混乱することは避けなければなりません。
義務教育の小中学校、特に小学校は、今年度から新しい学習指導要領が本格的に実施され、英語が5、6年生で教科になることや、プログラミング教育という新しい授業の開始が出鼻をくじかれることへの不安があります。また、子どもたち同士が自ら主体的に話し合いながら探究するアクティブラーニングという新しい形の授業は、まさに子どもたち同士が密集・密着することになるため、これまで行われてきたような形で実施することは難しい状況です。
何より小中学校、高校ともに新入生は、新しく通う学校の様子がしばらくわからず、担任やクラスメートのこともほとんど知らない状況が続くことで、精神的な不安を抱えることになりかねません。休校を続ける学校には、こうした子どもたちへの連絡を密にすることや、感染リスクを減らすため、学年やクラスごとに時差を設けながらの登校日を設けるなどの対応が必要です。そうした際に、教職員についても感染しないような対策を取るべきなのは言うまでもありません。

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こうした中で文部科学省に求めたいのは、感染拡大がいつまで続くのか、中長期的な状況を見据えてそれぞれの対策を今から講じておくことです。
休校が長引く中で、タブレット端末などを使った授業に以前から取り組んできた学校の中には、休みの間も生徒と毎日オンラインでつないで健康状態や宿題の進捗状況を確認したり、オンラインで授業を行ったりしているところもあります。
こうした環境を全国の小中学校で整備するため、国は昨年度の補正予算に2318億円を計上し、3年かけて1人1台の端末を整備するなど、学校のICT化を進め始めた矢先でした。今回の事態を受けて、政府内には計画を前倒しして早急に端末を配備するべきとの意見が出ています。一方で、端末を使った学びにはオンラインで端末を結ぶ必要がありますが、家庭によってインターネットの利用環境が異なり、格差への対応が深刻な問題になる可能性があります。中学生だけでも320万人分の端末を揃える必要がある中で、短期間にすべての端末の調達が可能なのかという現実的な課題も指摘されています。端末を使えばすべての課題が解決できるわけではないことも知る必要があります。

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新型コロナウイルスの感染拡大は、先が見えない状況が続いています。場合によっては1学期の授業ができなくなるという最悪の事態も想定し、そんな中でも学べる環境をどう作っていくのか、知恵を絞っていく必要があります。

(西川 龍一 解説委員)


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