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「新型コロナウイルス 学校再開へ課題は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大が東京オリンピック・パラリンピックの延期にまで波及する中、4月の春休み明けからの再開に向けて多くの学校が動き出す見通しとなりました。政府の全国一斉の休校要請が継続されないことを受け、文部科学省は各学校が再開の是非について判断するためのガイドラインを作成し、全国の教育委員会に通知しました。

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▽ガイドラインの要点
▽休校要請の効果はあったのか
▽懸念される子どもたちへの影響は
以上3点を中心に、この問題を考えます。

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政府の要請を受けて3月2日以降次々に休校に入った全国の学校は、今週末までにそのまま春休みに入ります。新年度を迎え入学式や授業をいつから始めるのか、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる状況が変わらない中、全国の学校が難しい判断を迫られているのが現状です。今回のガイドラインは、その学校の判断を手助けするためのものです。
ガイドラインのポイントは、学校でも感染症の拡大リスクが高まる3つの条件、▽換気の悪い密閉空間で▽多くの人が密集し▽近距離での会話や発声が行われることが重なることを徹底的に避けることです。このため、教室などでの換気を励行することや、授業などで近い距離で会話をする場合のマスクの使用を求めています。また、入学式などの学校行事や部活動を行う際にも3つの条件が重ならないよう対策をとるなどとしています。
一方、学校再開後、新型コロナウイルスへの感染者や濃厚接触者と特定された児童・生徒は、出席停止の措置をとること。児童・生徒や教職員に感染者が出た場合には、症状の有無や地域での感染拡大の状況などを総合的に考慮し、学級閉鎖や臨時休校を判断すること。新たな臨時休校を行う際には学習に著しい遅れが生じないよう、家庭学習を課すことや登校日を設定することなどとしました。
新型コロナウイルスの感染拡大は収束した状況ではなく、今後の事態を予測することは不可能です。このためガイドラインは、新学期に学校を再開しても、その後の状況次第で、学校や教育委員会が新たな判断をする必要があるため、その対応についても示した形です。

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ただ、内容的には従来のインフルエンザなど感染症が流行した際の対応と大差はなく、そうした規定を改めてなぞったにすぎません。マスクの使用を求めるとしても、全国的にマスク不足が解消する見通しが立たない中、購入できない児童・生徒をどうするのかという課題も残ります。
出席停止の措置にしても、文部科学省はすでに先月25日、感染者と濃厚接触したと認定された児童生徒は、接触日から2週間の出席停止とすることも示しています。その後政府が全国一斉の休校を要請した時点と要請を継続しないことを決めた時点とで感染拡大の状況は何ら変わっていないのが実状です。文部科学省は、ガイドラインとあわせて学校再開に向けたチェックリストも公表することで、学校がガイドラインに沿った対応状況を判断できるようにしたとしています。千葉県成田市や沖縄県など、国の休校要請中でも、その後新たな感染が確認されなかったことなどを理由に小中学校の授業を再開したところもあります。スムーズな再開に向けては、こうした自治体の判断も参考にする必要があります。
政府の専門家会議が国内の新型コロナウイルスの感染の広がりについて「持ちこたえているが、一部の地域で拡大が見られる」との分析を示す中での再開となるだけに、学校がある地域や保護者が納得できるような運用が必要です。

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全国一律の休校が必要かどうかは賛否がありましたが、政府の要請を国内の99%の小中学校や高校が受け入れて臨時休校に入りました。では、新型コロナウイルスの感染拡大に対する効果はどうだったのか。今月19日に公表された政府の専門家会議の状況分析では、「学校の一斉休校だけを取り出し、蔓延防止に向けた定量的な効果を測定することは困難」とした上で、「確たることは言えない状況」との見解を示しました。今回の唐突とも言える政府の全国一斉の休校要請は、小学校低学年の子どもを持つ保護者を中心に、仕事を休まざるを得なくなったり、思うように休暇が取れなかったりという事態が相次ぐなど、保護者の負担が大きな問題としてクローズアップされました。安倍総理大臣は、自らの政治判断で要請したと明言しただけに、効果とメリット、デメリットを踏まえ、今後さらに分析を続ける必要があります。

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一方で、春休みも含めると1か月以上とこの時期異例の長期休暇となった子どもたちにとっても見過ごせない影響が懸念されています。▽子どもたちにとって大切な学年末の学びの機会を奪うことになったこと、▽想定外の長期休暇で子どもたちの生活リズムが崩れてしまうことです。

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まず、「学年末の学びの機会」についてです。学年末の3月というこの時期に今回の休校措置で、多くの子どもたちはほぼ2週間分の学びの機会を失いました。この時期、教科書の内容はほぼ学び終えているところがほとんどだと言います。ただ、そうした1年間の学びの総まとめとして計画していた授業や特別活動ができず、尻切れトンボになったと話す教員もいます。一方で学校によっては、教科書の一部について学習しきれなかったところもあります。特に中学校は、複数の小学校から進学することが多いため、新1年生に学習状況がバラバラな生徒が混在することになる可能性があります。この点については、ガイドラインでも各学校に的確な対応を求めていますが、小中学校が連携して補習をするなどの対応が必要になります。

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さらに重要なのが「子どもたちの生活リズムが崩れる」ことです。同じような長期休みと言っても、夏休みと違って突然やってきた今回のようなケースでは、学校も家庭も長期休暇中の子どもたちの生活リズムを崩さないための事前の準備ができません。特に今回は、感染リスクへの懸念から、図書館などの公共施設や遊園地などの娯楽施設も休みとなりました。公園で遊ぶことについても、「新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休校になっているのに外で遊ぶことはおかしい」との誤解が広がり、子どもたちもストレスをため込む状況です。休校が長引くことを見越して、塾などに通わせるという選択肢もありますが、地域によってはそうした施設がないところがあるほか、通わせるか通わせないかは家庭の経済的な事情にも左右されることになります。長い休暇の中で、中には学習への意欲の低下や運動不足、食生活の問題などを抱え、成長過程でのバランスを崩している子どもがいる可能性があります。こうした影響は、休みが長期化するほど家庭環境によって格差が大きくなることも専門家から指摘されています。新型コロナウイルスの感染防止策はもとより、こうした影響が残らないような対策を講じることも文部科学省には求められていると思います。

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萩生田文部科学大臣は、今回のガイドラインの公表にあたって「新型コロナウイルスの感染拡大は峠を越えたわけでも収束に向かっているわけでもなく、学校の再開は警戒を緩めるものではない」と強調しました。全国一斉の休校要請を継続しないことが、日本はもう安全だという誤ったメッセージを伝えることになることはあってはなりません。一方で子どもたちの健康を守りながら教育を受ける権利も守るには何が必要か。地域によって感染の拡大状況が異なる中で、各自治体がそれぞれの課題を洗い出しそれに対処することがこれまで以上に重要になります。

(西川 龍一 解説委員)

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