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「関電問題 背信行為はなぜ続いたか」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

電気代を払ってきた消費者への背信行為は30年も続いていた。
関西電力の金品受領問題は、第三者委員会の調査で、人数金額とも大幅に増え、関電が業者の工事受注に便宜を図っていたと認定。
関電が業績悪化でカットした役員報酬をひそかに補填していたことも判明。電力供給を担う公益企業としてのガバナンスは完全に崩壊。
なぜ背信行為が長年続いたのか、原発・電力会社への信頼が再び大きく揺らぐ事態となった関電問題の背景について水野倫之解説委員の解説。

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まずこの問題の構図。

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関電幹部が高浜原発のある福井県高浜町の森山元助役から多額の金品を受領。出どころは関電が工事を発注した建設業者。元助役経由で原発マネーが幹部に還流していたのではないか、業者に便宜を図ったのではないか疑惑。

元検事総長の但木敬一委員長らで構成される第三者委員会は、社員2万人に報告を求めるなどして最終報告をまとめ、常軌を逸した関電幹部と地域の有力者の関係を明らかに。

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まず金品授受は30年続き、関電の幹部ら75人が、現金や金貨・腕時計など3億6000万円相当を受け取っていた。
なぜ30年も続いたのか。委員長は元助役が関電の暗部を握りモンスター化していったと。きっかけは1970年代の高浜原発3,4号機の増設。

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関電側が町長の側近だった元助役に、反対する漁業者の説得工作を依頼、町長側に金を振り込んで関係が始まり、関電が地元業者とトラブルになれば、元助役は関電に業者の土地を高値で買い取らせる仲介。
こうしたトラブル処理を通して、元助役は「関電の弱みを握る人物」となり、関電は元助役との「共犯関係」から抜けられなくなったと報告書は指摘。

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その後元助役は業者からの手数料などを元手に関電幹部へ金品攻勢をエスカレート。その目的について、報告書は「関電に関係業者への発注を行わせ、経済的利益を得るためだった」と指摘。関電も業者に工事発注の便宜を図っていたと認定。
その証拠が第三者委員会が復元したメールのやりとり。

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例えば2012年高浜原発の所長から原子力事業本部長へのメールには、元助役から「『いい話をもってこい』と再三工事の要求。
4000万円の工事約束したが物足りない様子。
さらに6000万円の工事を出す予定」との記述。

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その3日後のメールには元助役から「今回はこの程度にしておいてやる」と言われたことが記され、実際に工事が発注されていた。

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こうした便宜供与は120件以上、関電から業者へ渡った工事代金・原発マネーが、元助役を通じて関電幹部に還流されていた実態。
工事代金は元は消費者が払った電気代でもあるわけで、消費者への背信行為が常態化。
報告書は、便宜供与で競争が行われず関電の利益が損なわれるおそれがあったと指摘。違法性も疑われるが、委員長は元助役が死亡していることもあり、「刑事告発は難しい」との認識。
ただ、市民団体が会社法の特別背任などにあたるとして役員らを大阪地検に告発しており、今後司法を通じた責任追及がどこまで及ぶのかにも注目。

このように関電は、電力供給を担う公益企業としてのコンプライアンスやガバナンスが完全に崩壊。

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その背景について報告書は経営陣が内向きで社内事情ばかりを優先し、電気代を払う消費者目線が全くなかったと。

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その最たる例で、私が最も問題だと思うのが、役員報酬の補填。
今回の調査で金品の受領問題とは別に、関電が業績悪化によりカットした役員報酬をひそかに役員に補填していた。
福島の事故を受けて関電も原発を停止したため業績が悪化、役員報酬の一部がカット。その後電気料金の値上げや社員の給与カットで業績が回復したことを受け、関電は退任した当時の役員18人に対して、去年10月まで2億6000万円を補填。
このうち、原発担当を長くつとめ元助役から1億円相当を超える金品を受け取っていた豊松元副社長は毎月90万円の補填を受けた上に、金品受領で修正申告し納税した分まで会社が払っていた。
関電は「経営が苦しかった時に改善に尽力したことを考慮した」と説明。
しかし私は関電が補填する相手を完全に間違えていると思う。
業績が回復したならまず支払うべき相手は高い電気代を支払わされた消費者。
まっさきに電気代の値下げで還元しなければ。
また今回、一般の社員は補填されず、経営陣だけが優遇。自分たちさえよければよいという関電経営陣のこの対応は、消費者のみならず社員への背信行為。

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関電は今回、岩根社長が辞任し、金品を受け取っていなかった副社長の森本孝氏が社長に就任する経営の新体制を発表。空席の会長は外部から登用する方針。
また今後元役員たちにも補填した分の返還も求める。

しかしこれで問題の幕引きを図り、これまで通り原発の運用ができるというなら大間違い。金品の授受に関与した社員の多くは原子力事業本部の社員。まずは病根となった原子力事業本部を改革することが不可欠。

関電は大阪万博の頃に大手電力の中で初めて原発の運転を開始し、2000年代初めには発電量の65%を原発が占める原発のいわばトップランナー。
これに加えて原子力は難しい技術を扱うため高度な知識が必要とされ、原子力事業本部に配属された社員はエリート扱いされていく。
ただ技術が特殊なゆえに、ムラ社会が形成されやすく、徐々に外からの声が届きにくくなっていく。
これに加えて2004年に美浜原発で作業員が死傷した蒸気漏れ事故が起き、本店にあった原子力事業本部が福井県美浜町に移転。以降本店のコントロールがきかず、独立王国のようになっていったと。

でも独立王国のままでは原発の安全性が危ぶまれる。電気を使う消費者のことを考えず、自分たちの理屈ばかりを優先していれば、原発の経済性ばかりが優先されいずれ安全性がないがしろにされるおそれ。

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まずは他の部署との人事交流を活発にするなどして原子力事業本部の透明性を高めていかなければ。そうすることで本店にも原子力に通じた社員を配置できる。その中から事業本部を担当する役員を選ぶなどして、事業本部に対するガバナンスを強化していかなければ。
さらに原発を運転するには地元の理解を得ることが必要。
その点関電は地域の有力者頼みで進め、住民との対話が欠けていたわけで、あらためて地域住民に対し、今回の問題と今後の対応策を説明し理解を得る活動を進めていく必要。

こうした対応によって原子力部門を全面的に作り直していく、それができないのであれば、原発の運用はない。関電の経営陣はこのことを肝に銘じて対応していかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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